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22 染矢 秋広は懲りない 1 (当て馬回)
(※箸休め的な話)
ーー南井部長の雰囲気が柔らかくなったーー。
とは、ここ最近の南井の社内での評である。
穏やかだけれど何処か踏み込むのを躊躇させるような雰囲気を持っていた南井。それが逆に程良い距離感でもあったのだけれど…。
優しげな見た目に反して、仕事に関しては容赦なく部下の尻も叩くし、厳しい。だが窮地に陥ると必ず拾い上げてくれる為、その下に居ると働き易い…というのが、殆どの社員達にとっての南井観である。
ある意味理想の上司ではあるのだろうが、南井本人からしてみればそれは過大評価だった。
部下にフラットに接するのも、ミスをした時にフォローするのもそれが上司として当たり前の仕事だからだ。何かあった時に責任を取る為に据えられた立場。
南井は自分に与えられた役職をそう捉えている。
ともあれ、そんな仕事一辺倒であった南井の雰囲気を和らげている原因と思われる事が、社内では少し噂になっている。南井には恋人がいる、というような噂だ。
となれば、穏やかな気分ではいられない人間も、実はいる訳で…。
本日、久しぶりに南井を見に現れた一人の男がいた。
染矢 秋広。
以前、南井に猛アタックして玉砕した後、ストーカー化して最終的にお縄になった、取り引き先の御曹司である。
彼はβで、本来のセクシュアリティ的にはヘテロの筈だった。とにかく美人とみれば直ぐ口説く、生粋の女好き。
それが何故か、仕事で南井に出会ってしまってから血迷った。細面で華奢とはいえ、常にきちんと髪をセットし、年相応の男性用スーツを着こなしている南井だ。何処から見ても男にしか見えない筈なのだが、染矢は南井にぼうっと見蕩れてしまった。
南井がΩとは知らないにも関わらず、である。
それから染矢の猛攻が始まった。仕事上の関係もあり、あまり事を荒立ててもと、最初の内は南井もさらりと流していたのだが、度重なるとそうともいかなくなった。
退社時の連日の懲りない待ち伏せから始まり、頻繁な連絡や食事の誘い。
次第に面倒になった南井は、染矢の父である取り引き先の社長にそれとなく事を伝えた。それにより南井は謝罪を受け、染矢は生真面目な父親に叱り飛ばされ、案件も外された。そのお陰で待ち伏せも止み、南井と染矢の接点は無くなるかと思われたのだが、思えばそれが逆効果だったのか。
思い詰めた染矢は強硬手段に出てしまったのだ。
染矢は南井を、強引に自分の車に引っ張り込もうとした。
染矢の容姿はそれなりに整っているし、金もステイタスも持っている。それ迄口説いた女性はそれらを総動員して、何とかモノにして来たらしいのだが、Ωとはいえ、男性である南井を同じように扱おうとしたのがそもそもの間違いだった。
力で押し切ろうとされたから、南井だって咄嗟に力で抵抗した。しかもその光景を、南井の社の数人の社員が通りすがりに目撃していた。助けに入った彼らの通報により染矢は警察に連行され、南井は事なきを得たが、勿論それだけでは済まなかった。
警察から連絡を受け、染矢の父親である取り引き先の社長と祖父である会長が飛んできて揃って南井に頭を下げにきた。
馬鹿息子が介入して来る迄は優良取引先だったので、南井の意向もあり取り引きは続行したのだが、染矢本人はとうとう会社の後継からも外されてしまった。
それなのに染矢は、凝りもせずまたひょっこりと、南井の様子を見に現れたのだ。
あの後きつ~くストーカー規制法違反による禁止命令迄出されておきながら、筋金入りの馬鹿である。
だが染矢にしてみれば、初めて男を好きになって、懸命に口説いていただけだったのに、何故あんなに嫌がられたのかが未だに納得いっていなかった。
近づいちゃ駄目、って…何だよそれ。好きな気持ちは誰にも止められなくね?!
