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23 染矢 秋広は懲りない 2
南井は会社の入っているビルから出て来て、少し行った角を曲がって立ち止まり、ちらちらと来た道を振り返っている。それを車の中から眺める染矢。
父親と祖父と母と妹、家族全員の誰かに絶えず見張られていて勝手には家を抜け出せず、生の南井の一挙手一投足を見るのが久々過ぎて興奮しきりである。
今日の南井は白い肌の映える、ネイビーの上品なグレンチェック柄のスリーピーススーツ。体のラインが程良く出ていて綺麗だ。
染矢は思わず見蕩れた。
男のスーツ姿なんか腐る程見ているというのに、南井のスーツ姿は別格過ぎて最早神々しい。神々しいのに、ストイック過ぎて妙に色香がある。
そんなにスーツ姿が好きなら、それを剥く事なんか考えなきゃ良いのに、あまりに根がスケベなのでそうはいかないのであった。
それにしても南井は何故、あんな場所でずっと佇んでいるのだろうか。
どう声を掛けようかと染矢は考えた。
話をしたいだけ、と言っても、きっと車には乗ってくれない。気づかれないように気絶させて、別荘にでも連れ込むか…。
相変わらずの犯罪者脳である。
南井が立っている歩行者専用道路にそっと車を寄せようとした時、南井の顔がパッと明るくなった。勿論、染矢に対して向けられたものではない。
南井の表情につられ、染矢は南井の視線の向けられている方向を見た。
背の高い若い男が南井に向かって走ってきていた。
村上である。
(…え?誰?弟?)
そう思っている間にその男は南井に追いつき、2人は何か談笑しながら歩き出した。
手を繋いで…。
染矢の目は点になった。
(え?まさか、あれが??
いやまさか。ガキじゃねえかよ。)
確かに大学生の村上は、南井からはガキと言えるかもしれないが、実は染谷だって未だ25なので、南井からすれば十分ガキなのだが、染矢はそうは思わない。
自分より歳下の男があの南井の隣を歩いているのが死ぬ程不満だった。
頭に来たのでつい車を降りて、走って2人の前に立った。
「南井さんっ!!」
「げっ」
「義希さん、知り合い?」
染矢の顔を見た南井は、開口一番、あまり品の良くない言葉を発してしまった。村上は日頃見た事のない南井の様子を見て不思議そうにしている。
思えば村上が未だ何も知らないこの時点で、染矢は退散しておけば良かった。
「染矢さん、何しにいらしたんですか。
禁止命令、もうお忘れになられました?」
南井は冷たく言い放った。
染矢の父親からは、また万が一、染矢が禁止命令を破る事があれば遠慮なく通報して下さいと言われている。相手方の社長である染矢父はとても真面目な人なので、あれ以上の心労を掛けたくはないが、何故この息子はこんなにボンクラなのだろうか。
南井は眉を寄せて染矢を見た。
「あまりお父様を悲しませるのは感心しませんよ。」
以前のように曖昧に微笑んでくれる事すら無い。それは染矢の自業自得なのだが、彼は不満だった。
「俺の気持ちをわかっていながら、そのガキは何ですか?!」
ガキという言葉に、ピクリと片眉を上げた村上を指差しながら、アレッと思う染矢。
何だ?このガキ。やたら顔が良い。
それに何だか、妙に圧が…。
妙な感じに気づいた所でやめておけば良かったのに、染矢は文字通りボンクラなのでそういう空気を読んで引っ込む事が出来ない。
故にどんどん墓穴を掘った。
「何故、俺じゃ駄目なんですか?!」
「思い通りにならなければ、ストーカーしたり拉致監禁しようとする人だからですね。」
呆れたように答えた南井の言葉を聞いて、みるみる内に表情の変わる村上。
「…は?拉致?」
切れ長の目がきらりと光って、鋭く細まる。
「義希さん、この人って…。」
「俺をレイプ目的で連れ去ろうとして警察沙汰になったストーカー。
取り引き先の社長の息子さん。」
「へえ…。そうなんですかァ。
…どうも。ウチの義希さんが色々お世話になりましてぇ。」
先程迄とは打って変わった、地獄の底から響いて来るような低い声で、村上は染矢に向かってそう言って左手を差し出した。
はあ?誰が握手なんか、と南井から再び村上に視線を移した染矢は、一瞬で固まった。
村上の表情は笑っている筈なのに、染矢を見るその目にはなみなみとした殺意が漲っていた。
そして、染井は最初に村上に持った違和感の正体に気づいた。
(あ、コイツαじゃん…。)
気づいた時には村上の背後から立ち上るような殺意混じりの、足元から這い上がって来るようなプレッシャーに、身動きも取れないまま、恐怖でチビっていた。
(殺される…。)
βは匂いは感知出来なくても、αの威圧は感じ取れる。
声も出せず蛇に睨まれたカエルのように村上の圧に飲まれていた染矢は、南井の前でスラックスを濡らした…。
南井は呆れ、村上は無言だった。
そしてそれ以来、染矢の姿を見る事はなかった。
これが、村上と南井が番になる少し前の事である。
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