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婚約破棄されてしまいましたわ
ギルドマスターのお話ですわ
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「……なるほどね。お嬢ちゃん、ギルドに入りたい子だったんだね」
「はい……」
急に大声で謝りつつ土下座をしたわたくしを止め、きちんと椅子に座らせてくれた大家様が、得心がいったように頷きますわ。大人たちの話し合いをするからと遠ざけられた子供達がチラチラとこちらをみてきていて、不安そうなのが心に刺さるわね。
えぇわたくし、ギルドに確かに入りたいわ。でも今は絶対に入りたくない。
どうしてって、わたくしは三つの依頼を達成できていなかったの。いくらあの状況下とはいえ、条件は条件。それなのに助けた子供が偶然大家様の子供だったからって、大家様に顔を知られて。恩を売ったようになって。なんて卑怯で生き汚い!
唇をぎりりと噛み俯けば、正確にこちらの意図を察した大家様がなるほど、と頷いた。
「だいたい理解したよ──でも、この子をギルドに入れること、何の問題があるんだい?」
「は?」
……正確に、察していたと思ったのだけれど。
呆然とするわたくしに、大家様は首を傾げたまま言い放ったわ。
「だってあんた、この子はもう資格を持っているじゃないか」
「……は!?」
「……」
声を荒げるわたくし。わたくしに構わず、大家様はわたくしの隣──おやっさん様の方を見るの。
その視線につられて隣を見れば、否定も肯定もせずおやっさん様はただ大家様を見つめていたわ。因みに家賃の催促のために、おやっさん様もわたくしと同じような体制をしているみたい。
「あ、あの、わたくしは依頼なんて一つも──」
「ギルドの絶対条約!」
「!?」
唐突に、大家様の言葉が響き渡ります。
ビクッと肩を揺らしたわたくしとは反対に、おやっさん様が素早く反応して立ち上がり……奥の方で固唾を飲んで見守っていたギルドの皆様も、バッ! と立ち上がりましたわ。全然気配なかったのだけれど居ましたのあなた方!?!?
「一つ! 依頼の選り好みはしない!」
「「一つ! 依頼の選り好みはしない!」」
「きゃあっ!?」
おやっさん様が、今までの情けないものとは違う──ギルドのボス、と言われて素直に頷けるような張りのある声で詠唱すれば、ギルドの皆様がすかさずぴったりと合わさった声で返事をしますわ。
「二つ! 市民を危険に晒さない!」
「「二つ! 市民を危険に晒さない!」」
「三つ! 己の安全も確保する!」
「「三つ! 己の安全も確保する!」」
大家様は厳しい顔でその風景を眺めるのみ。一体何がしたいのでしょう。わたくしはこれを覚えても良いのでしょうか。
五つ、六つ、と続いていきますの。
衰えを知らないらしいおやっさん様の喉は、未だハリのある大きな声を紡いでいるわ。
七つ、八つ。
今までどれだけこの条約を語って来たのでしょうか。唱えて来ていたのでしょうか。皆様は淀みもなくおやっさん様について来ます。
九つ──ぴたりと止まりましたわ。
終わったのかしら。
恐る恐る後ろを向くと──おやっさん様が、嬉しそうに笑っていたの。
「十──。命懸けで命を守る愚か者に、最大の尊敬を」
「──!」
それは。
それは。もしかして。
「お嬢ちゃん。わしらの決まり事は、悪いけどこれなんじゃ。
お前さんは命懸けで子供らを守った。その事実は、依頼三つなんちゅうもんよりずっと代え難いと思うんやよ」
「……なら、」
「お前さんはわしらの条約を守り通した。自分も、子供らの命も落とさんで。一銭にもなりゃせんくせにお節介焼いて……。
条約守ったギルドメンバーを叱るボスなんざ、どこにもおりゃせんよ」
わっ!! と歓声が上がるのを、どこか夢見心地で聞いていたわ。
気付いた頃には酒臭いギルドメンバーの方々に囲まれて──いやお酒飲んでたの貴方方──わっしょいわっしょいと担ぎ上げられていたわ。
「やるじゃんかあんた!」「世間知らずのお嬢さんって思ってたけど、見直したよ!」「かっこいいじゃん!」
「え、あ、えぇっ!?」
わらわらと周りに集まる皆様。わたくし目が白黒になってしまいますわ!? こんな扱い、されたことないですわー!?
「……なぁ」
「は、はいっ!? ……て、あなたは今朝の」
おチビさん、と言いかけてやめましたわ。自分から喧嘩を売りに行く趣味はないの。
ええもうけれど──こんなに褒められるなんて、生まれて初めてよ!? どうしたら良いのかしら。もう困ってしまうわ!?!? おチビさん、おチビさんは不満でしょう!? わたくしなんかが入っていやでしょう!? ですからほら、その鬱憤を早くぶつけて──
なんていう心からの願いは無情にも叶えられなかったみたい。
おチビさんは口元だけで、楽しそうに微笑んだの。
「悪かったよ──あんた、結構かっこいいね」
なっ──
な……
「なんですのこれーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!」
そう叫んだ瞬間、わたくしの意識はブラックアウトしましたわ。あぁこの感覚二回目ね──顔から火が出そうだわ!
