すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~

水川サキ

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27、後悔するといい(アベリオ)

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「まあ、おふたりはもうすぐご結婚されるのね」
「挙式はもちろん王都の大聖堂でなさるのかしら?」
「披露宴にはぜひ招いていただきたいわ」

 僕とセリスの結婚について話題が変わっていた。
 セリスは嬉しそうに彼女たちと話している。

「ええ。最高の結婚式にしようと思います。大好きな彼との一生の思い出ですもの」


 セリスが微笑みながら僕の腕をぎゅっと掴んだ。
 僕は彼女の背中に手をまわして、そっと抱き寄せる。

 セリスは自分が寄り添ったら僕にさりげなく抱き寄せてほしいと言っていた。
 だから、僕は彼女の望み通りにした。


「うふふ、大変仲睦まじいですのね」
「こんなに大切にされて、令嬢が羨ましいわ」

 よかった。セリスが喜んでいる。
 少しでも彼女の心の傷が癒えてくれると幸いだ。
 僕ができることであれば、彼女の望みを何でも叶えてあげたいと思う。
 なぜなら、彼女は傷ついた僕を慰めて癒やしてくれたからだ。


 セリスが望むなら、彼女がほしいものを何でも買い揃えるつもりだ。
 彼女の望む結婚式も挙げるつもりだ。

 どうせなら、レイラに僕たちの結婚式を見せつけてやりたい。


 君はショックを受けるだろうか?
 君はひどく後悔するだろうか?
 セリスを傷つけ、僕を裏切ったことを、悔やんで泣いてくれるだろうか?

 レイラのその姿を見てみたいものだ。
 そうすれば僕もセリスも、君を少しだけ許してやれる気がする。


 僕は本当にお人好しだと思う。
 これほどの仕打ちを受けながら、レイラを許す機会を作ろうとしている。

 レイラ、君が泣いて僕に土下座する姿を想像すると、心のもやが少し晴れる気がするんだ。
 だが、それはあくまで空想でしかない。
 実際に君の後悔する姿をこの目で見ないと、僕たちは浮かばれないよ。


 君は確か歳の離れた男爵へ嫁いだと聞いた。
 結婚式には君を招待するからね。

 君は男爵の妾でしかないが、一応セリスの従姉だから、披露宴に出席する資格はある。
 僕たちの幸福な瞬間をその目に焼きつけるといい。
 それが僕たちにできる唯一の君への復讐だよ。


「ねえ、アベリオ。少し疲れちゃった。外の空気が吸いたいわ」
「わかった。少し休もう」
「それでは皆さん、またのちほど」

 セリスは僕の腕を掴んだまま、令嬢たちに笑顔で告げた。


 バルコニーへ出ると夜風が心地よかった。
 僕は正直、パーティがそれほど好きではない。
 しかし僕は次期侯爵として、そしてセリスと生涯をともにする者として、こういう場ではしっかり顔を広めておく必要がある。

「ああ、アベリオ……少し眩暈がするわ」

 セリスが僕の胸に抱きついてくる。
 僕はそっと彼女を抱きしめた。


「大丈夫?」
「こういう場には慣れていなくて……あなたの婚約者としてしっかりしなきゃいけないのに、私ったらまだ未熟なのね」
「これから少しずつ慣れていけばいいよ。無理しなくていいんだ」
「ええ、そうね。実は、よく眠れていなくて、そのせいもあるの」
「具合でも悪いの?」
「レイラの夢を見てしまうの。あの子が私にしてきた数々のことを、嫌でも思い出してしまうわ」

 ああ、なんということだ。
 セリス、君もレイラの夢に苦しめられているのか。


「僕がついているから大丈夫だ。結婚すれば僕がずっとそばにいるからね」
「アベリオ、なんて優しいの。私はこんなに人に優しくされたことがないから涙が出そうよ」
「可哀想に」

 僕はセリスの髪を優しく撫でた。
 彼女は抱きしめられているときに、こうして髪を撫でてほしいと前に言っていたからだ。
 僕がその通りにすると、彼女は満足げに微笑んだ。


「ああ、アベリオ。あなたの手が心地いいわ」
「よかった。少しでも君の心が軽くなるといい」
「それだけじゃ足りないわ。もっと私は満たされたいの」
「そうか。どうすればいい?」
「キスして」

 セリスが上目遣いで僕を見上げてきた。
 僕は少し戸惑ったが、彼女の望みなら仕方ない。
 正直、外でそういった行為は苦手だが、今はセリスの心を救ってあげることが一番だから。


 僕はセリスに触れるだけの口づけをすると、すぐに離れた。
 しかしセリスは僕に抱きついて自分からもう一度口づけをしてきた。
 正直、すごく不快だったが、僕はそれに耐えた。

 こういった行為は夫婦の寝室でおこなうものだろう。
 なぜ外でしなければならないのだろうか。
 社交界の話題の中では、どうやら女性は夜空の下とか庭園とか、そういったところで口づけするのが好きらしい。

 僕にはまったく理解できない。
 だが、セリスが望むことを拒絶などできないから、そのたびに僕は必死に自分を抑える。


 それも結婚式までの我慢だ。
 セリスが妻になれば、夫の僕の命令には逆らえないのだから。

 結婚した日から、僕は主人となる。
 そうすればセリスに堂々と命令ができる。
 彼女は僕の言うことに拒否できなくなる。
 夫とはそういうものだ。

 それまで、できるだけ紳士的な態度で彼女に合わせるつもりだ。


 大丈夫だ。
 僕たちはともに傷ついた者同士、うまくやっていけるだろう。
 世間の同情と称賛を浴びながら、これからの人生が輝いていくんだ。

 レイラ、君が反省するなら、僕はいつか君を許せる日が来るかもしれないよ。

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