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いざゆけ魔法学校
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「あの人たち、退学したらしいですね」
放課後の錬金部。文化祭で売る在庫も余裕が出てきて、そろそろ暇こいてきたコンサバトリーでふとユミルがそんなことを言った。
「あの人たち~? フィレオフィッシュか?」
「先輩方は今日も元気でしょう、また機材破壊してましたよ」
「おい!! 厳重注意だなアイツら」
「もう叱っておきました」
「本当に有能、お前」
わしゃわしゃと隣に立った頭を撫でるとくすぐったそうな顔をされる。ソファに座らんのかなこの子は。
目の前のローテーブルには相変わらず紅茶が注がれているけれど、今回は俺が淹れたものじゃない。先輩にそんなことはさせられません、とユミルが淹れてくれるようになったのだ。
うーん、この精神をフィレオフィッシュにも見習ってほしいぜ。いけ図々しい奴らめ。
「そんで? 誰が退学したんだ。もうこの時期になるとわりとボロッボロ人間落ちていくからなぁー。なーセリオン」
「は?」
「この反応ですよ」
今日のセリオンは人肌の気分らしく、俺の膝にちょこんと座っている。ほんまに可愛い~~どうしてくれようか。可愛すぎるから食べちゃおうかな、ドーナツとかにして。
まぁ、学期末に控えた進級試験もセリオンには対して気がかりでもないらしい──俺はヒヤヒヤしてるぜ──し、退学だとか留年だとか無縁のところにいるのだろう。
なんかやけに勉強頑張ってるしな。やっぱり魔法好きなだけあって楽しいのかな?
「ふふ。少し前にあったじゃないですか、先輩が襲われた事件ですよ」
「あー……? ああ。アイツら? 退学になったんだ」
「はい。沙汰が下されるの、遅いくらいでしたけどね」
そういえばそう。俺が襲われたのは飛行大会の直前くらいで、そろそろ文化祭が迫ってきている状態だ。しばらく見なかったからもう消えたもんだと思ってたけど。
ごろにゃんと俺の腕の中で擦り寄るセリオンも、ことが発覚した時はまぁ取り乱していた。
十三歳では襲われた、の意味がよくわかっておらず、怪我もないことが分かれば平常通りに戻っていたが。
その点ユミルはませてるよなぁ。
「なにアイツら。まだ消えてなかったの」
「こーらセリオン、お口悪いぞ。即断即決のアカデミーにしては珍しく長くかかったなぁ、何かあったのか?」
「何かあったのかって、ふふ……」
ユミルが口元を抑えて微かに笑う。
「魔力をほとんど吸われていて、衰弱死寸前だったそうですよ。回復までまだ時間がかかるとか……最近ようやく話せるようになったから、厳戒態勢を解いて領地に戻せるようになったんです」
「…………」
「偶然、全員魔力切れ寸前だったんですっけ? かわいそうに。魔力を奪われる苦しみは想像を絶しますから。もう暫く魔法は使えないでしょうね」
ユミルの誠実そうな瞳が細まり、俺を見つめた。その目から顔を逸らすようにティーカップを手に持ち口に寄せる。紅茶は少し苦かった。蒸らし過ぎだ、考え事でもしてたのか?
「ふーん、そりゃ災難。どうしたんだユミル、あからさまに疑ってさ。魔力を奪う魔法なんてないし、あっても俺に使えるわけないだろ?」
「ええ勿論知っていますよ! 生真面目で清廉潔白なアーノルド=フィレンツェがまさか、そんなことをするはずがない」
していても問題はない、と語る声には確かに陶酔が滲んでいて、ちょっと将来が心配だぞ先輩は。
この子は賢い。フィレオフィッシュは俺を疑わず、セリオンは悪意を知らない。
その点ユミルは平気で俺を悪人と断ずる合理性がある。推理の上手い底知れない後輩だ。俺より頭いいんじゃないかなぁ。
「私、アーノルド先輩のそういうところ大好きですよ」
「ふーん? 嬉しいこと言うじゃないか、じゃあ抽象的なこと言わず、大好きな先輩をきっちり口説いてみせないとな?」
「あはは、勘弁」
「この口の聞き方だよお前達は」
渋い紅茶をまた一口飲む。外では何かの鳥が鳴いていて、陽光がほのかにさしている。花々のいい香りが鼻腔をくすぐり、胸にかかる重みと熱いくらいの体温が眠気を誘った。
「たっだいまー!! はぁーっ今日も一日疲れたぜ!!」
「右を見ても左を見ても陽の気に包まれているでござる…………」
「フィッシュはこんなんだしさ」
