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第4章 迫り来る包囲網
45、続・助っ人召喚(しょうかん)<後>
「この上着、誰のものか分かるの?」
マーガレットは声を潜めてケネスに尋ねる。
「今のこの時期、王太子近衛の本人に直接渡せない上着っていったら……ウワサのヤツのしかないだろう。
確かに内容がスゴいし、大騒ぎになっているから、きっと誰かに託されるんじゃないかと、近衛内では話題になっていたんだ」
「そうなんだ……」
エドワード様にスゴいことをしてしまったと言われ、マーガレットは渡す時の勢いが一気になくなり、下を向いた。
そんなマーガレットを見かねたのか、ケネスは下を向いたマーガレットの頭をポンポンと優しく撫でてくれる。
「ということは、マギーがさっき言った巨大暗黒組織ってヤツのファンクラブのことか……確かにヤツのファンクラブは過激で有名だからなぁ。
でもさ、マギー、ヤツを振った相手のことを女性たちは悪くいうかもしれないが、男性側からしてみれば、英雄と呼んでいるぜ?」
ジッと息を止める勢いでケネスが話す内容を聞いていたマーガレットだったが、不自然な単語が聞こえたので、気になって聞いてみた。
「英雄?」
「そりぁあ、あんだけのイケメンかつ好条件男をモノにせず、ポイ捨てだぜ?
普通なら真逆で絶対に離さないし、自慢しまくるぞ。
ある意味カッコイイよな?
それにあの件があってから、ヤツに心酔していた女性たちが少しずつ減ってきて、現実を見始めたんだ。
もちろん、失恋して傷心中のヤツをモノにしようと狙っている女性たちもまだまだいるが、いつまでも手の届かないヤツを追いかけるより、自分の手に届く男たちを見たり、誘いに乗る女性が増えてきた。
男性側からしたら、今までどんなに誘ってもダメな相手が、今はデートの誘いを断らない。
この状況をもたらしてくれたヤツの相手に、男たちは感謝してるんだぜ?
だけど……」
女性だから女神と呼ばれてもいいのに、なんで英雄なんだ?と胸の中でツッコミを入れながら、悪いウワサだけじゃないことに少し気分が上がったマーガレットだったが、ケネスが途中で言葉を切ったことが気になり、先を促してみる。
「だけど何?」
ケネスはすぐには答えず、マーガレットの頭を撫でていた手をスッと少し下げると、指先でマーガレットの前髪を上げ、額を露わにした。
「この傷跡って、小さい頃ヤツを野犬から庇った跡だろう?
それにお前たちって、小さい頃、結婚の約束をしたってオレに嬉しそうに自慢してきたよな?
アイツはマギーだけを一途に思っていて、マギーがOKすれば相思相愛だろ?
マギーは、別にヤツを振らなくても良かったんじゃあ……」
まだケネスの話は続いていたが、マーガレットの背後から、突然、鋭い大きな声が聞こえる。
「ちかぁ~~~いっっっ!」
ええっ!?
マーガレットはビックリして、思わず声がした方向を振り返った。
そこには、離れたテーブルにいた4人組のうちの1人がテーブルに突っ伏しており、残りの3人が、テーブルに伏せている1人の頭や身体を押さえつけている光景が目に入る。
何なの、アレ?
見慣れない4人の体勢を凝視していたマーガレットだったが、ケネスが話しかけてきたので、顔だけケネスに戻した。
「あー、気にするな、マギー。
テーブルに伏せているってことは、ひどく酔っ払ってしまったんだろう。
潰れるほど、飲んだんだ……きっとトイレが近くなったという合図に違いない」
ケネスの声はこの静かな空間によく通り、再びマーガレットが何気なく4人組に顔を向けると、酔っ払ったであろう1人を押さえつけている3人が、ブンブンと勢いよく首を縦に振っているのが見える。
今度は身体ごとケネスに向き直ったマーガレットは、思わず叫んだ男性に同情した。
「トイレが近いって大変よね~。
ウチの大先輩もお年のせいか、トイレが近くってさぁ、大先輩を探す時は、まずはトイレを見に行くのが鉄則になっているのよぉ~」
うんうん頷きながらそう言ったマーガレットだったが、ケネスが何も言わずにジッとマーガレットを見つめていることに気がつくと、わざと右を向いてケネスからの視線をかわす。
だがケネスは、マーガレットの逃げを許さなかった。
「マギー、俺の質問に答えて?
