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病院から帰った僕は一旦自分の部屋に戻って、着ていた制服からTシャツにハーパンの部屋着に着替えた。少しの間ベッドのへりに腰掛けてボーッとしたあと、お水を飲もうとキッチンへ向かった。冷蔵庫からペットボトルを出してコップに注いで飲んでいると、お母さんも来た。よそゆきの服から動き易いヨレッとした家用スウェットになってる。僕を病院に連れてく為にパートも休んでくれたし、お化粧も落としてるから今日はもう家から出ないつもりとみた。
それにしてもまだ昼過ぎなのに変に疲れちゃったな、と思ってたらお母さんが話しかけてきた。
「お昼ちょっと過ぎちゃったね。お腹空いてる?」
僕はコップを持ってない方の左手でお腹をさすってみた。空いてますか~?
「う~ん…あんまり…?」
「そう…。病気じゃなかったから安心したのかと思ったけど…病院ハシゴしたから疲れたのかもね」
「うん…」
まさにそう。気疲れ?っていうのかな、こういうの…なんて思ってたら、お母さんがエプロンを着けながら聞いてきた。
「でも、焼きおにぎりあるわよ?昨日、久しぶりに作って冷凍しといたの。少しくらいなら食べられそう?」
焼きおにぎりかあ。お母さんの焼きおにぎり、美味しいんだよね。ただの焼きおにぎりじゃなくて、シャケとか具も入ってるんだよ。混ぜご飯で作ったりもしてて、市販の冷凍食品のやつの倍くらいの大きさ。普段なら飛びついちゃうくらい好きなんだけど、今はそんな気分じゃないんだよね…。
僕は小さく首を振った。
「…まだそんなに食べられそうにないかな…。6個くらいにしとく」
「それだけ?!心配ね…。まあ全然食べられないよりはいっか」
お母さんは僕に同情するように眉を下げながらそう言って、冷凍庫からゴソゴソ焼きおにぎりを取り出している。
ごめんね、お母さん。僕が繊細なばっかりに心配かけちゃって…。
で、お母さんが焼きおにぎりをレンジで温めてくれてる間に僕はお茶を入れた。その後、ダイニングテーブルで、出来上がった焼きおにぎりをお母さんと向かい合って食べてたんだけど。ふと、お母さんに聞かれたんだ。
「壱与君とは、何時からお友達なの?」
「何時から…?えっと…」
聞かれて、初めて壱与君と会った保健室での事を思い出した。
「先週、怪我した時にね、…」
それから僕は、壱与君と保健室での初対面の時、怪我した指先をわざわざ消毒してバンソーコーまで貼ってくれた事を話した。昨日、一緒にお弁当を食べた事も。
おっきくて綺麗で優しくて、声が素敵でちょっとアンニュイな目がセクシーで、でも笑うと可愛くなって、ドキドキする。
お母さんはニコニコして頷きながら話を聞いてくれて、話してる内に僕はだんだん気が晴れてくるような気がした。
「ほんとに会ったばっかりなのねぇ」
お母さんの言葉に、こくりと頷きながら最後の1個をお茶碗に入れて、上からお茶をかける。そんでお箸の先でおにぎりを割ると美味しいお茶漬けになるのでした~。朝食べる永〇園のお茶漬けとはまた一味違うんだよね。やっぱ食欲無い時にはお茶漬けでしょ。
うーん、サラサラいけるぅ。
「それなのにこんな匂い付けられちゃうほど好かれちゃうなんてねぇ。
もしかしてよくドラマや漫画とかで見る運命の番ってやつなんじゃない?」
「う?!」
突拍子もないお母さんの言葉に噎せて米粒吹き出しそうになった。何とかこらえた僕、今日イチのファインプレー。お母さん、メディアに毒され過ぎ。
「そ、そんな事あるわけないじゃん、大体、運命の番に出会える確率なんて都市伝説並みだって言うし」
って答えると、
「冗談よ~。ま、お母さんもお父さんもベータでアルファとオメガの事はよくわからないけど、運命の人がいるなんてロマンチックじゃない?」
なんて返ってきた。なんだ、冗談かぁ。だよねぇ。
僕はぬるくなってきた残りのお茶漬けを掻き込んで、はぁっと息を吐いた。
まあさ?僕だって運命とかに憧れはあるよ?別に運命とかって事じゃなくても、将来どんな人と番になるのかなあって想像してみたりしてるもん。可愛い子かな、綺麗な子かな、別に普通でも良いけど優しい子が良いなって。でも、思い浮かべるのは何時も何となく女の子だったんだよね。だから正直、男子の壱与君にそういう対象に見られてるような事聞いても、戸惑う気持ちが先に立つって言うか。でも、アルファとオメガが惹かれ合う時って、男か女かってとこはあんまり関係なくなっちゃうらしいとも聞くし…。
壱与君かぁ。
…もし先生が言ってたように壱与君が僕を好きで匂い付けしたって事なら…。
…嬉しい、かも。
僕は部屋に戻って、ベッドの上に座った。
で、壱与君の事を少し真面目に考えてみる事に。
今まで恋愛経験が無いから何となく女の子相手を想定してて、男の子相手とか考えた事なかった。だから女の子が好きなんだろうなって何となく思ってたんだ。でも壱与君には最初に会った時から見蕩れちゃったんだよね。
考えてみれば、保健室で出会ったあの時からリンゴの匂いがしてたんだっけ。て事は、やっぱりこのリンゴの匂いは壱与君のフェロモンなんだな…。
あの時僕、なんて思ったんだっけ…。
あ、そうだ。
(それにしても、いいにおい)
そう思ったんだ。
大好きなリンゴの匂いだって、嬉しくなったんだ。
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