旦那の愛人(♂)にストーカーされています

Q矢(Q.➽)

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19 ジョエル (八尋)



「会いたかったよ、レン。」

そう言って佐々木を背中から抱きしめたのは、大柄で眉目秀麗な白人男性。
流暢過ぎる日本語と見た目のギャップに俺脳がバグを起こしかけている。

抱きしめられた当の佐々木は、顔を真っ青にして後ろを確認する事さえ出来ずぶるぶる震えているが、白人男性はそんな佐々木の頬に愛しげに頬擦りをしている。


「……ハッ…ヒッ…ジョエル…な、なん、で…ここに…、」

やっと、という感じで絞り出したらしい声は、掠れに掠れていた。
どんだけよ、お前…。


「先月、やっと日本に来れたんだ。」

ジョエルと呼ばれた男性は、そう言って 佐々木の肩越しにその顎を優しく指で掴んで自分の方に向かせた。そして軽く唇を重ねた。
それから、蕩けるような微笑みを佐々木に向けたまま、

「家も用意してある。勿論、君の部屋も改築済みだよ。」

と言うと、佐々木は声にならない悲鳴を上げた。

「やっ、やだ…っ」

「レン、可愛い僕の子鹿。

もう逃がさないからね。」

佐々木はそれを聞くと、ジョエルの腕の中でがっくりと脱力した。



ジョエルは1年前から佐々木に人を付けて動向を追っていた、佐々木のストーカーである。

これはぶっちゃけ佐々木本人の失態なのだが、詳しく話すと…。



父親について海外に行った佐々木は、それはもう遊んだ。なまじコミュ力があるし、頭の回転も良く容姿も良い佐々木は、日本人ながら直ぐにスクールカースト上位に食い込んだ。
となればそこには、それなりの人材が揃っている訳で…。
何人もの男女と体の関係込みの付き合いをした佐々木に、ガチ惚れした人間は少なくなかったが、その中でもダントツだったのがユニバーシティ(大学)の一年先輩だったジョエルだった。

西欧のとある国の貴族の流れを汲むという家の惣領息子であり、上位αであるジョエルには、当時 家同士が決めた、幼馴染みの婚約者のΩ女性が居た。
血統を守る事が主の政略結婚のようなものだったが、ジョエルは幼い頃から知る病弱な彼女を、妹のように大事にしていた。

そんなジョエルが、ある日、佐々木に出会った。
人誑しで人懐っこく、危うい佐々木の奔放な魅力に、ジョエルはすっかりハマってしまう。
一度寝たら、手放したくなくなった彼は、誰にも定着する事のない蝶のような佐々木を捕まえておく為に、自分の屋敷に誘い込んで二週間ばかり軟禁した事もあったらしい。
それで、勿論…というか、ご愁傷様というか、佐々木はそこで連日αの猛りに猛った性欲を受け入れ続けざるを得なかったらしいのだが、ジョエル本人はかなり加減したつもりだったようだ。
けれど、人種による基礎体力の差ってのも、あるのかな。加減してても…まあ、ね。
しかもジョエルはαの中でもトップクラスの上位種だから、色々と桁違い。
それなのに、それに二週間も朝から晩迄付き合わされたんだから、しがない日本人βでしかない佐々木にしてみたら命の危険すら感じたんじゃないだろうか。
本気で怖くなったのか、ある日屋敷から姿を消した。

ジョエルにしてみれば、最上級に大切に扱っていたのに何故か逃げられて納得いかない。
大学でやっと捕まえた佐々木はジョエルに、婚約者のいる人とは付き合えない、と告げた。多分、苦し紛れだったんじゃないかと思うんだけど、折しもジョエルは卒業間近。卒業と同時に婚約者との番契約も待っていた事を、ここでやっと思い出し、佐々木の言葉を真に受けた。

婚約者のいる身で佐々木を愛してしまった事が、佐々木を苦しめてしまったんだ!
と、ジョエルは思ったのだという。
んで、そっからが、ちょっとアレな人の思考だなって思うんだが……。


まず、ジョエルは婚約者との番契約をきちんと実行し、結婚もした。
だが、体の弱かった彼女は結婚して間もなく、持病が悪化してしまった事により入院生活を余儀なくされていたのだが、治療の甲斐もなく、3年程で亡くなってしまった。 
彼女がそんな状態だったので、勿論子供を作る営みなどは無かったというが、元々彼女は妹のように可愛がっていた存在だ。ジョエルの喪失感は計り知れなかった。
しかし、暫くするとジョエルは ずっと心にかかっていた佐々木の事が気になって仕方なくなった。

人を雇い、捜索を始めたが、佐々木は既に国を去っているとわかった。
大学を卒業し、既に数年が経過している。
彼の故郷は極東の小さな国だった。きっとそこに帰っているに違いない、とジョエルは考え、調査員を数人、日本に送り込んだ。

そうしたらそれから間も無く、佐々木が見つかったという報告が入った。
ジョエルは早速日本へ向かおうと考えたのだが、親族達が止めた。
そんなアジア人のβの尻を追っかけるより、新しい番を見つけて跡継ぎを儲けろと言われた。

それで、ジョエルは切れた。

親族と揉めに揉め、全員の首根っこを押さえつけて降伏させるのに時間を食った。調査員によれば、日本にいる佐々木は他人様の家庭にとんでもないおイタをしているというし、ジョエルは本当に頭が痛かったと零した。

それでも周囲との闘いに漸くケリをつけ、跡継ぎは年の離れた従兄弟の成人を待って譲る事に落ち着いたらしい。
俺が佐々木に付けた調査員達が、ジョエル側の調査員の存在に気づいたのは、ちょうどそんな時だった。

俺側の調査員は、最初は気の所為かと思ったらしい。
だが、彼らのような職種の人々というのは、同業者の匂いに敏感なものだ。何度もかち合い、互いにお互いの存在を意識しだした頃、俺にもその旨の報告が上がって来た。
そしてそれは、向こうも同じだったらしい。
接触を試みたのは、俺の意向だ。身分を明かし、俺自らが、お宅の雇い主とコンタクトを取りたいと言った。

はたしてジョエルはそれに応じてくれて、通訳の出来る調査員を交えてリモートで数回、話し合いをした。

で、全てを片付けたジョエルが日本にやって来たのが先月だ。ホテル暮らしの傍ら不動産を探し、購入し、改築工事を入れ…。
ジョエルは着々と、佐々木を囲い込む檻を作り上げていた。

話を聞いて、流石にそれは佐々木が可哀想だな……と思っていた俺。
精力絶倫のα相手に二週間はキツい。俺なら死んでる。
だから、佐々木が身を引いてくれさえすれば、元々このホテルの同じ階の部屋に宿泊してるジョエルに所在をチクる事も無く、逃がしてやるつもりもあったんだけど…。

そう。俺がこのホテルを指定したのは、ジョエルが此処に常泊していたからだ。

同じ階の隣室が空いていたのは只の偶然だったんだが…。


しかしこうしてジョエルに囲われてガクガク震えている佐々木を目の当たりにすると、何とも言えない気持ちになる。

佐々木、お前…、もう誰かを抱く事は…ないかもなあ…。



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