なんでヤツの申し出を断った?」
しかしマーガレットも、ケネスに聞きたいことがあるので、そちらを優先する。
「その前に教えて!
ケネスはなんで、あの方が小さい頃のあの男の子って知ってるの?」
マーガレットはケネスにテーブルに手をつきながら詰め寄ってみたが、意外にもケネスはアッサリと教えてくれた。
「ヤツが遊びに来るたびに、オレだけじゃなく、兄貴も含めて時には4人で遊んでいただろ?
それに俺とヤツは同じ歳だし、その後も顔を合わせる機会が何かと続いたんだ。
もしかして……いつもマギーは、ツラい事が多すぎて小さい頃の記憶が曖昧だとは言っていたが、ヤツとの思い出も覚えてない……とか?」
ケネスの驚いた表情をマーガレットは真っ直ぐ見据え、仕方なく自分の内情を説明する。
「小さな男の子の記憶はあるけど、ケネスの話を聞くと、どうやら断片的なものしかないみたい……この額の傷跡が野犬につけられたものとか、全然思い出せないもん!
しかも、あの男の子の名前も知らなかったし、まさか成長してあの方になっているだなんて……思いもしなかった。
そんな状態で小さい頃以降は何も接触もなく、いきなり現れて結婚しようと言われても、今は立場も身分も違うから、冷静に考えても無理でしょ?
ねぇ、ケネス、私の考えは間違ってるかしら?」
そう言って泣くのを我慢するように顔を歪めたマーガレットを、ケネスは痛ましげに見つめて謝った。
「悪かった、マギー」
マーガレットは声を潜めてケネスに尋ねる。
「今のこの時期、王太子近衛の本人に直接渡せない上着っていったら……ウワサのヤツのしかないだろう。
確かに内容がスゴいし、大騒ぎになっているから、きっと誰かに託されるんじゃないかと、近衛内では話題になっていたんだ」
「そうなんだ……」
エドワード様にスゴいことをしてしまったと言われ、マーガレットは渡す時の勢いが一気になくなり、下を向いた。
そんなマーガレットを見かねたのか、ケネスは下を向いたマーガレットの頭をポンポンと優しく撫でてくれる。
「ということは、マギーがさっき言った巨大暗黒組織ってヤツのファンクラブのことか……確かにヤツのファンクラブは過激で有名だからなぁ。
でもさ、マギー、ヤツを振った相手のことを女性たちは悪くいうかもしれないが、男性側からしてみれば、英雄と呼んでいるぜ?」
ジッと息を止める勢いでケネスが話す内容を聞いていたマーガレットだったが、不自然な単語が聞こえたので、気になって聞いてみた。
「英雄?」
「そりぁあ、あんだけのイケメンかつ好条件男をモノにせず、ポイ捨てだぜ?
普通なら真逆で絶対に離さないし、自慢しまくるぞ。
ある意味カッコイイよな?
それにあの件があってから、ヤツに心酔していた女性たちが少しずつ減ってきて、現実を見始めたんだ。
もちろん、失恋して傷心中のヤツをモノにしようと狙っている女性たちもまだまだいるが、いつまでも手の届かないヤツを追いかけるより、自分の手に届く男たちを見たり、誘いに乗る女性が増えてきた。
男性側からしたら、今までどんなに誘ってもダメな相手が、今はデートの誘いを断らない。
この状況をもたらしてくれたヤツの相手に、男たちは感謝してるんだぜ?
