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しおりを挟む藍咲さんのジャンル移動の謎はともかくとして、連載は順調に3回目を迎えた。
只、一つ重大な問題が発生している。
俺はせっかく基本体重迄戻した筈なのに、3キロリバウンドしてしまったのだ。
これは、初回の作家さんとの顔合わせを乗り切った事で気が緩んでしまったのが原因だと思われ。
1週間、キャベツとササミだったので、ちょっとくらい良いかと油断して家でビール飲んでたのが良くなかった。飲むとすぐ眠くなるから、寝る前のストレッチも怠けてたし…。
「ぴぇん…。」
「ぴぇん、じゃないよ。何その自業自得。学びなよ、1回痛い目見たならさあ。」
楽屋に遊びに来たユーリに辛辣な言葉を浴びせられ、俺は更に涙目だ。
そんなに怒らなくても…。
ソファに向かい合って座って、ユーリの差し入れの無糖アイスティーをズゴゴーッと吸い上げる。
それに反応したユーリに軽く睨まれた。
「行儀悪いよ。」
「ごめんなさい。」
今日のユーリ、来た時から怖い。
「あのさ。こんな事、危機感ばっか煽るみたいで言いたくなかったんだけどね。」
ユーリが難しい顔で腕を組んで足を組んで……あっ、めっちゃ偉そうな悪役令息って感じ!!流石!!
「…今余計な事考えてなかった?」
「考えてなかった。」
片眉を吊り上げたユーリが怖くて、んんんと首を振る。
やれやれ、という風に首を振って、ユーリは話し始めた。
「先週の連載終了後さ、マユ、次の現場があるってサッサと帰ったじゃん?」
「そうだな?」
「実は途中から社長が様子見に来てたの、知らなかったでしょ?」
「えっ、マジで?!」
知らなかった…。
「マユが帰った後、作者さんと社長が立ち話してるのがたまたま聞こえちゃったんだけどね。」
難しい顔継続中のユーリの言葉に、ごくりと唾を飲む。社長と作家さんが…?
「作家さん、今回の連載早目に切り上げて、他のキャラでスピンオフに切り替え連載を検討中らしいよ。」
「ま、ま、マジでえ?!?」
俺は意識が飛びそうな程にショックを受けた。嘘だろ…。
確かに。確かに、稀にそういう事は起きる。作家がその作品やキャラにモチベーションを失った場合に、脇役やモブだった別のキャラを起用して新たにそのキャラが主役の物語を綴り始めるという…。
本筋の話の主役交代ではないけど、心情的には打ち切りからの物語簒奪やんけ……。
そんな、打ち切られキャラのレッテルなんて貼られたら、この先主役の話なんて絶対来なくなる…。俺は恐ろしい未来予想に震えた。
「この作品がマユの今後のキャラ生を左右するんじゃないの?」
何時に重々しく告げるユーリの言葉に、俺は力無く頷くしかなかった。その通り。俺が思ったのと全く同じ事をユーリが言うという事は、きっとそれが世間一般の見方なんだろう、な…。
ああ~、やっばい。俺、やっばい。
「でさ。そんなスピンオフなんて作られたら、飛び火する可能性は、僕にもあるから…というか、あの作者さんの作品傾向からして、敵役の僕に飛び火する可能性はめちゃくちゃあるから。」
「…ウン。」
た、確かに…。
初めて起用される書き手さんだったから、主役受けてから幾つか作品を読んだんだけど、受けポジからの話とか多いし、その作品のモブ視点からってのも結構あった。
有り得なくない…寧ろ、有り得~る。
俺はユーリの真似をして、むむむと腕を組んで眉間に皺を寄せてみた。上手く出来ないな…。
ユーリはそんな俺を見て、溜息を吐く。なんかすまん。
「あのさ。困るんだよ。
頼むから本気で痩せて本気でやって。」
「…ウン。でももう遅かったりして…。」
言った傍から、バンッとテーブルを叩くユーリ。ひ、ひぇ…。
美人が怒ると怖いと良く言うけど、それは本当だ。怒ったユーリは、それはそれは冷たい氷の女王様みたいにひんやりした無表情になり、その目に睥睨された者は内臓まで冷え切ってしまうと俺の中で評判だ。何故俺の中だけかというと、今迄ユーリをマジで怒らせたのが俺だけだからだ。見た目に反して優しい性格だと周知されてるユーリが怒ったとこなんて見た事無い、って皆言ってるし、ユーリ本人も仕事の演技以外でブチ切れた事なんて記憶に無いらしいし、やっぱ俺がユーリを本気で切れさせた唯一の男なんだろうな。
…だから何なんだって話なんだけどな?
「遅いとか、そういう事じゃなくてさぁ。
まだ3話だろ?予定では20話の筈なんだから、それが半分になったとしたって10話だよね。まだ挽回の余地があるって事だよね。」
「…ハイ…。」
低い声で話すユーリ。
それを聞くしかない俺。
「ならさっさと痩せて、儚げな美貌取り戻して、書き手さんのモチべ呼び戻して、元通りの筋と話数迄物語引っ張ってく努力しな。」
「わっ、かりましたぁ…。」
ぐうの音も出ないしユーリの平坦低音怖過ぎる。
「まずは、今日から。
何?この楽屋弁当。揚げ物塗れじゃん。コレ食おうとしてなの?3キロ太っといて?っざっけんな。こんなモン食うくらいなら食うな!僕が持ってきた穀物バーあげるからそれでも食っとけ!!」
「あ、はい…あの、ユーリさん、お口が…。」
「ぁあん?
…じゃあ、はい、これね。」
俺がガクブルしながらも決死の覚悟で口調の乱れを指摘したらユーリは我に返ったらしく、やっと何時ものお淑やかさを取り戻してくれた。ついでに鞄から穀物バーとやらを取り出して、2本くれた。
なになに、鉄分、ミネラル?とパッケージを眺める俺。
「じゃあ、マユ。」
そんな俺に向かって、ニコッと微笑むユーリ。ゾクッ。
「今夜からは僕が食事の管理、してあげるね。」
「……ヨロシクオネガイイタシマス。」
こんな時のユーリに、俺が逆らえる訳無いじゃん?
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