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最も相性の悪い相手
夢を見た。前世の夢だ。 子供の頃から死ぬ迄を、断片的に。
俺と彼が遊びに行くと、必ずついてきたがった2歳下の妹。そう言えば妹の初恋の相手は、彼だったな…。
場面が切り替わっていく度に苦々しい気持ちは増幅していく。あの人生、俺って何の為に生まれてたんだろう。
あの家の中で、あの村の中で、良いものもそうでないものも、全て妹のものだった。
妹自身がどれ程それを望んでいたのかはわからない。だが、親も周囲も妹の事を大切にして、何でも与えた。
妹はこんな田舎町ではちょっと見ない程、可愛くて頭も良い娘だったから、両親が誇りに思うのは当然だろうと思っていたし、俺にだって自慢の妹だった。
対して俺は、容姿はそれなりには整ってはいたものの、あまり前に出る事の出来ない性格で、息子とはいえ両親にとっては頼りない存在だったのだろうと思う。
両親の中での格差は明らかで、俺と妹に対する接し方は明らかに違った。
しかしお前に期待する事は何一つ無いから自由にしたら、というスタンスは、子供の頃はともかく、ある程度成長してからは寧ろありがたかった。
だって妹が両親の愛と期待を一身に背負ってくれているお陰で、俺は彼と自由に生きられる、そう思っていたから。
戦争さえ終われば。生きて帰りさえすれば。 彼と一緒に村を出て、村の誰の目も気にしなくて良い、何処か知らない街で、2人で暮らす。
戦地に赴く前、彼とそんな約束を何度もした。
「それ迄には俺も病を治しておくよ。
だから絶対、生きて帰ってきてくれ。
…生きていてさえくれたら良いから」
彼はそう言って俺を抱き締めた。
ずっと待っているから、という彼の言葉を、信じられた。
出立前夜だって抱き合ったんだ。これから戦地へ赴くのに体に障る、と俺の体を慮ってくれる彼に強請って、何度も何度も、彼の精を中に受けたのだ。
その明け方、疲れて寝付いた彼を閨に残して川に体を浄めに行き、それを出さなければならなかった切なさをありありと思い出し、俺は少し苦しくなった。
そして、彼の元に戻る事無くそのまま発ったのだ。見送りをされると、永遠の別れになるような気がして。
家族は何も言わなかった。
唯一 妹だけが、体に気をつけてと言ってくれた。
親には格差をつけられて育ったが、俺と妹は決して仲の悪い兄妹ではなかった。彼女は周囲に大切にされ、与えられて育ったが、我儘な娘ではなく、与えられないものを無理に欲しがる事もしなかった。
俺が彼と好きあっているのを気づいてからは、彼に対して必要以上の好意を見せる事もなかったと思っていたのに、実は違ったんだろうか。 実際は2人は好き合っていて、俺が邪魔者だった?
彼は妹に奪われる事を免れた、唯一の存在だったと思っていたのに…。
考えないように封印した感情がドロドロと胸の奥から湧き上がりかける。
駄目だ、抑えろ、忘れろ、しまい込め。
『あーあ。本当に相性が悪いんですよねえ』
突然、何処からか聞き覚えのある声が響いた。
(相性が悪いって、誰とだ。
妹?それとも彼か?)
声の主を探るより先に、咄嗟に湧いた疑問。それに被せるように、また響く声。
『悪気が無くてもそうなっちゃう関係性って、あるんですよねえ。だからそちらとは離して欲しいって事だと思ってたんですが…まさかこっちの方だったとは。
誤算でした』
淡々としたその言葉を聞いているうちに、俺はやっと思い出した。
ーーあっ、お前、あの時の"遣い"か!!ーー
相変わらず俺の思念は筒抜けらしい。遣いは答えた。
『あ、はい。その節は大変申し訳無く…。
対象者を間違えてしまい、何とお詫びをして良いやら…。
でもご安心ください。今生では最大の悪縁は切り離されておりますので』
"遣い"の声を聴くのは、転生前に長々と燻っていたあの空間以来だ。コイツ夢の中にも入れるのか、と思いながらも黙って聞いていた俺だったのだが、ふと聞き捨てならない事を言われた気がして問いかけた。
ーー最大の悪縁って…?ーー
それに遣いは、少し溜息を吐いたような気配がした。
『いるんですよね、本人に悪気は無くても相性の悪い人の全てを吸い付くしてしまう人というのが』
ーーえっ、それって……ーー
『ですから、てっきりそれで辛酸を嘗め過ぎて懲りられて妹さんの魂と離れたいという事かと…。
しかし、違ったんですよね。詳しく聞かなかった此方のミスですね。重ね重ね、申し訳ないです』
"遣い"の声はそう言って俺に詫びた。
なるほど。俺は妹と相性が悪いのに兄妹に産まれてしまってたのか。そういうのは考えた事も無かったな…。
"遣い"は続ける。
『ブラックホール(笑)もいませんし、戦争も無い世の中で、貴方が幸せを掴み取る事を願っております。
では、また数十年後に』
本当に悪いと思っているのかと言いたくなるようなセリフに頭を抱えたくなった。
そうして声は消え、見えていた過去の画面も消えていく。
(目が覚めるのか…。)
終わりが近い事を察した俺は夢の中で目を閉じた。
…のだが。
いや待って。待て待て待て待て。肝心な事が。
何で彼と思しき人が2人もいるんだ?!
と、一番聞かなきゃいけなかった事を思い出した時には既に覚醒してしまっていた。
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