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27 予測不可能だった未来で、俺は幸せです
正式に陛下の番になってから一ヶ月後、俺の階級は嬪から妃というやつに上がった。和皇国の後宮の階級制度は、一番上が当然ながら正妻である皇后。次に側室である妃、これは就けても2人までらしい。3番目が、上皇様の御代にシュウメイさんも就いていたという夫人、これは3人程度まで。そんで最後が、今まで俺が就いてた嬪って位で、4人くらいまでは増やしても良いらしい。その下は後宮に入内してもお渡りが無くお手が付いてない側室未満の人達。でも今上陛下の後宮でお渡りがあった側室は俺だけだから、位持ちも俺一人だった。そして他に増える事も無いまま、またしても昇格してしまった訳だ。しかも一足飛びに。その上、最初のヒートから2ヶ月経った辺りで妊娠も発覚した。すると、後宮に少しずつ異変が起きてきた。集められていた側室候補達が、契約更新をせずに一人、また一人と後宮を去っていくようになってしまったのである。
そうして、俺が双子の男児を出産する頃には、側室候補者の数は俺が入内した時の3分の1程に減っていた。けれど、補充の人員も採用されてはいない。
「ユウリン様がいらっしゃれば、後宮などは不要でしょう。私がお役御免になる日も近いかも知れませんね」
やっと昼寝してくれた、生後一ヶ月になる双子を乳母さん達に預けて、俺は久しぶりに後宮内のカフェに居た。で、気分転換にシュウメイさんにお茶につき合ってもらってる。シュウメイさんは笑いながらコーヒーカップを傾けているけど、閑散としたカフェの様子に若干寂しげに見える。
「もし俺しか居なくなったら、此処(後宮)ってどうなるの?」
俺がそう聞くと、シュウメイさんは少し考え込んでからこう答えた。
「その場合は、おそらく此処は閉鎖され、ユウリン様には位に相応しい専用宮にお移りいただく事になるのではないかと」
「そうなんだ…」
すっかりこのセレブタワマン部屋に愛着が湧いていた俺は、昇格に伴う部屋替えにも応じずに此処に居座ってたけど…皆が居なくなるとそうもいかなくなるのか。
最近ではあれだけ居たジムの利用者もまばら。綺麗どころが集まってお茶していたこのカフェも俺達以外に客は無く、カウンターの中のスタッフもつまらなそうだ。それを一瞥しながら、シュウメイさんは呟くように言う。
「ほんの数十年前までなら、一度後宮に入った者は、陛下のお情けを賜ろうがそうでなかろうが、その身は全てその御代の陛下のものでした。しかし今は昔とは違います。望みの無い世界から自分で飛び立とうが、罰する者は誰もいません」
「…うん。そうだよね」
厳選して招集されたというのに、後宮の主である陛下は人間不信気味で、限られた人間以外を受け付けないお方だった。しかも、入内して間も無かった俺が真印持ちの番になってしまって、しかも遺伝子検査の結果、運命の番である可能性が限りなく高いと発表されてしまった。運命の番は通常の番以上に余所見をしない。何があっても番相手以外目に入らない。その上、陛下はガッチガチの内弁慶。候補者達は、これ以上後宮に居ても出世コースに乗る道筋が見えないと考えたのかもしれない。皇室側にしても、陛下が本気で俺以外の側室を抱く気が無い以上、後宮存続は無駄でしかない。後宮の存在価値である、皇室の血を繋ぐってお役目も、俺が超健康優良児の双子の男の子を産んじゃったから消滅しちゃったしな。
俺にしたって、当初は予想もしていなかった状況になってしまったのと同じように、彼ら彼女らの予定も狂ってしまったんだろう。後宮の部屋から引っ越さなきゃならなくなるのは残念だけど、しょうがない事だと諦めがついた。
でも、そんな事より気になるのは…。
「もし後宮総指南役の役職無くなっちゃったら、シュウメイさんはどうするの?」
そう聞くと、彼はほんの僅かに眉を寄せた。
「さあ、どうでしょう。どこかの部署に振り分けられるでしょうか。しかし、後宮出身の訳あり者がどこに適性があるものやら」
皮肉な物言いでそう言って、すぐにいつものように唇を弓なりにした表情を作る。そんなシュウメイさんに、俺は最近よく考えていた事を言ってみた。
「シュウメイさんなら何でも出来そうだけど…どうせなら、双子の教育係を引き受けてくれると助かるのにな」
シュウメイさんは珍しく驚いたように目をパチクリとして、初めて見るような戸惑ったような表情で言った。
「和子様方の…?それは、私如きには身に余るお役目でございますが…」
「うん、今即答してくれなくても大丈夫。ゆっくり考えてくれたら。でも、俺としてはロクに知らない人より信頼出来る人に頼みたいと思ってるから、出来れば前向きに検討してくれたら嬉しい」
俺の言葉にシュウメイさんが静かに頷いたその時。
「ユウリン!」
低いのによく通る声を、人がほぼ居ない建物の中に反響させて、此方に歩いて来る人影が。一席空けて座っていたシュウメイさんがスッと立ち上がり、声の方に向かって深く礼をした。
