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1歳児と叔父
じっ…
じっ…
「…」
2方向からの圧に押し潰されそうだ。 頼むからそんなに見ないでくれないか…。
転生して1年。
人間としての体の機能もほぼ安定しつつある。とはいえ、世界はまだはっきりとは見えていない。
だが、近くは別だ。
俺のすぐ数十センチ隣のベビーベッドからの視線も、きちんと俺を捉えていると見ていい。そしてベビーベッドの上から覗き込むこの視線も…。
俺はこの2つの視線と戦いながら、この1年過ごして来たのだ。 き、気不味い…。
俺の視界はまだそこそこだが、同い年の兄はどれだけ視えているのだろうか。寝ているフリをしているとはいえ、赤ん坊があまりに動かないのも不自然かな、と 寝返りをうって兄の方を向いてみると、兄はやはりじっと俺の方を凝視していた。
これ、やっぱりばっちり見えてないか?
ついでにチラ見した斜め上からの視線は、やはり叔父。と言っても、見たところ彼は叔父と呼ぶにはかなり若く、14、15歳ほどに見える。
細身で黒髪。歳の割りには背が高いんじゃないか…と思う、多分。
その姿は、幼馴染みとして育った"彼"の少年の頃の姿によく似ていた。
そして隣のベッドの俺の双子の兄も、ふわふわ伸びた髪は黒。あの頃の彼も黒髪だった。
ますます判別がし辛い。
産まれてから目にした限りでは、親や親族、医者看護師も黒髪黒目が殆どだったから、人種的な問題なのかもしれないが。
「マオ、起きたんだね。
オムツ大丈夫?」
ぼーっと見ていると、伯父が俺に話しかけてきた。
この叔父、やたらと俺にばかり話しかけてきて、兄には一切目もくれないので、母や父や祖母にはよく注意されているのだが、ああうん、と言ってその場で声をかけるのみで全く意に介さないふう。兄である赤ん坊の方も、あまり叔父には関心が無い様子。今のところ何も話しかけては来ないが、気がつくと俺の事をじっと見ている。
そして叔父の事は無視。
この2人の関係性がわからない…。
一緒に存在しているんだから、同一人物である筈がないんだが、気配が全く俺の知る彼なのだ。
二人共に。
寝起きで反応の鈍い俺のオムツに叔父が手をかけようとしているのに気づき、ハッとする。まずい。
「ぅあああん!」
慌てて母を呼んだが来ない。
「ママはお買い物だよ、マオ」
彼は俺の思考が読めるのだろうか。手際良くオムツを脱がされてしまい、俺はもう無になるしかない。叔父には既に何度もオムツを替えてもらっていて、その度にちんまい性器を観察されて
「可愛い…楽しみだなあ」
と呟くので、俺は気が気じゃなくなかった。
楽しみって何だ、コイツ。赤ん坊のチンコ見て何を思っているんだろうか。
確かに前の人生で、俺は彼の事を死ぬ程愛していたが、裏切られた事を知って死んでからは愛情という感情が一気に枯れたのだ。
本当に、もう会いたくなかった。
だから彼が転生していない世界ならと望んだのに。
万が一出会っても、俺はもう彼を愛さないし、彼だって裏切った自覚があるなら俺を選んだりしないだろうと思ったからだ。きっと最終的に選んだ俺の妹が、彼の運命の相手だったんだろうから。
そう割り切ったからこそ俺は、過去の誰とも関わりのない人生を、1人で心穏やかに生きられればと、転生を受け入れたのに。
なのに、楽しみだなって、何だろう…?
彼はもしかして、肝心な所を都合良く忘れてしまっているのでは…。
俺が未だ小さい脳で色々考えている内に、叔父は俺の尻を拭き、パウダーをはたき、オムツを替えてくれた。その一連を隣のベッドから食い入るように見つめていた兄が、どこか口惜しげに伯父を睨みつけた。
睨んだよおい、赤ん坊が…。
やはり兄にも記憶があるのだろうか。普通の赤ん坊にしては色々様子がおかしすぎる。1歳児ってあんなに表情作れるものなのか?
やはり兄の方も記憶があると思った方が良いのかもしれない。
何故なら彼らは、毎度俺を挟んで静かな戦を繰り広げているからだ。言葉も発さず、視線だけで。
「はい、マオ。キレイキレイになったよ。
…可愛いほっぺだなぁ」
叔父が俺を抱き上げて、頬擦りをする。温かい肌同士が触れ合う感触はなんだかむず痒い。彼の匂いがふわりと鼻を擽って、胸に何かが込み上げた。生まれ変わって全然関係無い家の人間になって、体を構成する細胞だって昔とは全然違うんだろうに。
何故、同じ匂いがするんだろう。
俺はまた不思議な気持ちになって、懐かしい匂いの中で眠りに落ちていく。
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