「はい……」
急に大声で謝りつつ土下座をしたわたくしを止め、きちんと椅子に座らせてくれた大家様が、得心がいったように頷きますわ。大人たちの話し合いをするからと遠ざけられた子供達がチラチラとこちらをみてきていて、不安そうなのが心に刺さるわね。
えぇわたくし、ギルドに確かに入りたいわ。でも今は絶対に入りたくない。
どうしてって、わたくしは三つの依頼を達成できていなかったの。いくらあの状況下とはいえ、条件は条件。それなのに助けた子供が偶然大家様の子供だったからって、大家様に顔を知られて。恩を売ったようになって。なんて卑怯で生き汚い!
唇をぎりりと噛み俯けば、正確にこちらの意図を察した大家様がなるほど、と頷いた。
「だいたい理解したよ──でも、この子をギルドに入れること、何の問題があるんだい?」
「は?」
……正確に、察していたと思ったのだけれど。
呆然とするわたくしに、大家様は首を傾げたまま言い放ったわ。
「だってあんた、この子はもう資格を持っているじゃないか」
「……は!?」
「……」
声を荒げるわたくし。わたくしに構わず、大家様はわたくしの隣──おやっさん様の方を見るの。
その視線につられて隣を見れば、否定も肯定もせずおやっさん様はただ大家様を見つめていたわ。因みに家賃の催促のために、おやっさん様もわたくしと同じような体制をしているみたい。
「あ、あの、わたくしは依頼なんて一つも──」
「ギルドの絶対条約!」
「!?」
唐突に、大家様の言葉が響き渡ります。
ビクッと肩を揺らしたわたくしとは反対に、おやっさん様が素早く反応して立ち上がり……奥の方で固唾を飲んで見守っていたギルドの皆様も、バッ! と立ち上がりましたわ。全然気配なかったのだけれど居ましたのあなた方!?!?
「一つ! 依頼の選り好みはしない!」
「「一つ! 依頼の選り好みはしない!」」
「きゃあっ!?」
おやっさん様が、今までの情けないものとは違う──ギルドのボス、と言われて素直に頷けるような張りのある声で詠唱すれば、ギルドの皆様がすかさずぴったりと合わさった声で返事をしますわ。
「二つ! 市民を危険に晒さない!」
「「二つ! 市民を危険に晒さない!」」
「三つ! 己の安全も確保する!」
「「三つ! 己の安全も確保する!」」
大家様は厳しい顔でその風景を眺めるのみ。一体何がしたいのでしょう。わたくしはこれを覚えても良いのでしょうか。
五つ、六つ、と続いていきますの。
衰えを知らないらしいおやっさん様の喉は、未だハリのある大きな声を紡いでいるわ。
七つ、八つ。
今までどれだけこの条約を語って来たのでしょうか。唱えて来ていたのでしょうか。皆様は淀みもなくおやっさん様について来ます。
九つ──ぴたりと止まりましたわ。
終わったのかしら。
恐る恐る後ろを向くと──おやっさん様が、嬉しそうに笑っていたの。
「十──。命懸けで命を守る愚か者に、最大の尊敬を」
「──!」
それは。
それは。もしかして。
「お嬢ちゃん。わしらの決まり事は、悪いけどこれなんじゃ。
お前さんは命懸けで子供らを守った。その事実は、依頼三つなんちゅうもんよりずっと代え難いと思うんやよ」
「……なら、」
「お前さんはわしらの条約を守り通した。自分も、子供らの命も落とさんで。一銭にもなりゃせんくせにお節介焼いて……。
条約守ったギルドメンバーを叱るボスなんざ、どこにもおりゃせんよ」
わっ!! と歓声が上がるのを、どこか夢見心地で聞いていたわ。
気付いた頃には酒臭いギルドメンバーの方々に囲まれて──いやお酒飲んでたの貴方方──わっしょいわっしょいと担ぎ上げられていたわ。
「やるじゃんかあんた!」「世間知らずのお嬢さんって思ってたけど、見直したよ!」「かっこいいじゃん!」
「え、あ、えぇっ!?」
わらわらと周りに集まる皆様。わたくし目が白黒になってしまいますわ!? こんな扱い、されたことないですわー!?
「……なぁ」
「は、はいっ!? ……て、あなたは今朝の」
おチビさん、と言いかけてやめましたわ。自分から喧嘩を売りに行く趣味はないの。
ええもうけれど──こんなに褒められるなんて、生まれて初めてよ!? どうしたら良いのかしら。もう困ってしまうわ!?!? おチビさん、おチビさんは不満でしょう!? わたくしなんかが入っていやでしょう!? ですからほら、その鬱憤を早くぶつけて──
なんていう心からの願いは無情にも叶えられなかったみたい。
おチビさんは口元だけで、楽しそうに微笑んだの。
「悪かったよ──あんた、結構かっこいいね」
なっ──
な……
「なんですのこれーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!」
そう叫んだ瞬間、わたくしの意識はブラックアウトしましたわ。あぁこの感覚二回目ね──顔から火が出そうだわ!
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