人生2度目に愛した人は奪われた番の息子でした

Q矢(Q.➽)

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39 南井 義希は素直になる



明日は月曜だからと、南井は心配する和志を彼のマンションに送り届け、自宅マンションに帰宅した。
寝室に入ってコートと上着を掛けると、疲れがどっと来てベッドに仰向けに寝転がった。
天井に向かって長く息を吐く。

この歳での睡眠不足は流石に堪えるな、と瞼を閉じると、昨日から今日にかけての事が思い浮かんだ。





陽司と会って良かったのだ、と思う。
知らなかった事も知れた。謝罪も受けた。
それで、知らずの内に蟠っていたものが整理できた。それだけで、新たな気持ちで前に進める。


あの頃。
番を解除された当事者の筈なのに、無理矢理蚊帳の外に追いやられた気分だった。
何があったのかも、親伝たいにしか耳に入ってこず、陽司本人からは一切の連絡も謝罪も無く。
親に謝らせるな。俺に慰謝料を払わせてるんじゃないよ。せめて自分の口で何か言い訳にでも来い。

南井はずっとそう考え、こんなにも自分を苦しめた事に対して何のリアクションも無い事に苛立ち、そして本当に失望した。

もう良い。お前の事なんか知らない。
俺と陽司の縁は切れた、それで良い。

引っ越した先で、やっとそう割り切れた。
携帯の番号を変え、殆どの友人達とも連絡は取れなくなった。陽司と共通の友人が多かったから、仕方の無い措置だった。

『解除とは言え自動解除だから、他のαを受け入れられない事は無い、未だ17なんだし、次の番を見つけたら…。』

慰めのつもりなのか、最初の内はそんな風に言っていた両親も、徐々に何も言わなくなった。
南井が他人を信じなくなった事を、感じ取ったからだ。
世の中は裏切る人間ばかりではない、誠実な人間もいるだなんて言葉が、最も強い絆で結ばれると言われる番に裏切られた人間に響くとは思えない。

そして南井には、そんな腫れ物に触るような両親の態度が、逆に良かった。
南井は一人で生きていける経済力を身につける為、志望大学のランクを上げた。
当初のままだと陽司とかち合ってしまうかもしれない。
人生から排除を決めたら、徹底的にしたかった。
あの時連絡ひとつ無かったのは、陽司の方もそのつもりでいるという事なんだろう。
もう、互いに関わらない方が良い。
陽司だけではなく、誰にも深入りせず生きていこう。


そう考えて、その後の人生を過ごしてきた。


だが、和志が現れた。


南井が最も忌み嫌う、"運命の番"だと名乗りながら。

何という皮肉だろうと思った。昔、自分から、あの頃の世界の全てだった番を奪っていった、"運命"。

その負の面しか知らなかった南井に、運命を名乗る和志を受け入れるなんて気は、更々無かった。
例え、離れ難いほどに強烈な魅惑の香りを嗅がされ続けていても。


けれど、カフェで話し始めた和志からは、南井が知っていた運命の負の側面が、全く感じ取れなかった。

生涯巡り会えないかもしれない運命の人を待つ、只その為だけに、大切な人を作らず、誘惑を跳ね除けて生きているαが存在するなんて。
αは人類のヒエラルキーの上位、絶対的強者だ。
その特性や特権をもって、他人を利用しながら生きている連中だって多いのに、この村上和志という若者からは、そんな俗なものとは無縁な、清廉な匂いがした。

こんなαもいるのか、と感心した反面、そんな若者ならば余計に自分では相応しくないだろうとも思い、断ってやるしかないと考えた。
和志は若く、美しく、何処から見ても優秀なαである事がわかった。 そんな人間が、わざわざ自分のような年齢の、草臥れたΩを伴侶に選ぶメリットが見いだせない。

一目惚れと言われても、それにも不安を覚えた。
確かに南井はΩで、その為多少は周りの同年代よりは小綺麗に見える自覚はあるが、容色などは年々衰えていくものだ。
ましてや、倍近い年齢差があるのだから…。

運命だろうが何だろうが、さっくり断ってやって正解だろうと思った。
けれど、和志は諦めなかった。
粘り強く交渉し、時には放っておけないように感じさせるような行動で、歳上である南井の心に入り込んできた。

和志の素直さと真っ直ぐな愛情表現に、固く閉ざされていた南井の心は、何時の間にか少しづつ、解きほぐされていた。


だから、和志との未来を受け入れようと思った。

墓地でトラウマの元凶である陽司に再会して、彼が和志の父親である事を知り、ショックで混乱しても。

それでも、和志と生きると決めた南井の気持ちは変わらなかった。
それは夕方、気を失ってベッドの中で目を覚ました南井自身が驚いた事でもあった。

陽司の事を理由にして、和志を傷つける結果にはしたくなかった。


だから南井は、和志が陽司に会いに行くであろう席に、自分も同席すると言ったのだ。


ーー俺だって、本当は愛する人を信じて生きたいーー。 


それが、やっと素直になれた、南井の正直な気持ちだった。




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