だけど……」
女性だから女神と呼ばれてもいいのに、なんで英雄なんだ?と胸の中でツッコミを入れながら、悪いウワサだけじゃないことに少し気分が上がったマーガレットだったが、ケネスが途中で言葉を切ったことが気になり、先を促してみる。
「だけど何?」
ケネスはすぐには答えず、マーガレットの頭を撫でていた手をスッと少し下げると、指先でマーガレットの前髪を上げ、額を露わにした。
「この傷跡って、小さい頃ヤツを野犬から庇った跡だろう?
それにお前たちって、小さい頃、結婚の約束をしたってオレに嬉しそうに自慢してきたよな?
アイツはマギーだけを一途に思っていて、マギーがOKすれば相思相愛だろ?
マギーは、別にヤツを振らなくても良かったんじゃあ……」
まだケネスの話は続いていたが、マーガレットの背後から、突然、鋭い大きな声が聞こえる。
「ちかぁ~~~いっっっ!」
ええっ!?
マーガレットはビックリして、思わず声がした方向を振り返った。
そこには、離れたテーブルにいた4人組のうちの1人がテーブルに突っ伏しており、残りの3人が、テーブルに伏せている1人の頭や身体を押さえつけている光景が目に入る。
何なの、アレ?
見慣れない4人の体勢を凝視していたマーガレットだったが、ケネスが話しかけてきたので、顔だけケネスに戻した。
「あー、気にするな、マギー。
テーブルに伏せているってことは、ひどく酔っ払ってしまったんだろう。
潰れるほど、飲んだんだ……きっとトイレが近くなったという合図に違いない」
ケネスの声はこの静かな空間によく通り、再びマーガレットが何気なく4人組に顔を向けると、酔っ払ったであろう1人を押さえつけている3人が、ブンブンと勢いよく首を縦に振っているのが見える。
今度は身体ごとケネスに向き直ったマーガレットは、思わず叫んだ男性に同情した。
「トイレが近いって大変よね~。
ウチの大先輩もお年のせいか、トイレが近くってさぁ、大先輩を探す時は、まずはトイレを見に行くのが鉄則になっているのよぉ~」
うんうん頷きながらそう言ったマーガレットだったが、ケネスが何も言わずにジッとマーガレットを見つめていることに気がつくと、わざと右を向いてケネスからの視線をかわす。
だがケネスは、マーガレットの逃げを許さなかった。
「マギー、俺の質問に答えて?
なんでヤツの申し出を断った?」
しかしマーガレットも、ケネスに聞きたいことがあるので、そちらを優先する。
「その前に教えて!
ケネスはなんで、あの方が小さい頃のあの男の子って知ってるの?」
マーガレットはケネスにテーブルに手をつきながら詰め寄ってみたが、意外にもケネスはアッサリと教えてくれた。
「ヤツが遊びに来るたびに、オレだけじゃなく、兄貴も含めて時には4人で遊んでいただろ?
それに俺とヤツは同じ歳だし、その後も顔を合わせる機会が何かと続いたんだ。
もしかして……いつもマギーは、ツラい事が多すぎて小さい頃の記憶が曖昧だとは言っていたが、ヤツとの思い出も覚えてない……とか?」
ケネスの驚いた表情をマーガレットは真っ直ぐ見据え、仕方なく自分の内情を説明する。
「小さな男の子の記憶はあるけど、ケネスの話を聞くと、どうやら断片的なものしかないみたい……この額の傷跡が野犬につけられたものとか、全然思い出せないもん!
しかも、あの男の子の名前も知らなかったし、まさか成長してあの方になっているだなんて……思いもしなかった。
そんな状態で小さい頃以降は何も接触もなく、いきなり現れて結婚しようと言われても、今は立場も身分も違うから、冷静に考えても無理でしょ?
ねぇ、ケネス、私の考えは間違ってるかしら?」
そう言って泣くのを我慢するように顔を歪めたマーガレットを、ケネスは痛ましげに見つめて謝った。
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