世界に1人だけの魔物学者

ベルリン

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第1章 迷宮案内人ローラン

糞まみれ

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「じゃあまずは…そのフローラルな香りを消さないとな。」

「消す?どうやって?」

首を傾げているナタリアをよそに俺は空洞の壁を見渡す。

「あった。これこれ」

レッサーバットは床だけではなく壁に向かっても排泄をする習性がある。

レッサーバットの群れに潜入するなら結局のところコイツが一番効く。

俺は糞尿のカケラを摂取していき、持っていた水と混ぜ合わせる。カピカピになっていた糞尿は水に溶け出し濁った液体となった。
ポーチから泡石を出して砕いて混ぜ合わせる。泡石はある程度の殺菌と泡立ちをよくする作用がある用は洗剤の素だ。
液体を試験管に入れてしばらく振ると、茶色の透明感のある液体が精製された。

必殺竣工 うんちシャンプーの完成だ。

「おい、ナタリア。これ全身に塗れ。」

「ん、何ですかこれ…って臭!!」

試験管に顔を近づけたナタリアは悶絶しているようだ。

「うんちシャンプーだ。体には害はない。…多分。」

「嫌ですよ!嫌ッ!嫌ッ!絶対!」

彼女は乙女のプライドなのか断固拒否の姿勢をとる。

「これは一番簡単に臭いを消す方法なんだ。香水の匂いは他の魔物も呼び寄せるが、レッサーバットの糞の匂いじゃこの階層のモンスターは反応しない。」

「…ぐぬぬ」

ナタリアは依然しかめっつらをしている。

「それとも何だ?糞の匂いが嫌だからって仲間を見捨てるのか?」

「それは!………わかりまし」

「よし」

「っきゃ!!」

ナタリアからの了承を得るや否や俺はうんちシャンプーを手に馴染ませナタリアの髪、頬、腕、足、そして服に
つけていく。
花畑のような乙女の匂いは俺の手捌きによって一瞬にして糞の臭いに変わった。

「一皮剥けたな」

「私ちょっとあなたのこと嫌いになりました。」

ジト目で恨み言を言ってくるが知ったこっちゃない。時間が無いのだ。

「じゃあ向かうぞ。この臭いのおかげでだいぶ奴らに気付かれにくくなるはずだ。蘇生の条件は知っているか?」

「えっと、蘇生は神殿や教会等の神聖な術式を施してある場所でしか行えず、蘇生の成功率は肉体の損傷が少ないほど上がる。ですよね。」

「あぁそうだ。もっと言えば、肉体の損傷と言っても腕の切断などの切り傷はあまり蘇生に影響を施さない。しかし焼けて炭と化していたり腐っていったり、体の大部分が損失していると途端に神聖蘇生術の成功率が落ちる。」

俺が遺体の回収を急いでいる理由はそこにある。

「レッサーバットは獲物を細かく分けて保存する習性がある。それに保存場所は一箇所では無い。君の仲間の奮戦具合によるが遺体の回収と蘇生が困難になるかもしれない。」

「それじゃ…」

俺の言葉を聞いたナタリアは顔を落とし、歩みを早めた。
俺は俺を追い抜こうとするナタリアの肩をつかむ。

「かといって、急ぎすぎるのはもっと危険だ。
魔術師が前衛に出るな。」

「…はい」


歩き始めて数分経った頃。洞窟の壁が段々と淡い青色に変化してきた。
この青色は青ヒカリゴケといい綺麗な水場の近くに群生するコケだ。
青ヒカリゴケは第二層に最も群生しており、コイツを見かけるということは一層も終わりかけということだ。

「えらい遠くまで逃げておるようだな。」


今まで通ってきた道は一本道のためレッサーバットの大群を撒けた…という事はないだろう。

「俺自身はレッサーバットの巣の方面から第二層へ入る事は少ないので、地形をそこまで覚えているわけではないが、この先にに無数の穴のある広場があるはずだ。」

「俺の予想ではそこに仲間がいる可能性が高いと思う。」

「…!」

ナタリアの表情が少し明るくなる。

「が、レッサーバットの大群にも近いという事だ。油断せずに進むぞ。」

「はい」





改めて数分歩くと視界が開けてきた。




円形のドーム上の広場に足を踏み入れる。足元には2~3m程の直径の穴が5~6個空いておりここが第二層へと繋がる入り口となっている。
天井は真っ赤な岩石、床は青いコケが繁茂しているこの空間は何とも特殊であった。

