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18 切り札 (八尋)
「…は?」
素で声が出てしまった。
「俺が、お前を、現在進行形で、好き、だと?」
衝撃過ぎて変な区切り方をしてしまった。
そんな俺を訝しげに見つめる佐々木。
まさか本気でそう思ってるってのか。嫌がらせじゃなく?
「…何で俺が、今でもお前の事を好きだと思うんだ?」
長い睫毛を引っつけたタレ目の綺麗な顔を張っ倒したいのを抑えて、努めて冷静に聞いてみる。
すると佐々木は、良い笑顔のままで言い放った。
「だって。俺はひろが俺の事を忘れられないように、わざわざあんな別れ方したんだし…。」
俺は無言で立ち上がって右腕を振りかぶり、佐々木の左頬を拳で殴りつけた。
仕事で荷の入った段ボール箱を運ぶのを手伝う事も多かった俺の筋力は結構強かったようで、佐々木は長いソファの端迄まあまあ吹っ飛んだ。
そして、信じられないものを見るような目で、頬を押さえながら俺を見上げてきた。
「……ひろ?」
「お前はそんなくだらない事の為に…。俺の心を何年も縛り付ける為だけに、あんな真似したってのか。」
人は怒りが振り切れると無表情になるって言うの、本当なんだろうなと思う。アレってきっと、どんな表情をして良いのかわからなくなるからじゃねーかな。
何故そう思うのかと言えば、実際今の俺がその状態だからだ。
「そうだな。確かにお前の目論見は成功してたわ。俺はお前を何年かは忘れられなかった。屈辱的だったしな。途中からは憎しみに変わって、琉弥に出会ってからは無関心になったけどな。」
俺は佐々木に、そう吐き捨てた。
それにどんどん目が見開いていくのは何故だ。まさかマジで俺が十何年も変わらずメソメソしながらお前を恋しがって泣いてたと思ってたのか。嘘だろ。
お前、ちょっと俺に夢見過ぎなんじゃないのか。
しっかり目の前の俺を見て目を覚ませよ。
お前と同じ、アラサーだぞ。若さで辛うじて可愛かったあの頃の俺はもういないぞ…。
「…ははっ…そんな訳ない。ひろは一途だし…俺がいなかったのが寂しかっただけだろ?」
「一途ったって限界あんだろ。何でヤリ捨てした挙句消えちまって、十年以上も連絡寄越さなかった奴に+の感情残してると思うんだよ。
お前は俺が他の男とくっついたから、惜しくなって茶々入れて来てるだけだろ。」
抑揚の無い声でそう言うと、佐々木は 違う!!と大声で否定してきた。
否定されてもな…と、俺は白けた目でソファから起き上がってきた佐々木を見下ろす。
「……あんな最後じゃなきゃ、俺だって…。」
言いかけて、止めた。
もう無駄な事でしかない。
そして気がついた。
琉弥が隣に居たんだった…。
横の琉弥を見ると、やはり目を見開いて俺を見上げていて、しまったなと思う。
琉弥には大人しくて守ってやりたくなる俺って風に見えてたらしいから、琉弥の俺イメージも崩しちゃったのかもしれん。なんかごめんな。
でもぶっちゃけ俺としては、どこ迄行っても微妙フツメンでしかない俺に、破壊力90以上のイケメンであるお前らが何故そんなにも夢を持てるのかがわからなんだよね…。
生まれながらに美形だと美的感覚が狂ってしまうんだろうか。
「…ごめんな、乱暴で。」
ビックリ顔の琉弥に謝ると、琉弥は首を振って言った。
「惚れ直した。」
「…あ、そ…。」
取り敢えず幻滅はされずに済んだようだけど、やっぱりお前もおかしいな。
しかし、俺の渾身の一発のお見舞いも虚しく、それからも佐々木はグズった。
「嫌だ!だってソイツは浮気したんだよ?
番のΩ以外を抱いたんだ。一度や二度じゃない、二年だよ?二年!そんな酷い裏切り、許せるのかよ、ひろ!」
「お前がゆーな。
つか、隠し撮り出せ。」
「嫌だ。」
「お前、何時迄もふざけるな。早く出せ。
お前が何をしたって俺と琉弥は別れない。」
「八尋!!」
「何でだよ?!!
じゃあ俺は社のコンプラ窓口に訴えてやる、パワハラセクハラでな!」
俺の言葉に琉弥は涙目で両手で口を押さえ、佐々木はタレ目を釣り上げて(比喩です)激昂した。
琉弥が段々いたいけなヒロインに見えてきだして、俺は複雑な気持ちに。
二年間の逆レイプでメンタル弱ってるからな、仕方ないな、と俺は気を取り直す。
それにしても佐々木の奴、捨て身に出て来たな。
訴えたって調査が入れば、佐々木が一方的被害者ではないのは直ぐにわかる。会社での立場だって無くなるのに。
とはいえ、琉弥は先月またしても異例の昇進を果たしたばかりだ。身内の会社とはいえ、せっかく短期間でのスピード出世なのにコンプラ違反で足を引っ張られたら面倒。醜聞は避けてやりたい。
「佐々木。お前、いつ迄もそんな事言ってると、俺達も違う手段を出さざるを得なくなるぞ。」
「は?何だよ、それ…。」
そう言った佐々木の唇の端は、もう何時も通りに上がっていて、未だ俺達を舐めているのがわかる。
俺が出来る事なんか知れてるって顔してる。
「違う手段って何だよ。
何言われたって、俺はひろが好きなんだ。俺の方がそんな奴なんかより…、」
「わかった。それが答えだな。もういい。」
俺は溜息を吐いて、テーブルに置いていたスマホを手に取り、リダイヤルでとあるナンバーに電話を掛け、隣に座っている琉弥に渡した。
相手が出ると、琉弥が英語で会話を始める。最初はニヤケた顔でそれを見ていた佐々木が、途中から顔を強張らせていくのを俺は備に見ていた。
「……おい、ちょっと待て…まさかその相手…、」
佐々木が震える声で琉弥に問いかけるのを遮るように、出入口のドアが開き、誰かが入ってくる足音がした。
しっかりと重みのある、急ぎ足のそれは、佐々木の座っているソファの真後ろで立ち止まった。
「レン…。」
尾骶骨に響くような低い声に、佐々木の肩が面白い程にビクリと跳ねた。
額から冷や汗を流した佐々木に、振り返る勇気は無いようだった。
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