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23、衝撃の事実
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「レイラ、先ほど会ったハルトマン侯爵のことだが、君はどんな印象を持った?」
「とても優しそうなお方だわ。カルベラに行くのがとても楽しみよ」
「そうか」
エリオスは視線を遠くへ向けたまま、しばらく黙り込む。
そして、重みを含んだ声で切り出した。
「実は、君に伝えておくべきことがある」
「何かしら?」
胸の奥がざわめく。
彼は短く息を整えて、言葉を続けた。
「ハルトマン侯爵の弟スヴェンと、君はとてもよく似ているそうだ」
「まあ、そうなの?」
「いや、もっと言えば、君はスヴェンと瓜二つなのだそうだ」
「えっ……どういうことかしら?」
思いがけない彼の言葉に、鼓動が高鳴る。
私は息を呑んで彼の次の言葉を待った。
「スヴェンは月明かりのような銀の髪に淡いブルーの瞳をしていたそうだ。その他にも顔立ちや、ほっそりした体つきも、まるで君を映したようだと」
「そんなことが、あるなんて……」
信じられない思いで、胸の奥がざわつく。
けれどエリオスの声音はあくまで慎重で、私を追い詰めるものではなかった。
「君のことを詮索するつもりはない。だが、一つ教えてほしいことがある。君はあの夜、家を追い出されたと言っていた。それはなぜなのか、訊いてもいいか?」
「それは……」
あの日の出来事を思い出すと、今でも胸がぎゅっと痛む。
それでも、黙って私をここに置いてくれるエリオスには、真実を伝えなければならないと思う。
「すまない。無理に訊くことではないな」
「いいえ。きちんとお話しようと思うわ」
私は、これまであったことをエリオスに説明した。
聖絵師としてこの2年間ほとんど家にこもって仕事をしてきたこと。父から受けた暴力や、婚約者から破談されたこと。そして、セリスからされたこともすべて。
話し終えると、エリオスは眉を寄せ、ほんのわずかに表情を歪めた。
やはり、こんな話は重すぎただろうか。彼を困らせてしまったのではないかと、そんな不安が頭をよぎる。
「ごめんなさい。こんな話……」
「いや、話してくれてありがとう。君は相当苦しんだんだな。無理に聞いて悪かった」
「ううん。このお屋敷に来て、皆の優しさに触れているうちに、少しずつ心が癒えてきたから大丈夫」
ここでの暮らしは、あまりにも実家とは違っていた。
屋敷の人々は私に申し訳ないほど気遣ってくれるし、誰もが優しい笑顔を向けてくれる。
声をかけられるときも穏やかでやわらかい口調だ。
冷淡な言葉に慣れた私には、その優しさが驚きで、涙が滲むほど嬉しくなる。
それはエリオスに対してもそうだった。
「では、君は父親と血が繋がっていないのだな」
エリオスは私の家族について深く訊いてきた。
私はもう隠すこともないので、はっきりと答える。
「そうみたい。でも、直接聞いたわけじゃないの。母も私に何も言わずに亡くなってしまったわ。病気になって少し記憶が曖昧になっていたから、話せなかったのかもしれないけれど」
エリオスは少し沈思したあと、神妙な面持ちで告げた。
「仮説だが、君とスヴェンに血の繋がりがあると俺は思っている」
どきりとした。
この状況からすれば、その可能性が高いことは私にもわかる。
「ハルトマン侯爵は、きちんと調べたいと言っていた。君が了承してくれるなら、君とハルトマン家の血の繋がりを証明したいと」
その言葉を聞くと、胸の奥がざわついた。
もし本当に血が繋がっているのなら、私はどうなるのだろう。
これまで知らなかった家族の存在、そして自分の出生の秘密。考えるほどに、心が重くなる。
私はこれから、どうすればいいのだろうか――
言葉に詰まっていると、となりでエリオスが私の右手に触れた。
どきりとして固まっていると、彼はすぐに手を引いた。
「すまない。大丈夫か? 痛くなかったか」
「ええ、大丈夫よ。もう痛みはないの。だけど、こんな醜い手を触らせてしまってかえって悪いことをした気分だわ」
「そんなことはない。君のその手は奇跡を生み出すのだから」
奇跡を生み出す。
そんな言葉をくれるのはエリオスだけだわ。
慰めだとしても嬉しくて、涙が出そうになる。
「ありがとう。嬉しいわ。訓練を頑張るわね」
「無理しなくていい。今はゆっくり過ごせばいい。急にいろいろなことを聞いて混乱もしているだろう」
「ううん。もし、あなたの恩人と私に血の繋がりがあるなら幸せなことだわ。だけど、ご家族は複雑でしょうね」
「君に会えば皆認めるだろう。それほど、君には魅力がある。見えなくても俺にはわかる」
「ありがとう、エリオス」
その言葉だけで、私は心が軽くなれる。
