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3 佐々木 2 (八尋)
しおりを挟む俺と佐々木が通っていた高校は、ごく平均的な公立高校だった。
生徒の殆どはβ。その中にポツポツΩがいる感じ。
αは受け入れていなかった。
高校進学前後ってバース性を発現したてで不安定な時期だから、トラブル防止の為にαとΩを分けとこう、って方針の高校は結構ある。
αは政府にあからさまに優遇されてるから、αばかりが集められてる学校も幾つかあるし、逆にΩのみの学校もあるとは聞いたが、それはそれで良いと思う。
βとΩが一緒にされてるのは、βにはΩの性フェロモンを嗅ぎ取る事ができないからだ。感知出来なければ影響の受けようもない、って理論なんだろうな。
影響を受けないからまるきり安全って訳でもないと思うんだけど。
で、俺はそんな普通校に通ってたΩだったんだけど…。
でもフェロモンが通用しないとは言え、Ωって容姿が良い奴が多いからβ相手でもそれなりにモテてたんだよな、俺以外は。俺 以 外 は !!
Ωと言っても、俺の性的ベクトルはその頃は圧倒的に女性に向いていたから 出来れば女子にモテたかったんだけど、全く相手にされなかった。かと言って男にモテたかと言われたら、それもNO。
友達にするにはちょうどよくても恋愛対象にはならないタイプ…。
俺はそういう人間だったようだった。
故に、その夜俺は佐々木に初告白と初キスを同時に奪われた訳で、これがテンパらずにいられるかという話だったんだけど、意外にもすんなりと俺達は付き合いだした。
『練習台と思えば良いじゃん。』
佐々木がそんな事を言ったからだ。
人間に対して練習台って…とは思ったけど、考えてみたらさ。既に俺は佐々木にファーストキスを奪われてる訳で、初壁ドン(?)もされてる訳だ。
少しくらい、誰かと付き合う時の予行演習に利用するくらい、バチは当たらないかと思ったんだ。
まあ、今思えばそのいじましい考えが良くなかったんだけど。
恋人(仮)になった佐々木の行動はその夜から早速始まっていた。
けれど何せ俺は、誰かと恋人として交際する事自体が初めてだったから、その危うさに気づかなかったんだよな。
色んな事に慣れた佐々木がするのが手本なのかも、って思ってた。
『もう帰った頃かな?お帰り。俺は寄り道してもう少しかかるよ。
今日はありがとう。
とりあえずこれからよろしくね。
帰ったらまた連絡する。』
帰宅して自分の部屋に入って電気を点けて数秒、制服のポケットが震えた。
スマホを取り出すと、さっき殆ど無理矢理って感じで交換させられたLIMEにそんな連絡が来てた。
「…マメなやつ…。」
そういう所もモテるのかな、と俺は返事を返す。
『帰った。
まあ、二週間よろしく。』
送ってしまってから、ふとさっきの佐々木の唇の感触が蘇ってきて、右手の指で自分の唇に触れる。
違う。こんなに固くなかった。もっとふにってして…あったかくて…。
キスを反芻している事に気づいて思わず赤面。
何をやってるんだ、俺は。
あんな奴の唇なんか思い出して…。
俺はその熱と煩悩を振り払う為に風呂に入り飯を食い、さっさと布団に入った。
佐々木からの帰宅LIMEが来る事はすっかり忘れ去っていた。
それだけ当時の俺にとって、キスは大事件だったって事である。
しかしそんな初心な俺の純情を弄ぶかのように、佐々木は翌日から何か理由をつけては俺に過剰な接触をしてくるようになった。
"恋人"だから。
"恋人"なら当たり前にする事だから。
そう言って。
俺はあまりに無知だった。
そんなものなのか、付き合えば普通にこれくらいはするものなのかと許容範囲を広げていってしまった。
毎日毎日、隣にいるようになった佐々木の存在に慣れていく毎に、苦手意識も薄れていって、油断してしまった。
佐々木が人の懐に入るのが上手い人誑しだと、忘れてしまってたんだよな。
優しくて、俺の機嫌を取るように先回りして気遣ってくれて、皆に愛想が良かった奴が、俺を最優先するようになって。
人気者だった佐々木にそんな風に扱われて、気分が良かった事は否定できない。
だからつい、絆されてしまった。
人目を掻い潜るように何度もするキス。
人の出入りが少ない場所にあるトイレの個室で息を殺すようにしてされるフェラチオ。
人目を忍んで体をまさぐられるスリル。
そろそろ二週間目を迎えるって頃には、佐々木の部屋で体迄明け渡して、抱かれた。
流石に俺だって、只流されてセックスしてしまった訳じゃない。
佐々木から与えられ続ける快楽にすっかり籠絡されていた俺は、このまま佐々木と付き合っていっても良いなぁ、なんて考え出していたんだ。
だから、セックスしても良いかと思った。
ヒートでもなくて、佐々木はβだし、もし避妊に失敗したって妊娠する確率は低い。大丈夫だよなって。
恋愛はよく分からない癖に、そういう知識だけは叩き込まれてたのもどうなんだって感じだけど、とにかくそう考えたんだ。
俺はセックスを許すくらいには、佐々木を好きになってたから。
それなのに、全てを佐々木と済ませた翌日。
「別れよっか。」
告白してきた時と同じ薄笑いで、佐々木はそう言った。
俺の目の前は真っ暗になって、心臓は一瞬で凍りついたように冷たく重くなった。
そしてそれから一週間後、佐々木は学校から姿を消した。
噂では親について引越した先に編入したらしいが、俺は耳を塞ぎそれ以上の情報が入ってくる事を遮断した。
連絡先も削除して、全てをなかった事にして過ごそうとした。
何事もなかったように振る舞って。
けれど、人気者だった佐々木を、図らずも独占していた二週間の弊害は佐々木が消えた後に俺を苦しめた。
佐々木に好意を持っていた生徒達は俺を遠巻きに、白い目を向けてきた。
佐々木が最後に選んだ相手が俺だった事が気に入らなかったのかもしれないが、俺からすればそうされたばかりに大事なものを失ったのだがな?弄ばれたのだがな?
という心境だ。
それでも実は負けん気の強かった俺は、学校では何食わぬ顔で過ごしていた。
心の中で、悔しさにのたうち回りながら。
そして、夜は佐々木が恋しくなる自分が情けなくて、毎日泣いていた。
佐々木を忘れられたのは、高校を卒業した頃だ。
そうしてやっと、奴は俺の中で、ヤり逃げの最低最悪の黒歴史になった。
そう処理する事で、俺は佐々木を過去にしたのだ。
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