悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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凱旋

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「セリオン……♡ そんな、言えばすぐ構いに行ったってのに。お兄ちゃんがお前のこと鬱陶しがるわけないだろ?」
「うざ……」

お前は鬱陶しがるのかよ。あまりの可愛げにメロついて擦り寄れば、その分だけ体が離される。いつもならもう少し喜んで近付いてくれたというのに。理不尽である。

セリオンの綺麗な目が俺を映す。だらしなくヘラヘラと笑っていて、我ながらかなり威厳はない。まぁセリオンが可愛い事を言ったのが全ての原因なので反省はしないのだけれど。

「本当に、いつ会いにきてもよかったのに」
「……」
「お前のこと大事だから……。それにお前、ポチと会った頃くらいから部屋に入ってきてたし」
「状況が違う。だいたいぼく、入っても勝手に本とか……何も触ってないから。あんただけ」

言い張るセリオンに笑ってしまう。俺が許容している事をどうやらこの弟はうまく認識できない様子で、何度も怒られるのではないかと、顔を赤らめながらもチラチラ気にしている。
本人があまり部屋に入られたい方ではないからだろうか? 俺こそ毎朝無遠慮に叩き起こしに行っていたのだから、もう少し肩の力を抜けばいいのに。

ある程度確認の終わった書類の束を置き、距離を積める。軋みもしないソファに後ずさるからだ。なんだか悔しくなってもっと距離を詰めて、いつのまにかソファのはしっこ。

「いいのに、触って」
「……ッ」

思いっきり顔を顰めたセリオン。鋭い舌打ちが響き、のしかかっていた形の俺を押し返そうと肩に触れた。

「ちょっと兄さん!」

なんとなく抵抗してやると思いのほか力は弱い。ワイバーンに叩き潰された時よりよほど柔らかな力に、おそらく本気ではない筋肉の張り方。

(なんて可愛いんだ、お前は……)

知らず知らず笑みが深まる。獰猛な顔でもしていたのか、セリオンの肩がびくりと跳ね怯えたように目を逸らしたので、慌てて取り繕ってやった。ほうらセリオン、いつもの優しいお兄ちゃんだぞ。

「セリオンは本当に可愛いな~! 俺がお前を拒絶なんて、万に一つもするはずないだろ? よしよし、ヴィンセントが元気になったらいつでも入ってきていいからな」
「ちょっ……と、撫でるのやめて。本当にあんた、ぼくのこと犬か何かだと思ってるんじゃないの」
「セリオンは猫っぽくないか? あと、ちゃんと人間として認識してるぞ?」

殊更明るく声音を調節してやれば、のしかかった体から明らかに強張りが解ける。わかりやすい。可愛いやつめ。
よぉしよぉしとわしゃわしゃ撫でてやれば目元が朱色に染まり、抵抗は弱々しい。本人のプライドとしては拒絶したいが、遺憾というほどでもない、みたいな感じだろう。可愛い。

「だいたい、お前が世界で一番なんだから。お前以上に可愛い生き物なんていないに決まってるだろ? お前だけだよ」

目を見開いた後、嬉しげに口元をむにむにさせる弟が愛おしい。愛くるしい。食べてしまいたい。
もうぱっくりと食べてしまおうか? 男は狼なんだぞ。そんなのを寝室にあげて、どうなるか教えてやっても構わない。

……なんて。

「俺はお前のお兄ちゃんなんだから。血を分けた肉親はそういない。愛してるよ」

セリオンが俺に懐くのは信頼ゆえだ。罪を片方背負うだなんて発言も、それは彼からの、この人生において最上級の信頼から出たもの。
慣れていないしうまくいかないことも多いだろうけれど、俺だってそれに応えていきたいと思っている。強がるにはセリオンは随分と強くなったし、別に好き好んで苦しみたいわけでもないのだ。

その身体に体重を預けて、胸に甘えるように頭を擦り寄せる。とうてい兄弟ではありえないようなこの距離感だって、セリオンが俺を信頼して受け入れてくれるから許される距離であって。

「…………ぼくも愛してるよ、兄さん」

嬉しい事をてらいなく言ってくれるのだって。
緩む口元を抑えられない。すり寄る俺に、弟の手のひらが可愛がるように頭を撫でる。くつくつと喉奥で音を鳴らせば、少しばかり早い心音の彼が猫みたいだと笑った。
その拍子にふ、と吐息が小さく耳に吹き込まれ、なんだかいけない事をしているような心地になる。

「お前にくっついてると、ひとつに戻るような心地がする。安心する……」
「同じお腹の中にはいなかったのに、なんでだろうね。でも、ぼくも同じだよ」

背はセリオンの方が高いけれど、ガタイは俺の方が厚みがある。閉じ込めるようにして俺を囲う両手は壊れものを扱うみたいに繊細で、その腕に閉じ込められに行ってやらなければならないのだ。
自分の意思で閉じ込められたまま、同じ速度の心音を聞く。あるべきものがあるべき場所に戻ったかのような充足感に、ほうと深く息を吐いた。

「兄さん、ねぇ、仕事はもういいの」
「今日の分は終わった。お前待ち」
「そう」

さすが兄さん、と衒いなく与えられる褒め言葉に思わず耳が赤くなる。後頭部を細い指が撫で、うなじをそっとなぞられた。背中が震えたことには気がつかれただろうか?
腰に触れ、掴むように撫でられ、尾骨のあたりをとんとんと叩かれる。仕方のない子供をあやすように、または──堪え性のない恋人を、その気にさせるように。
やけに官能を誘う手つきに一層強く縋りつけば、上からまた息を吐くような笑い声が聞こえてきた。

「もう少しで、ぼくも終わるから……少しだけ待っててね」
「うん……」
「今日も、一緒に寝ようか、兄さん?」

耳に吹き込まれた言葉には何か別の意図がありそうで、でも決して無いだろうし、それにしては色気のある声だけれど、俺が勝手にそう勘違いしているだけだろう。

他の人にはやるなだとか、でも俺以外にはしないんだろうなとか、弟なのに生意気だぞとか、そういういろんな思考が浮かんできてはいた。
けれど実際に俺がやったことといえば顔を真っ赤にして小さく頷くだけなのだから、セリオンに笑われたって仕方がないのだ。
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