ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q矢(Q.➽)

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グリズリー。日本で言うと、ハイイログマ。ヒグマの亜種。
ハイイログマなんて名がついてても、灰色じゃなかったり。
だって目の前の彼の耳も、どう見ても茶色…。

僕は目の前に歩いてきた綺麗な熊さんを見上げながらそんな事を考えていた。椅子に座ってるから首が痛くなりそう。どう見ても190センチ近いよね。もしかして超えてたり?
大っきいし、上級生だろうな。威圧感もあるし、これだけ美形だし、アルファなのかもしれない。
金の混ざったような茶色い瞳が物憂げな感じに潤んで見えて、何だかドキドキする。目が吸い寄せられる人だぁ、と思ってたら少し首を傾げた熊さんが口を開いた。

「バンソーコーって、どこに貼るの?」

彼は茶色い髪を指でかき上げている。うぁ~、アンニュイ~。

「あ、え、あの…ここ?」

立ち上がり、ティッシュで押さえてた人差し指を彼の目の前に上げて見せる。すると彼はじっと目を細めて切れた傷を見た。

「いやに綺麗な切り傷だな」

「プリントで…」

「あー、ね」

彼が納得したように頷いたその時、授業の始まる5分前の予鈴が鳴った。しまった。
 
「もう戻らなきゃ…」

バンソーコーは諦めよう、と立ち上がろうとすると、

「ちょっと待ってな」

と言う熊さん。言いながら迷いなく戸棚を開けて救急箱を出している。

「え、勝手に出しても良いんですか?」

怒られないかなと思って僕が聞くと、熊さんは不思議そうに答えた。

「良いだろ。俺、保健委員だし」

「あ、そうなんですか?」

へえ、保健委員なんだ。
僕は入学2日目のHRでクラスの副委員長になってしまった。それ以来、やたら先生達に雑用押し付けられてる。因みに委員長は先生指名で湯川君。湯川君は普通の人間でベータだけど、成績優秀でとにかく真面目だからって理由らしい。僕はその湯川君と仲良くなっちゃってたばかりに、まんまと副委員長に名指しされちゃったのだ。面倒だよー。イベント前とか放課後潰れちゃうじゃん。湯川君め。

「どうせもう遅刻だろ。ついでだしちゃんとしていきな」

熊さんは先生の椅子に座って救急箱を開くと、消毒薬を取り出して、脱脂綿に含ませた。
熊さんの長い指、カッコ良い。俯いた目の睫毛がバッサバサに長くてドキドキ。耳、意外と小さめで丸っこくて可愛い。

熊さんは器用に僕の怪我した指先をそっと掴んで、キズにちょいちょい押し当てて消毒してくれた。そのあと、絆創膏って書いてある箱からバンソーコーを1枚出して、傷を覆ってくるっと巻いてくれた。まさかこんなに丁寧に手当てされるとは思ってなかった僕、ちょっとびっくり。
バンソーコーもらったら水洗いだけして貼ったら良いって思ってた。軽い傷ってそんなもんじゃない?

「…ありがとうございます」

お礼を言うと、熊さんはウンと頷いた。

「保健室行ってたって言えば少しくらい見逃してくれるだろ。…1年?」

聞かれて頷いたら、熊さんが言った。

「そっか、俺も」

「えっ」

同じ学年なの?!同じ歳なの?!
思わず思ってしまった事が顔に出ちゃった。そしたら僕の顔を見た熊さんが、初めて少し笑った。

ふ、ふわ…うつくしー…。

こんな美形の笑顔に見蕩れるなって方が無理だなあ、と思ってたら本鈴が鳴ってしまった。これで完全に遅刻だし、もう諦めがついた。

「わざわざありがとう。
僕、Sクラスの吉田 嵐太」

遅れついでだし、そのまま去るのも失礼かなと思って自己紹介をした。
それに熊さんがちょっと目を瞠った。

「…俺はCクラスの壱与 瑞希」

いよ、みずき。いよみずき。聞いた名前を胸に刻みつけながら、僕はハッと思い出した。

「ご、ごめんね!具合い悪くて休んでたんだよね?そんな人をわざわざ起こして仕事させちゃって…」

そうだ。最初来た時、壱与君ベッドに寝てたもん。起きてきた時、すごくダルそうだった。きっとまだ具合い悪かったんだろうに、僕が扉を開けた音で起こしちゃったんだ。

反省しながら謝ると、壱与君は首を振る。

「んー、いや…まあ、薬が効くまで念の為に避難してただけ」

薬が効くまで?あ、なるほど。頭痛薬か何か飲んだのか。それなら効いてくるまで動かない方が良いもんね。フラついても危険だし。そっかそっか。

僕は納得して、でも今は大丈夫なのか気になった。

「もう効いてきたの?大丈夫?」

そう聞くと、壱与君は僕の顔をまじまじと見たあと、頷いた。

「うーん…まあ。ちょっと危なかったけど、何とか効いたみたいだ」

「そっか、良かった」

薬の効きって、そんな危うい感じだっけ?と首を傾げたくなったけど、結果的に効いたって事みたい。

「でももう少し寝てた方が良いかも。いきなり歩くと危ないだろうし」

そう言うと、壱与君は少し考えるような素振りをしたあと、

「そうだな、ならもう少し避難しとくかな」

と言って、僕の耳をモフってきた。避難って、何か変わった言い方する人だな。それにしても、壱与君には弟妹でもいるんだろうか。すごく超歳下っぽい扱いされてる気がする…。
でも壱与君の触り方が優しいので満更でもなくてされるがままになっていると、今度は心外な事を言われてしまった。

「吉田、可愛いけどちょっとおニブちゃんだな」

「……??」

「まだ新米だろうし、これからかな」

新米?副委員長の?

ぽかんと壱与君の顔を見上げていると、彼はゆっくり手を下ろしてから言った。

「もう教室に戻りな、吉田。またね」

「……うん。ありがとう。またね?」

僕がそう言うと、壱与君は小さくあくびをして、またベッドに戻ってカーテンを引いて横になったようだった。
何だか不思議な人だな。

僕は壱与君のベッドのカーテンを見つめながら保険室を出ようと扉に向かって歩いた。
そして部屋を出る時、ふと気づいた。

さっきまでははっきり香っていた、リンゴの甘い香りが全くしなくなっていた事に。











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