「隆たん!」
めちゃくそ早足で俺達の居た席に辿り着いたのは、俺の最愛の歳下ダーリン・隆慶陛下だ。この時間って事は、また大学から急いで帰って来て後宮に直行して来たのか。
番になってから暫くした辺りから、陛下は前髪を上げて目を隠す事が無くなったから、その輝く美貌が国内外をザワつかせてしまっている。子供の頃は内向的だったという隆たんがメディアに姿を見せるようになったのは、皇太子だったお父上が亡くなっているという理由で正式に立太子しなきゃならなくなった辺りからだった。そんで、その頃には既にあのすだれ前髪だったというから、殆どの帝国民はつい半年前まで自分とこの皇帝陛下の顔を知らなかったという訳だ。
俺の傍に来た陛下は、少し屈んで俺を抱きしめて頬擦りしてきた。
「ユウリン、恋しかった!」
「も~。朝別れたばかりじゃないですか」
「コンマ1秒たりとも離れがたい」
「コンマ1秒たりとも…」
相変わらず愛情表現が独特なダーリン。だが、それも可愛い。抱きしめ返すと、じんわり汗をかいたらしくえも言われぬ良い香りが鼻を擽った。
「子供達は?」
「乳母達と子供部屋に」
子供部屋は俺の部屋の隣室。側室候補が殆ど出て行ったから、部屋ガラガラで使い放題なのだ。でもそれも、あと僅かかもな。なんてしみじみしてたら、マイダーリン隆たんが思いがけない事を言い出した。
「ユウリン、結婚するぞ」
「へ?」
…結婚?
「えーっと…もう番ですけど?」
真印持ちの正番だし、実質結婚してますやん?と、訝しい気持ちでダーリン陛下を見上げる。
「そうだが!だが、僕が。君をいつまでも"側室"という立場に置いておきたくはないんだ」
「隆たん…」
「皇子達の為にも」
「…」
皇子達の為。そう言われて、何となく押し黙ってしまう。俺自身は別に、身分に対する拘りは無いんだ。裕福でもない只のド平民が、皇帝陛下の番にまでなれた。何かしら能がある訳でもない普通のオメガ男子でしかない俺に、降って湧いた幸運。これ以上の立身出世なんて無いと思ってる。
でも、子供達は…。このままいけば、双子の内のどちらかが将来的に皇位を継承する事になる。その時、側室腹の子というのと皇后の実子というのとでは…政治的な意味において何か違うのかもしれない、とは思う。
いやしかし、だからといって、家柄も学も無い俺が皇后ってのはどうかと思うんだけど…。
考え込んで黙ってしまった俺に焦れたのか、陛下は俺の目を覗き込んで来て、言った。
「実はな、うるさ方から縁談話が持ち上がってる。皇后の位がいつまでも空席なのは外聞が悪いとな」
「え…」
「形だけでも婚姻して皇后を立てて、子供らをその養子にしろとな。それなら子作りする必要は無いから、御番様もご気分を害されないだろうと、そんな事を言うんだ」
「…子供達を?」
既にめちゃくちゃ気分を害したぞ。誰だよそんな事を言ううるさ方って。
眉間に皺が寄るのを止められない。顔が強張る。不機嫌になって俯いた俺の顎を指でクイッと上げさせて、陛下はまた言った。
「だから、早急に!是が非でも、ユウリンに皇后になってもらわなければ困るんだ」
「陛下…」
「君は、僕の隣に見知らぬ誰かが立つのに耐えられるのか?」
悲しそうに言われて、ハッとした。
嫌だ。そんなの嫌だ。
俺はもう、好きな人を誰かとシェアするのは嫌だ。愛する人が俺以外を目に映すのも、触れるのも許せない。 陛下と出会って、俺は自分の底知れない貪欲さを知った。俺の番に色目を使う奴は、1人残らず消えれば良いと本気で思ってる。
もし、たとえば形だけだと言われても、陛下に皇后が迎えられたら嫉妬で狂う自信がある。となれば、答えは自ずと見えてくる訳で、それが思わず口をついて出た。
「…なります、皇后。結婚、しようじゃないですか」
上等だ。なってやろうじゃないか、皇后に。
俺の答えに麗しの歳下陛下は、してやったりというように、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
そんなこんなで、1年前には実家の部屋のベッドの上でゴロゴロしながらスマホの求人広告を見ていた俺は、とうとう契約側室候補から皇后にまで昇りつめてしまったのだった…。良いのか、それで?
これは俺が、物見遊山感覚で入り込んだ後宮という世界でのらりくらり楽しく暮らしながらとびっきりキラキラの運命を掴んでしまった、冗談みたいなホントの話である。
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こちらこそ最後までのおつき合い、ありがとうございました!
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まあ、幸せならいっか!!
ありがとうございます🙏😊
なんやかや色々相性バッチリでゆるっと幸せになりました(笑)