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5時間目の英語の授業には10分遅刻した。僕が保健室に行った事は稲取君が先生に伝えといてくれてて、思ったより怒られずに済んだ。内心めちゃビビってたから助かりました!
保健師の先生さえ居てくれたら、指先のちょっとの傷なんかでこんなに遅れなかったんだけどなー。すぐバンソーコー貰えたら間に合ってたかもしれないし。
…うん、そう考えたら僕、そんなに悪くないな。
みんなにチラチラ見られながら席について、机の上に教科書と筆記用具を出した。隣の席の湯川君が口パクで『大丈夫?』と言ってるようだったから、うんと頷いて教科書の何ページを開いてるのか教えてもらってパラパラ開く。
僕が教室に入って来た事で中断された授業が再開して、先生が英文を読み上げる落ち着いた声が静かな教室に響きはじめた。
英語の先生は30代後半くらいのイケおじ安崎先生。アルファで既婚者、めちゃ声が低くてかっこよ。
……でも、あの人の声の方がもっとカッコよかったな
とふわふわとさっきの壱与君の事を思い出す。
大っきくて、すごく綺麗だった。同じ熊でも佐久間君とはなんだか全然違った。
佐久間君もエゾヒグマだって聞いてたし、同じヒグマの亜種同士なのに、全然似てなかったな。
いや、佐久間君だって大っきいしイケメンだよ?でも…なんか、雰囲気も全然違った。毛色とかそんな事じゃなくて…上手く言えないんだけどさ。
それにグリズリーなんてすごい。あれだけ綺麗で強そうなら、万が一アルファじゃなくベータでも女の子達にモテモテなんだろうな、と羨ましくなった。
でも、佐久間君や稲取君に会った時みたいにアルファだなって確信は持てなかったのが不思議。
体調悪そうだったからかな?薬飲んだって言ってた。その後寝てたみたいだし、よっぽどキツかったんだろうなあ、と思った時、ふと思い出した。
…保健室って、薬って貰えたんだっけ?
自分で持ち歩いてる薬があるのかな…?持ち歩いてるくらいだから、持病でもあるのかなあ。体弱かったり?…なら、アルファじゃないのかも?
アルファ、体強いもんね。全部がそうかはわかんないけど。
少し青ざめたような顔色でベッドに戻っていった壱与君を思い出して、なんだか胸がザワザワした。
(大丈夫かな)
Cクラスだって言ってた。でもあんな目立つ人なら違うクラスでもすぐに気づきそうなものなのに、何で今まで見た事無かったんだろ?
(後で見に行ってみようかな)
もう授業なんか耳に入らなくて、僕の頭の中は壱与君への気がかりでいっぱいだった。
今度会えたら、友達になってって言ってみようなんて事を考えながら。
でもその日も翌日も何度Cクラスの前を通っても壱与君の姿は見つけられなくて、次に僕らが会えたのは翌週の事だった。
月曜日の4時間目は体育だった。生憎雨降りで体育館でバスケだったんだけど、終わって教室に戻る時にCクラスの前を通りかかったら廊下に壱与君が居た。
昼休みが始まったばかりで生徒達が行き交う中、壱与君はスラッとした長身の背を窓にもたせかかって1人でスマホを弄ってた。僕は嬉しくなって、たたたっと小走りに彼に近付いて声をかけた。
「壱与君、今日は元気なの?」
突然だったからか、壱与君は僕を見て目を見開いてた。やっぱ綺麗~。あ、何か邪魔しちゃったかな…。
「吉田…。うん、大丈夫。吉田こそ、指治った?」
スマホを持つ手を下ろした壱与君は、優しく目を細めてそう言ってくれた。それにホッとして、ちゃんと名前を覚えててくれたのも嬉しくて、心がむずむずした。
「おかげさまで!その節はありがとうございました!」
とうにバンソーコーも取れた人差し指を見せつけながらそう言うと、壱与君はクスッと笑ってくれた。かっこよ…!
「どういたしまして。良かったな」
丁寧なお返事、ありがとうございます。
何日かぶりに見た壱与君は、確かにこの前よりずっと顔色が良いように見える。普通に元気そう。あの時がたまたま具合い悪かっただけなのかな?
つい、じっと顔色を見ちゃってたら壱与君が『ん?』と首を傾げる。その顔が優しくて、僕はつい気になっていた事を口にしてしまった。
「壱与君、何か持病とかあるの?」
余計なお世話かと思ったんだけど、この間からずっと気になってて。あの日だけたまたまって事なら、全然良いんだけど。
僕の質問に壱与君が目をぱちくりさせてる。
もしかして僕、デリケートな問題に触れちゃったかな。
「あ、ごめん。超プライベートな事…」
と言いかけた時、壱与君の唇が動いた。
「病気ってんじゃないんだけど…」
あ、違うんだ。
壱与君の答えにあからさまに安心する僕。そんな僕を、壱与君は何だか物言いたげに見つめてくる。
…なんだろ、照れちゃうんだけど。
あ、そうだ!お昼に誘ってみようかな。そんで友達になってって言わなきゃ。
「あの、」
と口を開きかけた時、壱与君が被せるように言った。
「吉田、昼一緒しない?」
「えっ」
まさに僕が言おうとしてた事を先に言われてしまってびっくり。
「ぼ、僕も誘おうと思ってた!」
以心伝心かな。
嬉しくなって頷いて、「待っててね!」と言ってお弁当を取りに急いで教室に向かった僕は、ぜんっぜん気づきませんでした。
さっきまで騒がしかった昼時の校内、僕と壱与君の周りだけが妙に静まり返っていた事に。
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