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しおりを挟む「タメなら気安く話してほしいな。」
橙は人懐っこい笑顔で二人にそう言った。
「でも…。」
一織がちらりと青秋に視線をやると、それに気づいた青秋は少し困った様な顔で、それでも小さく頷いた。しかし、青秋のお許しが出てもな、と反応に困ってしまうのは、一織と八束が高城家に滞在する期間はあと一週間もないからだ。
青秋の提案に対して、あと一週間の内に考えが纏まるかは難しい。飲むにしても蹴るにしても、一旦持ち帰りになる可能性が高い。
それに青秋との縁がどの程度のものになるかわからないし、ましてやその親族なんて、この後どのくらい会う機会があるんだかわからない。そんな人に親しくしてしまって良いものだろうか。
だが一織が戸惑っている間に、八束はしれっと
「わかった。そうしよう。」
と頷いて、本当に敬語をとっ払ってしまっている。
基本的に八束のやる事は全肯定の一織は、反射的にそれに倣った。
「…じゃあ、俺も。よろしく。」
橙にそう言いながら、難しく考えなくて良かったのか…と内心反省する一織。
そんな一織と八束に気を良くして、ますます上機嫌になる橙、それを見てニコニコしている青秋。
会食は和やかに進んだ。
食後に出てきたピスタチオのアイスをスプーンで掬いながら、橙が八束に問いかけた。
「八束くんは学生?どこ?」
「慶洋。」
「えっ、嘘…近…。」
「蒼大?」
「そう!!!」
学生同士だからか、橙と八束の間で会話が弾んでいて、一織は少し疎外感を感じてしまう。
そうなのだ。八束は一織と双子で同じΩと言ってもIQが高く、引越しを重ねて行った先の学校の授業の進行具合いに左右され成績が不安定だった一織と違い、何処に在学しようと成績がブレなかった。
国内最難関校にだって合格圏内だったのに、少しランクを落として慶洋1本に絞ったのは、単に自宅からの最寄りが慶洋だったからだ。橙の通う蒼大は、麻生家から見ると慶洋の一駅向こう。それなりのランクの大学だけれど実家が小金持ちの学生が多いから、そもそも八束の視界にすら入っていなかった。
しかし橙はその蒼大の学生だという。
やはりαはそれなりの家庭に生まれるんだな、と一織は感心しながら聞いていた。
「一織くんは?」
「えっ?」
急に話を振られ一瞬キョトンとして、
「あ、俺は働いてる。」
と答える。
すると橙は目を輝かせた。
「えっ、社会人?!すご。」
「いや、そんな良いもんじゃなくて…。」
大学行ってないんだ?と微妙な反応をされた事はあっても、社会人だからすごいなんて言われたのは初めてで少し驚く。
「どんな仕事してんの?」
「えっと…料理教室のアシスタント…。」
そう答えると、橙は目を丸くして言った。
「こんな綺麗なアシスタントさん居る料理教室があんの?!」
「こら、橙…。」
よくわからない興奮をする橙を焦ったように宥めた青秋が、一織と八束に向かって済まなそうに言った。
「申し訳ない。橙は美人が好きなんだ。」
「美人が…。」
微妙に反応して左眉を吊り上げる八束。橙が一織に興味を持つ事を警戒したのだ。八束は一時的にでも青秋に一織を貸し出す気も、青秋以外のαに手を付けさせる気も無い。
青秋の想い人だからと様子見をして友好的に接してはいるが、橙の態度次第では対応を変えなければと考えていた。
しかし橙は、手を振りながら笑って言った。
「やだなぁ青兄ってば。
それはその通りで否定はしないけど、俺は女の子専門だから。幾ら一織くんが綺麗でも、男の子にちょっかいは出さないよ~。あはは。」
それを聞いた瞬間、一織も八束も同時に青秋に視線をやって様子を探ったが、案の定彼が苦しげな笑みを浮かべているのを見て、あちゃー…と気の毒になった。
なるほど、見込みが無いというのはこれも理由なんだろう、と納得するしかない
。同性である青秋には、分が無さそうだ。
ぶっちゃけ、恋愛なんて当人同士が好きあってしまえば、血縁も家の問題も子供の問題もバース性も消し飛んでしまうものだと八束などは思う。
恋愛は究極のエゴだ。
強く惹き合ってしまえば、互いしか見えなくなって、他の何も考えられなくなって、最終的には全てを飛び越えて結ばれてしまう。
誰を悲しませても構わなくなり、その人さえ居ればと思えてしまう。
勿論、そんな激しい愛ばかりではないだろうが、そうなる可能性は誰の中にもどんな愛にもあるという事だ。
けれどそれは、片方だけでは成り立たないもの。
青秋程の高位αであれば、例え同じα相手でも魅了するかマウントを取るかして付き合いに持ち込む事も不可能ではない筈だ。けれど青秋は、橙の性嗜好が女性のみである事を知っていて、彼を尊重したんだろう。
それも、橙への気持ちが深いからこそなのだろうと思った。
万が一、青秋と橙がくっついたとしたら、うるさ方揃いだという親戚連中が黙ってはいないだろうし、それに付随する厄介な問題が幾つも出てくるであろう事は、八束達にも容易に想像できる。
それにしても、知らないという事は残酷なものだな、と一織と八束は、屈託の無い橙の笑顔と青秋の達観したような静かな表情を交互に見ながら思ったのだった。
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