異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第四十七話

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 そうだ!
 闇の女神アイディスについて聞く前に、アイリスさんで気になった事があったんだ。

「アイギスさん、『僕からアイリスさんのなごりがする』とは、どういうことですか?」
「かかるなりにても、ノボルは寒からざるや?」

 そうだった! 僕は全裸のままだ!
 そう言われれば、寒さをあまり感じない……?

「光の牢獄の『着られず』の呪を、『着ずとも』の祝に書き改めしと覚ゆ。それぞ妹のなごり」
「確かに……、祝福って言われましたね……」

 そうだった。
 アイリスさんのシーツじゃなくて、檻の中は白い空間で、裸のアイリスさんに抱きしめられて祝福して貰ったんだ。

「ほう! 聖女の柔肌味わいしかば、事の運びぞ疾し!」
「えっ! 何で!? ノルは、節操無しなんです!?」

 ええと……? どうして、アイギスさんに外堀を埋められて、ケラニに叱られる流れになったんだろう……?
 うーん? こういう場合って、謝るのは違う感じがするし、何を言っても言い訳がましいし、言わなくても黙認になる……?

「うーん……。これは……、僕の問題でしたっけ……?」
「ふっふ……! 今はこのあたりにて止め置かん。さて、姉の話にてありしや?」

 アイディスさんは、「闇の忘却」を掛けられたのだとか。
 本来は、神と人との対立を解消する為の措置だそうだ。

 双方の記憶に干渉して顔に陰を掛け、思い出せなくする事で遺恨を無くすものらしい。
 糞女神はこれを、「光ある所で陰となり、闇にあっても陰とする」呪いとし、つまりは、アイディスさんを誰からも見えなくしたようだ。

「もとより内気なるさがなれば、かえって悦びさへしけれども、いと清らにして物静かなる、小さき美形と聞けば 、解き放ちたしと心ざし湧きぬや?」
「え! 僕が、ですか!?」

 どうだろう? どこに居るかも分からないアイディスさんを冥界で探して呪いを解く……?
 僕の手に負える問題じゃないと思うし、本人が望んでないことに口を挟むのも……。

「ノボルよ。夜の雫の元凶を鎮めずば、嗜好品産業とて険しくならん。アルティスとて、いかなることに相成るや……」
「それは分かりますが、僕に出来るとは思えません……」

 言下に否定したアイギスさんがヘビで方角を示した。
 さっき僕が魔女術の実験をして、スモーキークォーツのような物を作った場所だ。

「あれぞ良し! 冥闇物質の濃きことを増さば、異界の闇石に劣るまじき!」
「め、冥闇物質です……?」

 ケラニも知らない言葉で、冥界の空気に含まれる物質を指すらしい。
 どうやら、アイディスさんは、冥界の空気を飛ばし、夜の雫として降らせていたようだ。

「……冥闇物質を含むスモーキークォーツっぽいのと、黒曜石が一緒……?」

 黒曜石の主成分は石英シリカで、着色成分は酸化鉄だ。
 あのスモーキークォーツっぽいやつの着色成分が冥闇物質だとすると、主成分は何だろう……?

「氷化石によし。馴れし物に替へらるる。あれぞかかる本性ほんせいを具すればこそ」
「僕が普段、半貴石を加工してたから、シリカに変わった……?」

 この世界にはシリカが少ないそうだけど、アイギスさんは詳しくないとのこと。
 ノームやノッカーが詳しいらしいから、後でルカさんに聞いてみよう。

「その濃度の高いものを僕が作れたとして、アイディスさんの呪いを解くことと、どう繋がるんですか?」
「ただちに解呪に至らずも、矛を収めしむるに足れり」

 うーん? 分からない……。
 ケラニも首をひねってるって事は、この世界の常識ではなさそうだ。

「あ、ひょっとして……! 冥闇物質の結晶だから、冥闇結晶と略しますが、僕がそれを作ってアイディスさんに捧げるんですか?」
「さにあらず。冥界に至る門ぞ築きて、まずオーグを帰らしめよ」

 冥界に至る門……? あ、思い出した!
 ケレンの言ってた「光届かぬ物と冥界とを繋ぎ」が門だ!

 すると、人が通れる大きさの冥闇結晶を作れば良いんだ!
 それには、「高さと幅」が必要だから、魔女術で言う「深さと範囲」!

 あああ……。
 でも、それは、レベルが高くないと出来ないんだった……。

「ふっふ……! さようのノボルに、私が力ぞ添えむ!」
「……でも、代償ですよね……? うーん、やっぱり、他の人に任せた方が……」
「ノルなら出来るです!」

 そう言って、目を輝かせ、僕を見上げてたケラニの瞳が、今は闇石の如く光を反射していない。
 グッポ、グッポと音を立てるアイギスさんを表情なく見てるからだ。

 アイギスさんが要求した代償は、ストレートに「しはぶらせよ!」だった。
 僕とケラニが首を傾げる間もなく、複数のヘビが僕の腰に巻き付き、アイギスさんの顔の前に引き寄せた。

「アイギスさん! 何を……!? あっ!」
「とみに果つ」

 言葉どおりだった。
 根本まで嚥下される未知の刺激に奮い立ち、吸い込まれながら、ヘビで引き離される運動に、耐え続けられなかったから……。

「見るに違はぬ妖刀なりける! いと愛らしきおもてに似ぬ、荒振るさまよ! 鼻より迸らんほどの量にこそあれ!」
「アイギス様、チーンするです……?」

 短く「無用」と言うと、複数のヘビが、アイギスさんの顔を覆って綺麗にしてるようだ。
 ヘビ達が戻ると、さっきまでの動作をしてたとは思えない上品な佇まいに戻った。

「私の表裏ギャップぞ欲しなば、いつにても与えむ!」
「じ、自分だって、先っちょくらいなら……! な、何でもないです……」

 まだ、腰がガクガクしてるから座り込んでしまったけど、何をするんだっけ……?
 ちょっと虚脱感も尋常じゃないし、続きは起きてからにしようかな……。

「うむ。寝ぬがよからむ。周囲のことは、私の髪にて足りぬる。ケラニも眠たまへ」
「ノ、ノル……。一緒に寝ていいです……? エ、エッチなことはしないですから!」

 僕はのそのそと毛皮に入り、ケラニが入れる隙間を開けて招いた。
 小さなケラニの背中を抱いて寝るのは、予想以上に安らぐ。

「妹ってこんな感じ……?」
「……兄の体に発情する妹も、その妹を全裸で抱えて寝る兄もいないと思うです……」

 そうか……、残念。
 ケラニみたいな妹がいたら毎日楽しいだろうに……。
 そんな夢を思い描くうちに眠りに落ちた。
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