…という思考である。
南井が男性である事はわかっているので、南井と出会ってからネットで色々調べたのだ。
男性同士のセックスのやり方を。それで、出来るだけスムーズに肉体関係に至れるようにと、様々なグッズなどを買い揃えた。
…まあ、それらは南井を拉致しようとした際に、大事に車に積んでいたのを警察に見咎められて、ストーカー行為を裏付ける動かぬ証拠となってしまった訳だが。
というか、そんな犯罪に手を染めてまで男との初体験を達成したかったのか、と周囲にあれだけドン引きされて、親には面と向かって罵られたというのに、染矢、無駄にメンタルが強い。
これが犯罪者脳なのか…。
そんな訳で今日、およそ一年振りに南井の姿を見た染矢の胸は弾んだ。
相変わらず南井は綺麗だ。
だが、その変わらぬ美しさが今の染矢には不安要素だった。
聞き捨てならない噂を耳にしたからだ。
あの鉄壁の南井に、恋人が出来たようだと。
袖にされ続けた染矢としては、黙っていられない噂だった。だから確認に来たのだ。
あれだけの目に遭っておきながら、染矢は全く懲りてはいなかった。
ーー南井部長の雰囲気が柔らかくなったーー。
とは、ここ最近の南井の社内での評である。
穏やかだけれど何処か踏み込むのを躊躇させるような雰囲気を持っていた南井。それが逆に程良い距離感でもあったのだけれど…。
優しげな見た目に反して、仕事に関しては容赦なく部下の尻も叩くし、厳しい。だが窮地に陥ると必ず拾い上げてくれる為、その下に居ると働き易い…というのが、殆どの社員達にとっての南井観である。
ある意味理想の上司ではあるのだろうが、南井本人からしてみればそれは過大評価だった。
部下にフラットに接するのも、ミスをした時にフォローするのもそれが上司として当たり前の仕事だからだ。何かあった時に責任を取る為に据えられた立場。
南井は自分に与えられた役職をそう捉えている。
ともあれ、そんな仕事一辺倒であった南井の雰囲気を和らげている原因と思われる事が、社内では少し噂になっている。南井には恋人がいる、というような噂だ。
となれば、穏やかな気分ではいられない人間も、実はいる訳で…。
本日、久しぶりに南井を見に現れた一人の男がいた。
染矢 秋広。
以前、南井に猛アタックして玉砕した後、ストーカー化して最終的にお縄になった、取り引き先の御曹司である。
彼はβで、本来のセクシュアリティ的にはヘテロの筈だった。とにかく美人とみれば直ぐ口説く、生粋の女好き。
それが何故か、仕事で南井に出会ってしまってから血迷った。細面で華奢とはいえ、常にきちんと髪をセットし、年相応の男性用スーツを着こなしている南井だ。何処から見ても男にしか見えない筈なのだが、染矢は南井にぼうっと見蕩れてしまった。
南井がΩとは知らないにも関わらず、である。
それから染矢の猛攻が始まった。仕事上の関係もあり、あまり事を荒立ててもと、最初の内は南井もさらりと流していたのだが、度重なるとそうともいかなくなった。
退社時の連日の懲りない待ち伏せから始まり、頻繁な連絡や食事の誘い。
次第に面倒になった南井は、染矢の父である取り引き先の社長にそれとなく事を伝えた。それにより南井は謝罪を受け、染矢は生真面目な父親に叱り飛ばされ、案件も外された。そのお陰で待ち伏せも止み、南井と染矢の接点は無くなるかと思われたのだが、思えばそれが逆効果だったのか。
思い詰めた染矢は強硬手段に出てしまったのだ。
染矢は南井を、強引に自分の車に引っ張り込もうとした。
染矢の容姿はそれなりに整っているし、金もステイタスも持っている。それ迄口説いた女性はそれらを総動員して、何とかモノにして来たらしいのだが、Ωとはいえ、男性である南井を同じように扱おうとしたのがそもそもの間違いだった。
力で押し切ろうとされたから、南井だって咄嗟に力で抵抗した。しかもその光景を、南井の社の数人の社員が通りすがりに目撃していた。助けに入った彼らの通報により染矢は警察に連行され、南井は事なきを得たが、勿論それだけでは済まなかった。
警察から連絡を受け、染矢の父親である取り引き先の社長と祖父である会長が飛んできて揃って南井に頭を下げにきた。
馬鹿息子が介入して来る迄は優良取引先だったので、南井の意向もあり取り引きは続行したのだが、染矢本人はとうとう会社の後継からも外されてしまった。
それなのに染矢は、凝りもせずまたひょっこりと、南井の様子を見に現れたのだ。
あの後きつ~くストーカー規制法違反による禁止命令迄出されておきながら、筋金入りの馬鹿である。
だが染矢にしてみれば、初めて男を好きになって、懸命に口説いていただけだったのに、何故あんなに嫌がられたのかが未だに納得いっていなかった。
近づいちゃ駄目、って…何だよそれ。好きな気持ちは誰にも止められなくね?!
…という思考である。
南井が男性である事はわかっているので、南井と出会ってからネットで色々調べたのだ。
男性同士のセックスのやり方を。それで、出来るだけスムーズに肉体関係に至れるようにと、様々なグッズなどを買い揃えた。
…まあ、それらは南井を拉致しようとした際に、大事に車に積んでいたのを警察に見咎められて、ストーカー行為を裏付ける動かぬ証拠となってしまった訳だが。
というか、そんな犯罪に手を染めてまで男との初体験を達成したかったのか、と周囲にあれだけドン引きされて、親には面と向かって罵られたというのに、染矢、無駄にメンタルが強い。
これが犯罪者脳なのか…。
そんな訳で今日、およそ一年振りに南井の姿を見た染矢の胸は弾んだ。
相変わらず南井は綺麗だ。
だが、その変わらぬ美しさが今の染矢には不安要素だった。
聞き捨てならない噂を耳にしたからだ。
あの鉄壁の南井に、恋人が出来たようだと。
袖にされ続けた染矢としては、黙っていられない噂だった。だから確認に来たのだ。
あれだけの目に遭っておきながら、染矢は全く懲りてはいなかった。
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