30 / 86
30
夜7時前にはみずき君を駅まで送って、楽しかったみずき君の吉田家初訪問は終了。
晩御飯にも誘ったんだけど、それはまた今度ご馳走になりに来ますって。やっぱりさすみず育ち良い。
そしてその夜の晩御飯の時間は、今日のみずき君の話題で持ちきりだった。
「壱与君は…アレだな?エラく男前な子だな?」
ハンバーグをナイフで切り分けながら言うお父さんにコクリと頷く僕とお母さん。
「そうなんだよ。でもみずき君はカッコ良いだけじゃないんだよ。その筋の情報によると、ウチの高校の裏番らしいんだ」
「う、裏番?!」
ビクッと肩を揺らすお父さん。
「あらぁ…みずき君は不良なのかしら…?」
おっとりと質問してくるお母さんと真っ青になってるお父さんを見て、僕はふるふる首を振った。
「ううん。そういう事じゃないけど、強さランキングってのがあるんだって」
「「強さランキング」」
同時に食いつく夫婦。息ぴったりだね。めおとみちだね。僕もいつかはみずき君とそんな夫夫になりたいな。
…じゃなくて。今はそうじゃなくて。
「ライオン先輩とかトラ先輩とか、ウチのクラスにもクマの佐久間君はいるけど、グリズリー以上の獣人はいないんだって。だから実質、みずき君がトップなんだって言ってたよ。これは確かな筋の情報だよ」
僕が説明すると、お父さんが怖々聞いてくる。
「確かな筋、って誰?」
「ソースは明かせないよ…」
「お小遣い1000円あげよう」
「クラス委員長の湯川君だよ」
僕はお金の力にあっさりネタ元を白状した。ごめん湯川君。でも考えたら別に口止めされてなかったな。
「すごいわねえ、岩清水高校で一番強いなんて」
「もしケンカしたらって事だよ。ホントにしてるんじゃないからね」
僕は念押しをしながら付けあわせのマッシュポテトを食べた。お母さんのマッシュポテト、ちょっとバター多目で甘くて美味しい。マッシュポテトが出てきた日の翌日はアレンジでコロッケってってのが我が家のパターン。明日楽しみだなー。ウチのコロッケ、具を色々たくさん入れて普通サイズの3倍くらいの大きさ。最高。
僕、お母さんがお母さんでホントに良かった。
「まあ、確かに強そうだったな…。グリズリーだもんな」
お父さんは何だか小声。昼間はあんなにカッコ良く話してたのにどうしたんだろ。僕が見てると、お父さんはハッとしたように立ち上がって歩いてって、財布を手に戻ってきた。
「約束の1000円だ」
「…ありがとう」
嬉しいけど、そういう意味で見てたんじゃないんだけどな。お父さんのこういうとこ、生真面目で好き。
「それにしても、あんなカッコ良い子がオメガだなんて…未だに信じられない」
「そうよねえ。大っきいし素敵だし。嵐太、すっごい子捕まえたわね!でかしたわ、流石は我が息子」
お母さんがウキウキしながら言うから、僕も嬉しくなって頷いた。
「うん、すっごいみずき君捕まえた!!」
って言って、アレ?と思ったんだけど…僕が捕まえたんだっけ?
お風呂に入ったあと、髪を乾かしてから部屋に戻ったら、みずき君からメッセージが来ていた。
『今日はありがと。すごく楽しかった。また遊びに行って良い?』
当たり前でしょ~!!
僕は嬉しくなってすぐ返信を打った。
『僕こそありがとう。これからは気軽に遊びに来てねって、お母さん言ってたよ!』
打ちながらベッドにゴロンと横になる。ふわっとみずき君の匂いがして、そう言えば昼間、みずき君とお昼寝したんだっけと思い出した。
枕も嗅いでみたら、やっぱりすごくみずき君のリンゴの香り。
ピロン、とスマホが鳴って返信が来る。
『嬉しいな。おばさんとおじさんにご馳走様って言っといて』
『わかった!』
『じゃあ、また明日。おやすみ』
『おやすみ~』
スタンプを送ってスマホを枕の横に伏せた。枕に顔を押し当てて、みずき君臭を堪能。
すーはー…
みずき君は僕の匂いがするって言ってたけど、僕には自分の匂いはわからない。でもみずき君の匂いが付いてるのはすごくわかる。枕にも、シーツにも、布団にも。
「…いいにおい…」
みずき君も僕の匂い、いい匂いだって言ってた。僕もみずき君の匂い、すっごくいい匂いだと思う。
嗅いでるとだんだん気分がフワフワしてきて、昼間に僕の匂いで酔ったような感じになってたみずき君の気持ちがわかるような気がした。
「……?」
(何、今の…?)
急に胸の奥と下っ腹の辺りにじんわりする感覚があって、妙な気分になった。
よくわからないけど、むくむくと何かが湧き出てくるような感じ…。
(みずき君…)
何時間か前にはこのベッドにみずき君が寝てたんだよね…。僕の枕で、僕の布団の中で、僕と一緒に。
「みずきくん…」
何故か右手が下に向かっていこうとする。みずき君の事を考えると、勝手に。こんな事、初めてだ。
「みずきくん、…みずき君…」
何、これ。
僕、今すっごくみずき君とキスしたい。
その夜、みずき君の事を考えながら、僕は初めての自慰をしてしまった。
そんで、めちゃくちゃ反省した。ごめんねみずき君。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。