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28 先生の打ち明け話 2 (現・宇城side)
しおりを挟む「俺、ホントにお前の知ってる俺とは違うんだ。」
そう言って先生は語り出した。
あの晩…。
駅前で会ったあの夜、先生はその15分くらい前にこの世界に来たという。
何処から?と聞くと、この世界の他にも無数に存在する並行世界の一つから。
前にいた世界で、先生はやはり先生だったが、とある生徒にズタボロにされて、逃げ出す機会を狙っていた。
それであの晩、セレブ共がペット自慢する悪趣味な夜会に連れ出された時に、一瞬の隙をついて、逃げた。
と言っても、闇雲に逃げた訳ではなく、先生にはちゃんと計算して目星をつけていた座標のような場所があり、そこを目指して走ったのだという。
そこ迄の道は、よく知っている道だったらしく、上手く撒きながら先生はそこへ向かっていた。
先生が目指していたのはとある計算で割り出したらしい、時空の歪み。
時折、異界の人間や物が迷い込んでくる地点。それは一定の場所に常時ある訳ではなく、ランダムに出現するものだと思われていた。
けれど、先生はその中でも高確率にそれが出現するであろう地点を割り出す事に成功した。
とはいえ、その確率は100%ではない。一か八か。
先生はその結果に、この先の人生を賭ける事にしたのだ。何も足掻かないよりは行動を起こした方が未来を変えられる可能性があると信じて。
だが、目標地点に着くという直前、思いもかけない事が起きた。
その時間の地点の時空の歪みの向こうに、”自分”が居るのが見えたのだそうだ。
ベンチの傍に立ち、此方を不思議そうに見ている“自分“が…。
だから先生は、歪みが閉じる寸前に、その自分と入れ替わったのだという。
そして、公園から出て、数分後におそるおそる戻ってみると、時空の歪みは既に閉じ、入れ替えた自分のリュックとゴミの入った袋だけがベンチの傍に取り残されていた…ーー。
俺は無言でそれを聞いていた。
まさかと否定したいのに、記憶の中で、色々な事が符合していくのだ。
あの夜、らしくない格好でらしくない振る舞いをしていた先生。
話をしていて、妙な所で戸惑いを見せていた事。
生々しい傷を見た時の衝撃。
全てが、無視してしまうには強い違和感で、先生が先生の顔をした違う人間に思えてしまった一瞬があった。そしてそれは、どんどん大きくなっていくのに、俺はそこには目を瞑ろうとしていた。
バカバカしい作り話を、と否定するのは簡単だが、先生がわざわざ何日もかけて一生徒でしかない俺を担がなければならない理由なんか無いじゃないか。
なら、それはきっと本当の事なんだろう。
俺は立ち上がり、あの夜先生が着ていた服を探してクロゼットに視線をやった。
ハンガーに掛けられている、白いヒラヒラの服。
古代ギリシャやローマや中世ヨーロッパのような、ドレープのたくさんあるオーバーシャツのような、生地のたっぷり使われた、光沢のある服。そして、細い足にピタッとした黒いパンツ。玄関には編み上げの黒いサンダルのような靴。
シャツにはどのメーカーのロゴもブランドタグも無く、パンツにも靴にもそれは無かった。
生地は薄く、軽く、透け感のある生地。オーガンジーとか、その辺だろうか。
その方面には詳しくないからよくわからない。
次に、先生のクロゼットの中を開けて見る。
クリーニング済みのワイシャツ数枚、家で洗濯できるタイプのシャツが数枚、スーツが数着、他。
無難で、およそあの夜着ていた類いの服は他に無かった。
引き出しの中だって無難なスウェットやパーカー、セーター、Tシャツ類。
全然冒険心もないような、シンプルなアイテムばかり。先生のイメージ通りと言えばそうなんだけど、少なくともこんな無難な服装を好む人が、あんなヒラヒラした目立つ服を着るとは思えない。流行ってる訳でも無いし。
という事は、この先生の告白が、俄然信憑性を帯びて来たという事でもあり…。
「え、ちょっと待ってください。じゃ、先生は?あっちの世界へやられてしまった先生は?」
俺は、さあっと血の気が引いていくのを感じた。
ここにいる先生が酷い目に遭わされていたその場所へ、俺の好きだった人はやられてしまったって事か?
この先生が逃げて来られたのは良かった。体の傷を見てしまえば、本当にそう思う。
けれど、何も入れ替えてあちらにやる必要があったのか?あんな儚げでおよそ暴力に耐性が無さそうな人を、そんな乱暴な奴の手にやるなんて…。
先生が2人いるならいるで、2人とも俺が何とか力になれたかもしれないのに。
俺があちらに居るであろう先生の身を心配して唇を噛んでいると、それを見た先生がしょんぼりとしながら言った。
「ごめん。俺、何とか逃げたくて、こっちの自分があっちに行けば、俺は探されないって思っちゃってさ。」
「……。」
俺はどう答えたら良いのかわからなかった。
いえ、逃げられたのは良かったです、くらい言ってあげなきゃと思うのに、あちらの先生が今頃どうしているのかと思うと、安易にそんな事が言えず…。
「ごめんな。お前が好きなのは、俺じゃなくてあっちの俺なのに、面倒見せちゃってさ。これでも反省してるんだ。」
目の前の先生が頭を下げる。でも、先生が悪い訳じゃない。
「貴方は悪くないです。謝らないで。」
声に力が入らないのは許して欲しい。
「でも、貴方が逃げたくなるような酷い奴に捕まった先生が心配です。」
俺がやっとの事でそう言うと、先生は少し考えて俺に問いかけてきた。
「あのさ。こっちの俺って、どんな奴?」
どういう意味だろう、と俺はその質問の意味を測りかねて首を傾げた。
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