すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~

水川サキ

文字の大きさ
6 / 57

6、あなたの顔なんて見たくない

しおりを挟む

「どうして……お父様は何も言わなかったわ。それなら、なぜ私にそのことを言ってくれなかったの?」
「レイラにそんな顔をさせたくなかったの。ショックを受けたら描けなくなるでしょう?」
「そんなことないわ。魅力がなくなったなら、もっと頑張って……」
「頑張ればいい問題ではないでしょ。私たち聖絵師オーラリストは聖力で絵を描くのよ。どれほど努力しても、能力で差が出てしまう。あなたはずっと神殿でもトップクラスの実力の持ち主だから理解できないのよ。努力が無駄になって消えていく者たちのことを」

 混乱する私に、セリスは淡々と続ける。

「挫折を知らない者が窮地に陥るとダメになってしまうの。伯父様、あなたのお父様はあなたが絵を描けなくなることを恐れたのよ。仕事の依頼を多く受けているもの。だから、代わりに私が描いた絵を納品していたの」


 耳を疑った。
 セリスが、私の代わりに絵を描いていたということ?
 意味がわからない。

「何を、言っているの? じゃあ、私の描いた絵はどこへ……?」
「別のお客様が購入しているわ。あなたの絵を依頼していたのは上級貴族たちよ。でも、その絵に癒やし効果が失われていることを知り、どんどんお客様が減っていったの。だから、代わりに私の描いた絵を彼らに納品して、あなたの描いた絵は格安で下級貴族か平民へ……」
「やめて!」

 思わず叫ぶと、セリスは哀れむような顔を私に向けた。


「辛いわよね。苦しいわよね。だから私はあなたのプライドを守るために嘘をついたのよ。レイラは最近絵画以外のことで忙しくて余裕がないって」
「だからって、私が遊び歩いているなんて……」
「能力を失ったことを知られるよりはずっといいでしょ。芸術家なんてみんな遊びで刺激を受けて創作するのだから気にする必要はないわ」
「なんて勝手なことを……!」


 私の抗議などお構いなしで、セリスは微笑みながら、私の両手をぎゅっと握る。

「大丈夫よ、レイラ。顧客を選ばなければ、依頼はたくさん来るわ。元気出して」

 私はセリスの手を振りほどいた。

「放して。あなたの顔なんて見たくない!」

 セリスは肩をすくめる。

「少し冷静になる必要があるわ。私たちはしばらく会わないほうがいいわね」


 何を勝手なことを言って、まるですべて私に非があるような言い方をして。
 これ以上セリスと会話をしたくない。
 だけど、これだけは言っておかなければならない。

「アベリオの誤解を解いてちょうだい。私はずっと彼を想っていたのよ」

 セリスの顔に、心底残念そうな影が浮かぶ。

「今さら言い訳をしてどうするの? アベリオの心はもうレイラから離れているというのに」


 セリスの言葉が鋭い針のように胸に突き刺さる。
 痛みのあまり胸をぎゅっと押さえた。
 涙があふれそうになる。けれど、セリスの前で泣くなんて、絶対にしたくなかった。

 私が俯いて黙っていると、セリスは明るい笑顔で私に言った。

「ああ、そうだわ。アベリオとの結婚式にはぜひ出席してね。招待状を送るわ」


 パタンと扉が閉まる音が響き、セリスの気配は消えた。

 しばらく呆然と立ち尽くした。
 床にぽたぽたと落ちる涙を、私は止めることもできない。


「誰が行くもんですか……」

 誰もいない部屋の中で、私の小さな呟きだけが、冷たく響いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

第一王子様から選ばれるのは自分だと確信していた妹だったけれど、選ばれたのは私でした。

睡蓮
恋愛
ルビー第一王子様からもたらされた招待状には、名前が書かれていなかった。けれど、それを自分に宛てたものだと確信する妹のミーアは、私の事をさげすみ始める…。しかしルビー様が最後に選んだのは、ミーアではなく私だったのでした。

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

処理中です...