憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)

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俺が死んだ話




  (あーあ。)


 唇から落胆の溜息が漏れる。
 あの人は俺の事を待っていてはくれなかったらしい。


 視線の先には、生まれ育った俺の生家がある。その前には、俺が出征する前迄 何年も愛し合っていた筈の愛しい彼が俺の妹と寄り添い、左腕には赤ん坊まで抱いていた。

「…仕方ない、か…」

 俺は彼らに気づかれないよう息を潜め、小雨のパラつく空を仰いで目を閉じた。
 こんな天気の日は、戦場で失くした筈の左脚が痛む。

 戦場は殺し合いだ。
 寧ろ失ったのが片足だけで済んだのは、運が良かったと言えるのかもしれない。けれど…。
 天を仰いだまま目を開くと、視界いっぱいに灰色の雲が映り込んだ。季節はそろそろ、冬だ。
 戻る場所の無い戦地帰りの、脚すら失くした人間が、1人越せる筈の無い季節が来るのだ。


 俺は彼と妹に背を向けて、そのまま家の近くの森に入った。付近の誰もが恐れて、昼間ですら人っ子一人入らないような森だ。
 途中、一人二人の、顔見知り程度の村人とすれ違ったが、ジロジロ見られただけで声はかけられなかった。杖をつき、脚を引き摺りながら歩き、髪も髭も伸びている。昔とはあまりにも変わり果てた姿に、俺だと気づく人などいないのだろう。
  
 そして俺は、辿り着いた森の中、人喰いと呼ばれる沼に沈んだ。唯一の希望すら奪われた脳裏には、何一つの未練も思い浮かばなかった。





 永い永い時が経った。

 何も無い空間で揺蕩いながら、時折来る"遣い"の呼びかけにも応えず転生を拒否し続けていた俺だったが、そろそろまた人間の世界に下りなければならないのだという。

『このままでは貴方は永久にこの状態で、何れは消滅するのですよ』

 そう言われても、沼で死んだ時に全てが終わると思っていた俺には それこそどうでも良い事なんだけど。

『…確かに貴方は理不尽で不遇な人生でしたが、そういう方は他にもいらっしゃるのです。
  今度は戦の無い世の中に送って差し上げますから、どうかそこで他の皆様と共に前世の業を洗い流し、幸せを掴んで澄んだ魂を取り戻して下さい。』

 この神様の"遣い"とやらは、毎回同じような事を言っては、白い空間で宙に浮き続ける俺を説得した。
 確かに俺程度の不運な奴は掃いて捨てる程いる。何なら戦で死んだ奴らの方が本人も家族もずっと気の毒だ。
 でも、固く信じていた恋人の裏切りを目にするくらいなら、戦場で死んどいた方が未だ良かったと俺自身は思う。
 だからそんな正論は要らない。自分が感じる幸、不幸の度合いを他人に査定されたくない。
 けれど、そろそろこの状況に飽きてきているのも事実だった。だから、ほんの少しだけ、気紛れを起こしたのだ。

「マジで戦、無い?」
『前世で戦を経験された方々は、優先的にそういう時代にお送りしてます』

 遣いの答えは優等生過ぎて逆に胡散臭い。でも、何度も根気強く説得に来る姿勢からして、邪な存在ではないようにも思えた。

「そっか、、、。
それならいっかな。あーあとさ、できれば、」

 彼の居ない世界にして欲しい。

『彼?ああ、"彼"ですか。わかりました』

 遣いは、何か小さな黒い板のような物を見ながら頷いた。

え?ほんとに?

『彼とは相性が悪かったですもんね。お任せ下さい、その辺は』

  相性?相性は寧ろ、良かったと思ったのだが、そうか。悪かったのか。だから結果的に俺じゃない人間と結ばれたって事だなと俺は納得できた。

「そうなのか。なら、今度はそこそこ幸せになれるかなあ」

 俺が呟くと、遣いはそれを肯定するように答えてくれた。

『まあ、その辺は貴方次第なところも大きいですが、きっと大丈夫ですよ。
あ、既に貴方をお待ちというか、スタンバってらっしゃる方もいらっしゃるようで…』
「…ん?すたん?」

 待たれるような特別親しい人とか、いただろうか?親とかは正直、妹溺愛だったから無いだろうし…。
 一抹の不安が過ぎる。

「…あ、あの、さ…」

 そう言いかけた時、フワッと急激に体が浮き上がった。この空間に来てから今迄に無かった感覚だ。

 ヤバい、もうか。光の輪が近づいて来るのが見える。

『それでは、行ってらっしゃいませ、良い人生を。

     ……あっ…』

 え?あっ、て何?

 遣いが放った最後の『あっ』に、俺の不安は急激に最高潮に達した。
 え、やめて?何か手違いがあるなら今なら未だ止められるだろ?

 耳鳴りのような、金属が軋み合うような音に紛れ、聴こえてきた呟き。

『…ま、大丈夫か…』

"遣い"、てめえ…何ていい加減な。

(やっぱ信じるんじゃ無かったあ…)


 そしてそのやり取り含む全ての記憶を持ったまま、俺は転生してしまった。















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