俺の予想に反してレッサーバットの大群は見当たらなかった。

「……あそこに倒れているのはお前の仲間か?」

俺は数十メートル先のドームの淵に倒れ込んでいる人影を見つけた。

「あ、あれは!間違いありません!そうです!!」

人影を見るや否や走り出したナタリアを手で制止する。

「急ぐな。」


入念に周りを警戒し、人影の方へ進む。

すると、ところどころにレッサーバットの死体が見受けられた。

彼女の仲間が倒したのか…?
いや、それにしては傷跡が…

レッサーバットの死体はどれも抉れるように欠損しており、剣や魔法の類の仕業ではないことは確かだ。

…うーん。第二層から迷い込んだ魔物の仕業か?いや第二層にこんな凶暴な魔物は居ないはず。


とりあえず、周りに魔物の気配がしないので人影へと直行することにした。


「あぁ…あ、ペンタクール……」

「死んでるな。」

人影と認識した物体は女の死体であった。
黒いポニーテール、革のベストに白いズボン、そこらに転がっている武器は槍のようだ。

「死体の状態を見る。離れてくれ。」

俺は手袋をはめ女の身体を起こす。

「顔…欠損なし。腕、咬み傷2つ。脚、大きな裂傷ありついでに大きく折れている。胴は…ベストが無事なことから大きい傷はないだろうな。」

彼女の周りを見る。彼女の近くの穴から血をひきづったような跡が見られ、彼女の元で大きな血の池を作っていた。

「穴から這いずった後を見るに戦闘しながら転落し、復帰したが失血死って流れか。」

「ナタリアは死体回収屋の仕事を見たことあるか?」

「いえ…」

「死体回収屋は迷宮で見つけた死体を神殿へ運ぶことで生計を立てている。そんな彼らが死体を効率よく持ち帰る方法を今からとる。覚えておいて損はないから見ていろ。」

俺は死体を仰向けに起こし大の字の形に直した。俺が腰から剣を抜き、彼女の肩と腕に刃をかけ…体重を乗せた。

刃は止まることなく滑り、骨を一瞬にして切断する。

「ッ!!」

ナタリアは突然の解体作業に狼狽している様子だった。

「死体回収は四肢をいかに綺麗に切断するかが重要だ。
死体は重いのでバラすと持ち運びやすくなる。切断面が滑らかであればある程、素性に影響を及ぼさなくなる。」

「右腕と右足には左右確認のためにインクで印をつける。」


俺は流れるように四肢を切断し、印づけを行なった。

「あとはこの黒い袋に手足を、もう一つの袋に体を入れる。この黒い袋は死体袋になっている。」

「……」

さすがに仲間の解体作業は刺激が強すぎたのかナタリアは手を口に当て口をパクパクとさせていた。


「あー…、すまないな。時間がなくて心の準備をさせてなかった。」

「レッサーバットの大群がどうして消えたのか疑問だが今は素性が優先だ。早く撤収するぞ。」


「じゃあ袋は俺が持ってくからナタリアがその槍を持っていってくれ。」

「はっはい。」

地面に転がっている槍を指差し、ナタリアに拾わせた。

ドームの入り口へ向かいながら少し思案する。

何故レッサーバットがこの女を捕食していないのか。
レッサーバットは敵を仕留めたらすぐ捕食する習性がある。 なのであんな風に放置されていることは珍しいのだ。

ふとレッサーバットの死体に目をやる。どれもこれも奇妙な咬み傷のような傷があった。
この傷…どこかでみたような…。

…!!まさか!!


俺は咄嗟に足元にあったレッサーバットの死体を裏返す。

「…やっぱり!」

レッサーバットの死体の背中は、溶けたように黒ずみ、無くなっていた。このような傷は強力な酸性の液体で生じる。

迷宮「ギルドクライン」で酸性の液体を扱う魔物は一種類しか居ない。

さらに下層の魔物が上層でも見られるという噂

間違いない。犯人は4層に住む危険生物
古代百足アースロプレウラ
7~8mを超える巨大なムカデだ。

コイツは生き餌しか食べないため、ペンタクールと呼ばれるこの死体は喰われなかったのだろう。

代わりにレッサーバットの大群の一部が喰われたのだ。
レッサーバットが居なかったのは格上の相手に逃げたから。幸か不幸か化け物によってこの子は助けられたらしい。



ちょうど、ドームの入り口に入り一本道に入るところだった。

ピチャン!という水音が背後から鳴った。そしてすぐさま、シューーという地面が溶ける音が鳴った。

ナタリアが振り向いたのだろう。

「キャァァァァァァァァァァ!!!!」

甲高い悲鳴がこだまする。

今日はとことんツイてない。

巨大ムカデと戦闘開始だ。















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