世界に1人だけの魔物学者

ベルリン

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第2章 迷宮の異変

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メヴィアウルフの気迫といえば凄まじい。その赤黒いまなこで少しでも怯んでしまったら最後、獣の瞬発力で首に牙を突き立てられる。

4頭の狼達はジリジリと滲み寄ってくる。以前の私なら怯んで魔法を唱えられなかっただろう。しかし古代百足アースロプレウラの方が数倍デカいしおまけに数十倍キモいかったのだ。

少なくとも体は動くし、魔力は十分だ。

手に魔力を込める。杖に行き渡るのを確認する。
まだ…まだ…もっと惹きつけて…

「ギリギリになったら撃ちます。」

狼のうち後ろから一頭、前から一頭が飛びかかってくる。
狙いは術者の私だ!

狼は宙を巻い、ペンタクールとシモーネを飛び越えた。

やがて狼の鋭い牙が私の首に襲いかかり…

「今だ!閃光フラッシュ!!!」

赤くギラついた光が二頭の狼の眼に直撃する。狼は宙で怯み体が屈折する。
すかさずペンタクールが宙空を一突き。
二頭の狼の串刺しの完成だ。

「次来るぞ!」

シモーネが叫ぶ。前方から狼がペンタクールに向かって襲いかかる。ペンタクールは今、突き刺していた狼を槍から取り外したところで迎撃準備ができていない。不味い!!

私は杖に魔力を込める。何の魔法!?閃光フラッシュは見られた!風の渦ボルテックスは?嫌、みんなを巻き込む。ここは…

ペンタクールは右の籠手で狼の牙を受け止める。ペンタクールは顔をしかめている。やはり籠手じゃ防げない!

「起こりの火、始まりの炎。神より盗みしこの力。悠久の時を経てここに顕さん。」

空気が変わる、古ぼけた暗い空気だ。

狼はそれに怯んだのか、籠手を噛む力を緩めた。ペンタクールはそこを見逃さず、狼を地面に叩きつけた。

炎塊イグニス!!」

私は魔法を唱える。失敗するのはわかっていた。だからとてつもなく至近距離で、ありったけの魔力を。

ボカンと何かが爆ぜる音、そして大きな衝撃が身体に伝わってくる。

杖先から出た魔力は渋滞を起こし狼を巻き込んで暴発…つまり爆発したのだ。

「後ろはっ!?」

ペンタクールの叫び声のつられ私も後ろを見る。

シモーネと組み合っていた狼は私の魔法に驚いたのか後ろに飛び退いた。すかさずシモーネが持っていたナイフを一本投げる。

直線を描いてナイフは狼の首元へ突き刺さった。狼は数秒固まり、やがてドサっと地にふせた。

私たちの勝利である。


「すげぇな。魔術って」

シモーネは狼から受けた傷の血を拭いながら呟く。

「シモーネは魔術見るの初めて?」

私はペンタクールの籠手を外しながら問いかける。籠手は牙でぐちゃぐちゃだがどうやら中は大丈夫らしい。優秀な籠手だ。
ペンタクールは手をグーパーして動きを確かめている。

「え、いや、うん。そうだけどどうしてわかったんだ?」

「んー何となく?」

「おい、今君、僕のことを田舎者だと思ったろう。」

「思ってませんよ~はいはい傷見せて?」

魔術をしっかり学ぶためには資金や時間などハードルが高いので学べない人はたくさん居る。決して馬鹿にしているわけじゃないのだ。

「うわ、痛そう。横になって?」

私はシモーネを横に寝かせ傷を見る。鼻から頬にかけて引っ掻き傷が入っており、腕にも取っ組み合ってできた傷がちらほら見える。

「いいよ、自分でやるから」とバツが悪そうなシモーネ。

「怪我人は黙ってなさい。」

私はシモーネに膝枕をした。

「ちょっ」

シモーネは抗議の声を上げるが関係ない。ナタリアは知っていたのだ。うぶな男子が膝枕されたら固まって動けないことを。

「ナタリア、これを。私がやってもいいのですよ?」

「ペンタの方が私より見張りに向いてるでしょ?」

「まぁ…そうですね。」

ペンタが酒と軟膏を持ってくる。気が効くやつめ。
私は布に酒を染み込ませ、傷を消毒した。

「痛たたた!染みる染みる!」

シモーネが暴れて起きようとしたがすかさず太ももロックを決める。

「ふぎゅっ」

情けない声を上げ耳の先が真っ赤になった哀れな少年。
そんな彼の手当を数分間行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…さっきはありがとう」

30分ほど歩いてナナツユクサの群生地を見つけ、収穫していたところシモーネが声をかけてくる。

「どういたしまして。もっと素直になってもいいんですよ?」
ルナさんっぽいシスター口調を真似してみる。

シモーネはふいっと横を向いて黙々と作業をしてしまった。ケツの青い餓鬼め。

ペンタはというと尻の青い餓鬼が尻の青い餓鬼に無視される光景が微笑ましかったのか、ずっとニヤニヤしていた。


結果帰り道は何事も無く組合ギルドへ辿り着いた。
私たちは小鬼ゴブリンを23体、メヴィアウルフを4頭、ナナツユクサを30株採取という上出来の結果になった。

組合ギルドに報告し終わるとシモーネが口を開いた。

「じゃあ、俺はこの狼の素材を売ってくるから。次パーティー組む機会があったらまたよろしくな。」

シモーネが最後に仕留めた狼は頸動脈をナイフで貫かれているだけで、状態の良い死体だったので持って帰ってきていたのだ。

私たちはシモーネへ今回の報酬を山分けし別れを告げた。

「ふぃ~疲れたなぁ。ちょっとは強くなった?私。」

「お嬢様は強くなっていますよ。私を守ってくださいましたし」

「うーん、でもやっぱ炎塊イグニスがなぁ。どうにも上手くいける気がしない。」

「一歩一歩進んでいけば良いのです。」

ペンタクールはそう言って組合ギルドの酒場の方へ行った。

「その…私、組合ギルドで飲んでみたいのですがよろしいですか?」

急にモジモジし出しバツが悪そうな顔をするペンタクール。
そうか…ペンタクールって堅苦しい騎士の出だからハメを外すしたことが少ないのか。いや、私もだけど。

「…。勝利の祝杯といきますか!」

私は彼女の手を取って酒場の中へ駆け込んだ。




…結果、未成年だからってみんながお酒を飲んでいるのを数時間シラフで見る羽目になった。ちくしょう。




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