人生2度目に愛した人は奪われた番の息子でした

Q矢(Q.➽)

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14 村上 和志と父のこと

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村上の中に残る母の記憶は少ない。


村上 和志は祖父母に育てられた。幼い頃に母が事故で亡くなったからだ。
実父は健在だが、幼い和志を一人では育てられないと、養育を母の両親である和志の祖父母に託したのだと聞いている。大人同士の間でどんな話がなされたのかはわからない。和志もその辺にはそんなに興味は無かった。
肝心なのは、その後和志は何不自由なく、祖父母に十分な愛情を注がれながら、すくすくと育ったという事だ。
和志を産んだ時、母は未だ18だったから、祖母も祖母というには年齢的にも若かった。
だから和志にとっては祖父母というより、実の父母のような感覚でいたし、対外的にも親子のように見えていたのではないだろうか。
そんな感じなものだから、和志も普段はそこ迄意識せずに暮らしていた。


記憶の中の母は何時も寂しそうな笑顔を浮かべていて、未だほんの少女のようだ。和志は少し成長してくると、飾られている笑顔の母の写真と、自分の記憶の中の母の印象が全く違う事を不思議に思うようになった。
リビングに飾られているのは、夏の青い空と海を背にした弾けるような笑顔の母の写真だった。一点の曇りも無い、幸せそうな少女の笑顔だ。撮影者は誰なのだろう。今は離れて住む父だろうか。

和志は父と母の馴れ初めを全く知らない。

未だ母が生きていた頃の母との会話で、覚えているのはごく僅かな部分だ。

パパとママはどうして結婚したのか、という邪気の無い問いに、母は何時も判を押したようにこう答えた。


『運命の番だったからよ。』

運命。運命の番だったから。

その言葉は、幼い和志の心と記憶に深く刻み込まれた。勿論、肯定的な意味として。幼かった和志は、その言葉を素直に受け止めた。


小学生になった頃から、和志はめきめきとαとしての頭角を現した。父はα、母はΩ。
その間に産まれた和志がほぼαである事は間違いなかった。
秀でた容姿、同年代の子供達より頭一つ抜きん出た体躯。成績も常にトップで、運動神経も良く、αとしてのあらゆる特徴を備えていた和志には、早くから女生徒からのアプローチが絶えなかった。だが、和志がそれらに気を引かれる事は一度として無かった。

「僕は運命を信じてるから、ごめん。」

それが和志の口癖だった。

中二のバース検査で80%だった検査確率は、高一の検査では完全にαと確定した。
その頃和志は高校入学と同時に父の元に戻っていたが、多忙な父との親子としての会話は殆ど無く、また和志もそれを期待しなくなっていった。
最初は違ったのだ。
高校進学を機に、実父との距離を縮められたらという期待があった。祖父母の元で暮らし始めてからあまり会う機会の無かった父だが、若く容姿端麗な父は和志の密かな自慢だった。会話をする時も言葉は少ないが、優しさは感じる。
けれど、何店舗もの店を持つ経営者の父は、何時もとても多忙だった。和志の言葉に頷いてはくれても、向き合ってはくれなかった。
和志は早々に父とのコミュニケーションを諦めて、父子の同居生活は3年で終わった。
進学する大学が、父のマンションからは少し遠くなるのも、切り上げる良い口実になった。だが、父もそんな自分の心境を察していたのかもしれない。
和志を前にした父は何時も気不味げだった。

血の繋がった親子であっても、10年という月日を縮めるのはなかなか難しいものだなと和志は思った。

祖父母が常々言っていた、父には期待するなという意味が遅ればせながら理解できたと感じた。父との距離が近づいたら、聞いてみたかった事があったのに、と 残念でならない。
母との出会いはどうだったのか。
母のどこが好きだったのか。
母とはどうして番になったのか。
運命の番に出会う時とは、どんな感じなのか。

祖父母が父の事をあまり良く思ってはいない事は、和志も幼い頃から察していた。そんな2人に、父と亡くなった母との事など聞けはしなかった。
けれど、母を亡くした後、ずっと独身を貫いている父は、きっと今でも母を愛しているのだと思った。αである父は次の番を作る事も、そうでないならβと結婚する事だって可能なのに、それをしないのだから。
運命の番同士の愛とは、通常の番よりも深い絆で結ばれていて、死すらも2人を分かつ事は出来ないのだ。
和志は、両親の関係にそんな夢を見ていたのだ。

αである和志にとって、"運命の番"は憧れだった。

血と遺伝子が呼び合って、強烈な本能で惹かれ合う2人の前にはなにものも障害になどならない。出会った瞬間、電流が走ったような衝撃をもって互いを認識する。

ーー自分も何時か出会いたい、ただ一人の、自分だけのΩに…。ーー

若い和志が純粋にそう願い、夢見るのは仕方ない事だ。何時か来るかもしれないその出会いの為に、自分だけの運命の人の為に、恥ずかしくない自分でいたいと、只そう願うのも。

そして。

"運命"を肯定的なものとして信じて生きてきた純粋な青年は、愛と"運命"が大嫌いで否定的な、孤独で美しい男性Ωと出会ってしまった。

父の元の番。父が手酷く裏切って捨てた、南井 義希の運命の番として。





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