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60、正妃になって初めての夜です
しおりを挟む昔話を聞いたイレーナは仰天し、慌ててヴァルクに謝罪した。
「申しわけございません! 知らなかったとはいえ、ヴァルクさまに残飯を食べさせるなんて……しかも、そんなスープの分け方をして……」
「あのときはそれが最善の方法だったのだ。誰かのスープを与えたら、その誰かは食べられないだろう。幼子にしてはよく思いついた」
ヴァルクはけろりとして言った。
しかし、イレーナは恐縮している。
「ああ、私はとんでもないご無礼を……」
「お前は気にしすぎだ。だが、まあ無礼の償いをしてもらうのも悪くない」
「はい。何をすればよろしいでしょうか?」
不安げな顔で見つめるイレーナを見て、ヴァルクはにやりと笑った。
彼はイレーナを抱き寄せて、その顔を近くでじっと見つめた。
「ずいぶんと長くご無沙汰のようだ」
「えっ……あ、はい。怪我が治るまでは安静にとヴァルクさまが言ってくださったおかげで」
「だが俺はもう我慢できない」
「ええっ!?」
ばたんっと勢いで押し倒されてしまった。
こうなることはわかっていたが、それでもイレーナはドキドキしている。
(どうしよう。久しぶりだから緊張するわ)
とはいえ、まだ行事は終わっていない。
明日も早くから多くの人と会う予定になっている。
「あ、あの……いろいろ、今は(心の)準備が……」
「気にするな。明日の午前中の予定はすべてキャンセルだ」
「ええ? なぜそのような……」
「正式な妻となったお前との初夜を誰にも邪魔させるつもりはない!」
声高に宣言するヴァルクに、イレーナは半分嬉しさ、半分複雑な気持ちだった。
(それはあまりに横暴な……テリーさんが可哀想だわ)
そうは思うが、イレーナもゆっくり過ごしたい気持ちはある。
「とりあえず何か理由を作って私と一緒にいたいわけですね?」
「ああ、そうだ」
(そんなに欲求不満だったのね。仕方がないわ。もうひと月以上ご無沙汰だものね)
イレーナはすんなり受け入れた。
これは妻としての務めだから、拒否することなどできない。
(まあ、拒否なんて絶対しないけどね♡)
久しぶりにぎゅっと抱き合ってキスをした。
イレーナは上目遣いで甘えるように声を出す。
「久しぶりだから優しくしてくれます?」
「俺はいつでも優しいぞ」
「うそばっかり。寝かせてくれないくせに」
「当たり前だ。寝るなよ」
「きゃああっ(歓喜)」
こうしてバカップル(皇帝と側妃)は正式な夫婦となった。
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