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見た事もない怖い顔でスマホのタイマー機能を起動させていたみずき君の手により、きっかり10秒でナデナデ天国から奪還された僕は、何故か小脇に抱えられそのまま廊下へ。
「みずき君?どこ行くの?」
小脇に揺らされながら聞くと、みずき君は吐き捨てるように答えてくれた。
「あの連中に付き合ってたら帰る頃にはランは半分だ」
「半分…」
みずき君?ねえみずき君?僕ってそんな儚げに見えてるの?撫でられただけで減りそうなくらい?嘘だよね?
しかも今、軽々と小脇。これも夢でしょ?高一男子がそんなに手軽に持ち運べて良い訳がないよね?
そんな僕の葛藤をよそに、みずき君はずんずん歩いて、曲がって、また曲がって、ある部屋の前に止まった。そんで僕を廊下に降ろしてくれた。
「…っと」
「ありがとう」
複雑な気持ちを隠してありがとうと言った僕、オトナ。
みずき君はおじさんとお姉さんから僕を助けてくれようとしてくれたから僕を持ち運んだんだよね。そうだよね。でも僕、そんなにヤワじゃないよ。
僕はじっとみずき君を見つめた。
「どした?ラン」
「みずき君、僕はね」
僕はスっとみずき君に背を向けて話し始める。
「小さい頃から毎朝ずっとトレーニングしてる」
「うん、聞いた。トレーニング、偉いよな。そういや、どんな事してんの?」
どんな事…。聞かれて僕は毎朝のルーティンを頭に思い浮かべながら答える。
「えっと、アイアンクローとファイティングポーズと、なんかこう…飛びついたり?あと、受身をとったりする練習…」
「アイアンクロー?」
「こう、ほら。みずき君も熊さんだからやるでしょ?」
僕はみずき君の方に振り向いて、右手を振りかぶってザシュッって感じで振り下ろす。ほんとはトレーニング中は爪も出すけど、みずき君いるからね。危ないから格納したままだけどね。
「ああ、それか。うんうんなるほど。確かに熊もやりがち」
「でしょ」
僕は頷いた。するとみずき君は、今度は
「ファイティングポーズも見たいな。チェックしてあげる」
なんて言うから、僕は考えた。そっか、たまには客観的なアドバイスが成長の糧になるかもね…。
「じゃあ、見ててね」
真剣な顔でそう言って、ぐっと足に力を込める。そして…。
「ぐわあっ!」
と両手を上に振りかぶった。
「……」
「……」
みずき君はじいっと僕を見下ろしている。うう…圧。
そしてその状態で数秒経過…したのに、みずき君は僕を見たまま動かない。目をやや見開いて口を薄く開いてるけど、それどういう感情?思わぬ僕の獰猛さに恐れを抱かせちゃった感じ?
とりあえずはそのまま待ってみる。でも、待ってみたけど一向にみずき君が動かない。
…え、いいの?悪いの?まだチェック中なの?
流石にずっとポーズをキープしてるの疲れてきて、口を開きかけた時。
「み…」
「可愛い…っ!!」
ガバッと抱きしめられたと思ったら、そのまま抱き上げられた。ほっぺたぐりぐりされてる。
「やっぱり俺のランが世界一!!」
「え、むぐ、あ、やっぱそう?」
みずき君の肌にぐりぐりされるの気持ち良いし良い匂いするし嬉しいけど、…ち、ちょっと痛いな?
「あ、あの、みずき君?」
「あー、ラン…俺のアルファがランで良かったぁ…」
「そ、そう?ありが…むぐ」
みずき君はそうしてしばらくぐりぐりしてたけど、気が済んだのか僕を抱き抱えたまま、すぐ横の引き戸を開けた。
「ここが俺の部屋」
「わあ…」
僕はぐりぐりの摩擦で熱くなった頬を手のひらでおさえながら感嘆の声を上げた。
みずき君の部屋は、やっぱり畳敷きの和室なんだけど、広くて、暗めの青いラグが敷かれてて、家具は黒が多くてどう見てもシャレオツ。…小学生の時からあんまり変化が無い僕の部屋とはどえらい違い…大人っぽい。モデルルームかな?
「カッコ良いねえ!みずき君っぽいねえ!」
「そっかな。ありがと」
少し照れたみたいにニコッと微笑むみずき君。カッコかわいい。みずき君は部屋の真ん中まで僕を運ぶと、四角い黒のローテーブルのそばに置かれた大きなクッションの上に僕をそっと座らせてくれた。
「飲み物持ってくるからちょっとここで待ってて」
「うん」
部屋を出ていくみずき君の背中を見送って、僕は改めて部屋の中を見回した。
すごい。天井高いなあ。家族、みんな大きいもんね。ご先祖さまも熊だったんだし、これくらいなきゃ圧迫感があったんだろうなあ。
窓大きい。あ、カーテンじゃないんだ。ロールスクリーンってやつだ。センス良い~。
感心しながら観察していると、遠くから何か小さな音がして、襖がちょっと開いた。みずき君が戻って来たのかなと思って、僕は立ち上がった。もしかしてトレイとか持ってたら両手ふさがってるのかと思って、開けてあげようとしたんだ。だから戸を開けて、上を見上げた。
「みずき君、おかえり…ん?」
…30センチくらい見上げた目線の先はただの廊下の壁。あれ?誰も居ない…まさか、ユーレイ…?
背中にゾワゾワっと悪寒が走りそうになった時、足に柔らかい重みが。
「?!…えっ?」
そこにはぬいぐるみみたいな灰色の小さな仔熊が、僕の足を抱きしめていたんだ。
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