旦那の愛人(♂)にストーカーされています

Q矢(Q.➽)

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20 守りたいこの寝顔 (八尋)




こうして佐々木は、眩しい金髪に碧眼、筋骨隆々の、文字通り神様みたいな白人男性であるジョエルにお姫様抱っこで回収されていった。
同じ階とはいえ、此処と同じく室内に部屋数もあり、防音も完璧な5502号室で、佐々木がこれからどんなお姫様扱いを受けるのかは想像すら出来ないが、幸せになれとだけ言っておこう。


いや、曲がりなりにも一度は好きになった男だから、幸せになって欲しいのはホントだ。でも、自分が悪いとは自覚できないらしい所や謝罪もない所、更には琉弥にした事を思えば、自業自得だと思わないか。

それに…正直、お前の愛はどうやら人に向けてはいけないものっぽいし、ジョエルみたいな暑苦しい人に愛されてるくらいの方がちょうど良いんじゃないかと思うんだよな。

悪さしようって気も起きなくなるだろ?

そんな意味の事を、もう少し掻い摘んで笑顔で言ったら、佐々木はわかり易く引き攣った顔で涙目になっていた。
一方ジョエルはそれとは対照的に、太陽のような笑顔で俺達に礼を述べ、琉弥とは言葉を交わしながら佐々木を片腕に抱き直して(!)から握手迄していた。
物凄く嬉しそうに、何度も何度も腕の中の佐々木を見てはニコニコしていたのが印象的だった。

ジョエルは友好的で、良い意味でアグレッシブで、多分、凄く良い人だ。

でも、俺は思った。

俺、マジで相手が琉弥で良かったな…って。

琉弥は表向きはちょっと俺様で傲岸不遜なとこもあるけど、俺には物凄く優しい。セックスの時だって、理性を失いかけても俺の為に自分をセーブするのを頑張ってるのがわかるし、愛だから愛だから、なんて押し付けて、俺に負担を強いたりしない。
つまり、加減というものを知っている。

しかも、不貞行為を知ってからのここ半年は、俺にヒートも来なくて普段もほぼレスだったのに、俺が体調不良だからと耐えていてくれた。
何も知らなかった俺は、それを佐々木との行為で発散しているとばかり思っていたけれど、アイツとの行為は琉弥には、逆に負担だったんだよな。

相手を傷つける手段にセックスを使った佐々木に、あの無邪気な程に愛をぶつけ続けそうなジョエルは破れ鍋に綴じ蓋的でお似合いではなかろうか。

脅されて、それでも相手の機嫌を窺わなきゃならなくて、したくもない性行為を強いられる事に、する方だからとかされる側だからとかは関係無い。

俺はこれから、そんな被害を受けた琉弥のケアをしなきゃならない。
琉弥が与えてくれていた、溢れる程の愛を。

今度は俺が 琉弥に返していくんだ。精一杯。





ジョエルと佐々木が去って、数十分。
俺はソファに座り、琉弥の頭を太腿に乗せて撫でていた。古の昔より、人の世では膝枕とよばれている行為だ。大袈裟に言ってるのは、照れるからだ。

付き合いだした頃から、琉弥は俺の膝枕が好きだった。なのにこれもかなりの間、してやれてなかった。

琉弥はひとりで闘っていたんだな。俺からの癒しも得られないまま、俺を守る為に自分で自分を奮い立たせていた琉弥。
孤独だっただろうな。

俺は膝の上で寝息を立てる琉弥のしっとりした黒髪を、時々指で梳きながらゆっくりと撫でた。
これからじっくり、前みたいな艶を取り戻させてやるからな…。
 
こうしてじっくり見ると、目の周りの隈や、痩けた頬、窶れて疲れの色がこんなにも色濃く出ているのに。
疑惑と不信に陥っていた俺の目は曇って、琉弥の姿をまともに映そうとはしなかった。
だから、こんな変化にも気づけなかった。



「ごめんな…。」

最初に様子がおかしいと思った時に、問い詰めてやるべきだった。
平静と余裕を装うのが得意な琉弥が洩らしたサインだった筈なのに。
俺はそれを、気の所為だと否定して、途中からは自分の事ばかりでいっぱいいっぱいになって、お前と向き合おうともしなかった。

「ごめんな。俺が弱かったから…ごめんな。」

頼りなく伏せられた瞼に長い睫毛。
それを見ていて、涙が出た。

俺は、‪琉弥(‪α‬)は強いから大丈夫、みたいに思い込んでた。
そういう、優れてて強い人間には俺みたいな人間の気持ちなんかわからないって。
‪α‬だって、同じように心を持った人間なのに。

琉弥を撫でる反対側の腕の袖で涙を拭った。零して顔を濡らしでもしたら起こしてしまう。
でも、遅かった。


「どうした?」

微睡んでいた筈の瞼は開いていて、黒い瞳が真っ直ぐ俺を見上げていた。
長い腕が俺の頬に伸ばされて、その指先は湿った涙の跡に触れた。

その温もりで俺はまた涙が溢れた。

「ごめんな。」

「…謝るのは俺だろう。」

「琉は俺の為に嫌な思いを、ずっと…。」

「今、八尋がこうして傍にいてくれたら、それで良い。」

弱った‪α‬の微笑みが、胸が痛くなる程に綺麗だったので、俺は背を丸めて その唇にキスをした。

優しく柔らかく、愛しいキスだった。


そのままその部屋に泊まった俺達は、自宅の物より大きなベッドで、久しぶりに抱き合って眠った。

全部が終わって疲れ果てた琉弥が、俺がちゃんと傍にいる事を確認するように目を覚ます度に、額にキスをして眠らせた。

番を解除されるという不安を与えてしまった罪深さを後悔しながら、とにかく佐々木が今頃はあんな目やこんな目に遭っているだろうと想像する事で溜飲を下げようと頑張った。

さっき琉弥はジョエルに、

『お礼に今度お2人を食事にご招待したい。
日本には友人も少ないので、是非友人になって欲しい。八尋君の連絡先は知ってるけど、君の連絡先も今度教えてね!!』

と言われたらしいので、今後はジョエルから定期的に佐々木の様子も聞く事になるだろう。

Ωの番を亡くしたジョエルは、完全に佐々木を嫁にする気で、逃がす気も全く無いようだったのが頼もしい。

俺はやっと本格的に寝入った琉弥の背中を撫でながら、この寝顔をずっと守ろうと決めたのだった。




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