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32 皇城だより。本日は雨。
しおりを挟むワイドビューな窓の外は今日は雨のようである。
気が滅入るな~。
俺が朝食の後、窓辺の椅子に座ってボーッとしていると、横で茶を入れてくれていた隠月がワゴンに茶器を置いてスッと後ろに引いた。
「?」
「おいでに。」
「え、」
数秒後、無音でドアが開き、宇城が現れた。今日は光沢を抑えた白い生地に、青や銀糸で刺繍の入った服。何時も体の線が出ないダボッとした上位丈の長い、中国や韓国映画みたいな東洋的な服装なのに、今日はスタンドカラーの上下スーツ。に、似合うな。香港マフィアみたい。
一見地味に見えて、かなり金も手もかかったお召し物なんでしょうね、と俺は歩み寄ってくる宇城を眺めた。
「おはようございます、先生。生憎の雨ですね。」
「そだな。見渡す限り灰色だな。」
土砂降りって訳じゃないから、実際には街の様子は見えるけどな。
「こっちの世界にも、ショッピングモールとかある?」
「当たり前じゃないですか。おそらく、先生が居た世界にあるものはこちらにもありますよ。見た目や形が変わっていたりはあるでしょうが…。」
宇城はそう言って、空模様を見上げながら隠月が引いた椅子に座った。
俺と宇城は並んで、雨に打たれる世界を見ていた。
この世界に来て早一週間。
俺は既にこの部屋の中だけの生活に飽きていた。
今の所、特に不満は無い。
帰れない事も理解した。
宇城は色々気を使ってくれるし、隠月も俺が不自由無く暮らせるようにサポートしてくれている。
正直、生活面だけで言えば、元の世界で一人暮らししていた時より快適だ。
俺は仕事に疲れていたし、日々疲れ過ぎて食事を作るのも、それを食べる時間も惜しかった。食べる事が面倒になっていたのかも。かといって最低限食べなきゃ不味い事になるのもわかってたし、そうなると自己管理が問われる。
だから何時も、手軽に片手で食べられるように、小さめに握ったおにぎりを2つ、弁当に持っていっていた。そうしたら、それを見たあっちの宇城が、すんごい悲しい顔をして俺を見た事を思い出した。すごく心配されたんだろうなあ、あの時。
宇城、元気かなあ…。
帰れない事もわかってるし、こっちにだって宇城はいる。最初、話を聞かされた時にはヤバい奴かと思ったし俺も乱暴されるのかと思ったけど、その気配は全く無いんだよな。
宇城に聞いたら、俺が素直で大人しいからだって言われたけど、元居た俺はどんだけ聞かん気で気が強かったんだよって驚く。世界線が変わると同じ人間でも環境が違うから別人のように性格が変わるのかもな。
コポコポと湯が沸く音がして、宇城の側に置かれた茶器に茶が注がれた。静かな室内で、暫しその音だけが響いた。湯気が上がっているそのカップの中の琥珀色の、澄んで美しい事といったら。
隠月の入れる茶は美味い。
その熱々の茶器を長い指で摘んで一口飲む宇城は何だかカッコいい。
「いつかさ、街を見に連れてってくれる?」
俺が宇城にそう聞くと、宇城の動きがピタッと止まった。
「…どうしましょうかね。」
俺を見ながら、何か考えている様子。
あ、そうか、と俺は思った。
「あ、大丈夫。俺、あの俺と違って走って逃げるようなアグレッシブさ、持ってないから。」
「でしょうね。」
宇城は笑って目を細めた。
一見冷たそうに見える顔が、優しくなるから安心する。俺、宇城の笑った顔が好きらしい。
「良いですよ。
婚儀の前にデートしましょうか。欲しい物もあるでしょうし、あちらには無い味もあるでしょうから。」
「マジ?」
「マジですよ。」
俺が嬉しくなって笑うと、宇城は一瞬目を見開いて、また笑顔を深くして笑ってくれた。
「貴方が望む事は何でも叶えて差し上げたくなります。」
宇城はそう言いながら、優しい表情で俺を見る。
だから俺は時々勘違いしそうになる。俺が宇城を好きなんじゃないかって。
「あ、あのさ。」
宇城の視線に照れ臭くなった俺は、視線を逸らして話を変えようと試みた。
きっと俺の顔は、今相当赤くなっている筈だ。
くそう。歳下の生徒相手に俺って奴は…。
あのさと言ってみたものの、違う話題が浮かばない間抜けな俺。しかし宇城は次の言葉を待ってくれている模様。
あ、そうだ、と俺は思い出した。
「ここに来て2日目か3日目くらいだったんだけど…夢でさ。」
「夢?はい。」
急に夢とか言い出したから不思議そうな顔してるな…。なんか、すまん。
「夢に、俺の部屋が出てきてさ。あ、あっちの世界の元の俺の部屋な?
でもベッド見たら、ちゃんと俺が寝ててな。」
「はい。」
「そしたら寝てた俺が起きて、俺を見て驚いて、何か叫んでさ。」
「何と?」
「悪かった、謝るから暗証番号教えてくれって。だからつい、俺も番号叫んじゃったけど。変な夢だったな。」
「…変わった夢ですねえ…。」
「…只の夢かな?やっぱり。やけに部屋の様子とか、リアルだったんだよなあ。」
「…只の夢、…では、ないかも知れませんねえ。」
そう言った宇城は、何か考え込むようにまたカップを傾けた。
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