あなたがそばにいてくれるだけで、心が強くなれる。
そしてさらに半月が過ぎ、ついにカルベラ国へ出発する日が訪れた。
「とても優しそうなお方だわ。カルベラに行くのがとても楽しみよ」
「そうか」
エリオスは視線を遠くへ向けたまま、しばらく黙り込む。
そして、重みを含んだ声で切り出した。
「実は、君に伝えておくべきことがある」
「何かしら?」
胸の奥がざわめく。
彼は短く息を整えて、言葉を続けた。
「ハルトマン侯爵の弟スヴェンと、君はとてもよく似ているそうだ」
「まあ、そうなの?」
「いや、もっと言えば、君はスヴェンと瓜二つなのだそうだ」
「えっ……どういうことかしら?」
思いがけない彼の言葉に、鼓動が高鳴る。
私は息を呑んで彼の次の言葉を待った。
「スヴェンは月明かりのような銀の髪に淡いブルーの瞳をしていたそうだ。その他にも顔立ちや、ほっそりした体つきも、まるで君を映したようだと」
「そんなことが、あるなんて……」
信じられない思いで、胸の奥がざわつく。
けれどエリオスの声音はあくまで慎重で、私を追い詰めるものではなかった。
「君のことを詮索するつもりはない。だが、一つ教えてほしいことがある。君はあの夜、家を追い出されたと言っていた。それはなぜなのか、訊いてもいいか?」
「それは……」
あの日の出来事を思い出すと、今でも胸がぎゅっと痛む。
それでも、黙って私をここに置いてくれるエリオスには、真実を伝えなければならないと思う。
「すまない。無理に訊くことではないな」
「いいえ。きちんとお話しようと思うわ」
私は、これまであったことをエリオスに説明した。
聖絵師としてこの2年間ほとんど家にこもって仕事をしてきたこと。父から受けた暴力や、婚約者から破談されたこと。そして、セリスからされたこともすべて。
話し終えると、エリオスは眉を寄せ、ほんのわずかに表情を歪めた。
やはり、こんな話は重すぎただろうか。彼を困らせてしまったのではないかと、そんな不安が頭をよぎる。
「ごめんなさい。こんな話……」
「いや、話してくれてありがとう。君は相当苦しんだんだな。無理に聞いて悪かった」
「ううん。このお屋敷に来て、皆の優しさに触れているうちに、少しずつ心が癒えてきたから大丈夫」
ここでの暮らしは、あまりにも実家とは違っていた。
屋敷の人々は私に申し訳ないほど気遣ってくれるし、誰もが優しい笑顔を向けてくれる。
声をかけられるときも穏やかでやわらかい口調だ。
冷淡な言葉に慣れた私には、その優しさが驚きで、涙が滲むほど嬉しくなる。
それはエリオスに対してもそうだった。
「では、君は父親と血が繋がっていないのだな」
エリオスは私の家族について深く訊いてきた。
私はもう隠すこともないので、はっきりと答える。
「そうみたい。でも、直接聞いたわけじゃないの。母も私に何も言わずに亡くなってしまったわ。病気になって少し記憶が曖昧になっていたから、話せなかったのかもしれないけれど」
エリオスは少し沈思したあと、神妙な面持ちで告げた。
「仮説だが、君とスヴェンに血の繋がりがあると俺は思っている」
どきりとした。
この状況からすれば、その可能性が高いことは私にもわかる。
「ハルトマン侯爵は、きちんと調べたいと言っていた。君が了承してくれるなら、君とハルトマン家の血の繋がりを証明したいと」
その言葉を聞くと、胸の奥がざわついた。
もし本当に血が繋がっているのなら、私はどうなるのだろう。
これまで知らなかった家族の存在、そして自分の出生の秘密。考えるほどに、心が重くなる。
私はこれから、どうすればいいのだろうか――
言葉に詰まっていると、となりでエリオスが私の右手に触れた。
どきりとして固まっていると、彼はすぐに手を引いた。
「すまない。大丈夫か? 痛くなかったか」
「ええ、大丈夫よ。もう痛みはないの。だけど、こんな醜い手を触らせてしまってかえって悪いことをした気分だわ」
「そんなことはない。君のその手は奇跡を生み出すのだから」
奇跡を生み出す。
そんな言葉をくれるのはエリオスだけだわ。
慰めだとしても嬉しくて、涙が出そうになる。
「ありがとう。嬉しいわ。訓練を頑張るわね」
「無理しなくていい。今はゆっくり過ごせばいい。急にいろいろなことを聞いて混乱もしているだろう」
「ううん。もし、あなたの恩人と私に血の繋がりがあるなら幸せなことだわ。だけど、ご家族は複雑でしょうね」
「君に会えば皆認めるだろう。それほど、君には魅力がある。見えなくても俺にはわかる」
「ありがとう、エリオス」
その言葉だけで、私は心が軽くなれる。
あなたがそばにいてくれるだけで、心が強くなれる。
そしてさらに半月が過ぎ、ついにカルベラ国へ出発する日が訪れた。
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