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14 それぞれの世界(逃桐)
しおりを挟む「ここなんですね。じゃあ先生、俺はこれで。」
とある建物の下に差し掛かった時、宇城が言った。
「あ、うん。……あ、これ、ありがとな。」
右手を差し出されて一緒戸惑ったけど、直ぐに借りていた上着の返却要請だと気づく。
礼を言いながらそれを渡すと、どういたしましてと受け取る宇城。
カーディガンじゃ寒かっただろうに。良い奴…。
「先生、何階なんですか?」
宇城がアパートを見上げながら俺に問いかけてきた。
な、何階?!
「あ、えっと、2階。」
急に問われて少しビックリしたけれど、記載された部屋番号が203だったと思い出して答えた。
俺の記憶力、グッジョブ。
宇城は小さく頷いて、
「じゃあ、また学校で。」
と言って、会釈をした。
こういう場合って、そのまま帰して良いんだっけ?
いや良いのか。
大人ならいざ知らず、生徒で未成年だもんな。
時間的にも早く帰すべきだろ、と判断して俺は手を振った。
「ああ、ありがとな。
また。」
去っていく宇城を見送り、アパートを見上げた。
結構な築年数の木造建築に見える。
その外階段を上がり、建物の2階の廊下を歩いた。
何だかこっちの俺ってえらく質素な所に住んでないか?
まさか貧乏なんじゃねえだろうな…。
一抹の不安が胸を過ぎる。
財布の質は悪くなかったし、貨幣はそこそこ入ってた。多分決済に使えるであろうカードも入っていたけれど、これからどうやってそれらを使ってくか、だよな。
カード決済にしていきたいけど、この世界での本人確認方法ってどうやってんだろ。一回試してみないと。つか、貨幣も今の手持ちが尽きたらどうしたら良いんだ。引き出す場合って。
少し古い時代の事を参考にして考えてみるとするなら、然るべき金融機関に預金や給与がある筈だけど…。
後で財布の中を全部出して考えてみるか。
そんな事を考えつつ、部屋番号を確認しながら廊下を歩いていると、203の部屋が。
リュックからキーホルダーを取り出す。
それには3本の鍵が付いているから、取り敢えず全部試すしかない。今どきこんな鍵使ってる建物が未だあんのな…。
1本ずつ鍵穴に入れて回し、2本目で開いた。
「……よし。」
丸いドアノブを握って回す。子供の頃に遊びに行った田舎で、親戚の兄ちゃんがこんなドアノブの部屋に住んでたな。
開いたドアの向こうは、真っ暗だった。
廊下の灯りを頼りに、壁際にスイッチがあるのを探し当てた。
明るく照らされたそこは、簡素で、とても広いとは言えない部屋だった。
けれど、清潔ではある。
一人暮らしの男の部屋にしてはきちんと片付いている。キッチン、トイレ、バスルームと順に確認したけれど、まずまず綺麗だった。
俺もそうだが、こっちの俺もそれなりに几帳面で安心したぜ。
それにしても、結構な部分が微妙に旧式な訳だが。
生活に順応するのに少し時間がかかりそうだが、元の世界に近い世界に来られたのは運が良かったと喜ぶべきだろう。
この世界は、どういう分岐でどんな歴史の変遷を辿ってきたのだろうか。
さっき少しだけ見てきただけの駅前の様子や、様々な高さの建造物からは、元の世界には無い自由さを感じた。
実際の社会情勢や一般市民の生活がどの程度の水準なのかはわからないけれど、少なくとも元の世界で感じていたような閉塞感は無い。
もしかして、国や政府のトップも違ってたりな、と思う。そうだとどんなに良いだろうか。
俺のいた世界では、日本は世界でもトップクラスの専制国家だった。
それでも、皇室は人材育成には尽力していたし、国民性が勤勉という事もあって様々な分野を席巻している。それにより国民は恩恵を受けているし、生活を保証もされていた。
だからこそ、皇室の一員であるボンクラが少しくらいのオイタをしても許されている風潮があったし、表立って皇室の専制支配を批判できる人間もいなかった。
皇族は絶対的な権力階級だった。
その象徴が 首都に唯一、天高く聳える皇城と、高さ制限のかけられたその他の建造物だった。
俺はずっとそんな自国に違和感を感じていた。
だからと言って、別に反抗してやろうとか、何か事を起こそうと迄は思わなかった。
倭国政府が潤沢な資金を注ぎ込み人材育成に力を注いでくれたから、俺だって全く金がかからずに好きに好きな事を学べたし、院迄行って好きな研究も出来たのだ。俺もそれはわかってたし感謝もしていた。
その学生に金があってもなくても、優秀な人材ならば国費で高等教育を受けさせ、留学だってさせてくれる国だ。
その後は各分野での貢献はある程度要求されるが、それは当然の事だろう。
俺もそれに不服があった訳じゃなかった。
けれど、あのクソ皇子が生徒になり、それが発端となって自分の体と尊厳が、生涯に渡りオモチャにされるとなると、話は別だった。
だから、俺は逃亡計画を考えつくに至ったのだ。
クソ皇子との出会いさえなければ、並行世界への逃亡なんて非現実的な事を、本気で考えたりなんか、しなかった。
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