入口の方で、フィレオフィッシュがわちゃわちゃと帰ってくる音がした。
うん、今日も平和だ。
放課後の錬金部。文化祭で売る在庫も余裕が出てきて、そろそろ暇こいてきたコンサバトリーでふとユミルがそんなことを言った。
「あの人たち~? フィレオフィッシュか?」
「先輩方は今日も元気でしょう、また機材破壊してましたよ」
「おい!! 厳重注意だなアイツら」
「もう叱っておきました」
「本当に有能、お前」
わしゃわしゃと隣に立った頭を撫でるとくすぐったそうな顔をされる。ソファに座らんのかなこの子は。
目の前のローテーブルには相変わらず紅茶が注がれているけれど、今回は俺が淹れたものじゃない。先輩にそんなことはさせられません、とユミルが淹れてくれるようになったのだ。
うーん、この精神をフィレオフィッシュにも見習ってほしいぜ。いけ図々しい奴らめ。
「そんで? 誰が退学したんだ。もうこの時期になるとわりとボロッボロ人間落ちていくからなぁー。なーセリオン」
「は?」
「この反応ですよ」
今日のセリオンは人肌の気分らしく、俺の膝にちょこんと座っている。ほんまに可愛い~~どうしてくれようか。可愛すぎるから食べちゃおうかな、ドーナツとかにして。
まぁ、学期末に控えた進級試験もセリオンには対して気がかりでもないらしい──俺はヒヤヒヤしてるぜ──し、退学だとか留年だとか無縁のところにいるのだろう。
なんかやけに勉強頑張ってるしな。やっぱり魔法好きなだけあって楽しいのかな?
「ふふ。少し前にあったじゃないですか、先輩が襲われた事件ですよ」
「あー……? ああ。アイツら? 退学になったんだ」
「はい。沙汰が下されるの、遅いくらいでしたけどね」
そういえばそう。俺が襲われたのは飛行大会の直前くらいで、そろそろ文化祭が迫ってきている状態だ。しばらく見なかったからもう消えたもんだと思ってたけど。
ごろにゃんと俺の腕の中で擦り寄るセリオンも、ことが発覚した時はまぁ取り乱していた。
十三歳では襲われた、の意味がよくわかっておらず、怪我もないことが分かれば平常通りに戻っていたが。
その点ユミルはませてるよなぁ。
「なにアイツら。まだ消えてなかったの」
「こーらセリオン、お口悪いぞ。即断即決のアカデミーにしては珍しく長くかかったなぁ、何かあったのか?」
「何かあったのかって、ふふ……」
ユミルが口元を抑えて微かに笑う。
「魔力をほとんど吸われていて、衰弱死寸前だったそうですよ。回復までまだ時間がかかるとか……最近ようやく話せるようになったから、厳戒態勢を解いて領地に戻せるようになったんです」
「…………」
「偶然、全員魔力切れ寸前だったんですっけ? かわいそうに。魔力を奪われる苦しみは想像を絶しますから。もう暫く魔法は使えないでしょうね」
ユミルの誠実そうな瞳が細まり、俺を見つめた。その目から顔を逸らすようにティーカップを手に持ち口に寄せる。紅茶は少し苦かった。蒸らし過ぎだ、考え事でもしてたのか?
「ふーん、そりゃ災難。どうしたんだユミル、あからさまに疑ってさ。魔力を奪う魔法なんてないし、あっても俺に使えるわけないだろ?」
「ええ勿論知っていますよ! 生真面目で清廉潔白なアーノルド=フィレンツェがまさか、そんなことをするはずがない」
していても問題はない、と語る声には確かに陶酔が滲んでいて、ちょっと将来が心配だぞ先輩は。
この子は賢い。フィレオフィッシュは俺を疑わず、セリオンは悪意を知らない。
その点ユミルは平気で俺を悪人と断ずる合理性がある。推理の上手い底知れない後輩だ。俺より頭いいんじゃないかなぁ。
「私、アーノルド先輩のそういうところ大好きですよ」
「ふーん? 嬉しいこと言うじゃないか、じゃあ抽象的なこと言わず、大好きな先輩をきっちり口説いてみせないとな?」
「あはは、勘弁」
「この口の聞き方だよお前達は」
渋い紅茶をまた一口飲む。外では何かの鳥が鳴いていて、陽光がほのかにさしている。花々のいい香りが鼻腔をくすぐり、胸にかかる重みと熱いくらいの体温が眠気を誘った。
「たっだいまー!! はぁーっ今日も一日疲れたぜ!!」
「右を見ても左を見ても陽の気に包まれているでござる…………」
「フィッシュはこんなんだしさ」
入口の方で、フィレオフィッシュがわちゃわちゃと帰ってくる音がした。
うん、今日も平和だ。
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