ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q矢(Q.➽)

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その日からみずき君は、僕の勤務日には毎日迎えに来てくれた。
おかしい。僕んとこの最寄り駅とみずき君とこ、3駅離れてるんだよ?で、スーパーから徒歩5分くらいの僕んちまで送るだけの為に来てくれるんだよ?スパダリにもほどがある。僕はみずき君以上のスパダリにならなきゃなのに、これ以上ハードル上げないでほしい。
でも、仕事終わる前にスーパーの入り口から入ってくるみずき君を見るとうれしくなっちゃうからジレンマなんだよね。

バイトの帰りだけじゃなくて、休みの日もみずき君はウチに遊びに来る。だけど何か前よりも毛繕いが念入りなんだよね。みずき君、どうやら初日で僕を撫でた宮地先輩の事が気に入らないみたいだ。

でも宮地先輩のお陰で僕のバイトスキルはめきめき上がったんだよ。基本的な斜め包みと回転包みは何とかマスター。先輩に比べたら速さはまだまだだけど、結構綺麗に仕上げられるようになった。お母さんも休憩中に様子を見に来たりするし、店長さんも他の売り場やレジのパートさん達も優しくて、在庫確認や発送する荷物をバックヤードに持っていく時にウロウロしてたら、呼び止められておやつをもらったりする。だからバイトが終わる頃にはいつも僕のエプロンのポケットはキャンディやチョコやクッキーなんかでパンパンだ。それを、迎えにきてくれたみずき君と遠回りして公園に寄ったりして、一緒に食べてから帰る。楽しい。でもちゃんと9時までには帰るよ!


早くも8月の半ば。世間ではそろそろお盆だというのに、今日もいつものように迎えに来てくれたみずき君。僕は急いでバックヤードに戻って、タイムカード打ってエプロンを脱いだ。トートバッグを肩から掛けると裏口から出て、ぐるっと回ってスーパーの入り口近くに向かう。

「みずき君、おまたせ!」

「ラン。お疲れ」

僕はみずき君に駆け寄ってハグをした。いいにおい~。労働の疲れが吹っ飛ぶような癒しの香りだよ…。抱きついたTシャツの胸にぐりぐり頬っぺたを押し付けると、みずき君もぎゅうっと抱きしめてくれて、リンゴの匂いが濃くなる。
みずき君って普段からこんなに良い匂いさせてるけど、こんなにオメガフェロモン放出させちゃってて大丈夫なのかなって聞いてみた事がある。心配じゃん?やっぱり、夜道とか。でも抑制剤が効くようになった今、みずき君のオメガフェロモンをこんなにはっきり嗅ぎ取れるのは僕だけなんだって。他の獣人にはグリズリーの獣臭だけはわかるらしい。
それなら安心かなー。でもみずき君、イケメンだから普通に心配だよ。

店前で通行人の視線に負けずに濃厚ハグをしてたら背中でガサッと音がして、みずき君が左手に何か持ってる事に気がついた。何だろう。

「みずき君、何持ってるの?買い物したの?」

離れながら見たら、それはスーパーの袋に入った線香花火と、2個パックになった小さいマッチ箱だった。

「花火?!」

「店内見て回ってたら売ってたからさ。ランとしたいなと思って。これくらいの花火ならすぐ終わるし迷惑にならないだろ」

「どこでやるの?」

僕はわくわくしながら聞いた。みずき君は、

「ランの家の庭でやらせてもらおう。それなら水も用意できるし」

と答えた。なるほど。線香花火なら音も小さいし、煙も少ないもんね。僕は頷いて、トートバッグからスマホを取り出してお母さんにメッセージを打った。お母さんからはすぐに返事が返ってきた。

「良いよだって。ご飯も食べていけばって言ってるけど」

「いや、それは悪いし」

「あ、そっか。遅くなっちゃうかな?」

「そうだな。ご飯はランが休みの日にしょっちゅうご馳走になってるし、また今度」

「じゃあそう言っとくね」

僕はお母さんに返信を返してからスマホをしまった。それからみずき君と手を繋いで家に帰って、花火をする準備をした。庭に置いてあるバケツに水を入れて端っこの辺りに置いた。電気で明るい縁側の窓から少し離れて、薄暗くなった場所で花火に点火を試みる。2人でしゃがみ込んで、みずき君に線香花火を持ってもらう。マッチって擦るの難しくて、2回折っちゃって失敗。3回目でやっと成功した。みずき君、何でライターじゃなくてマッチにしたの?
火を点けて少ししてパチパチと火花が散りだして、それに照らされたみずき君の顔はいつもとは違って見えた。僕もそう見えてるのかなと思いながら花火に視線を移して眺めた。

「綺麗だねえ」

「花火って、マジで花みたいだな」 

「そうだね。昔の人って上手いこと言うよね」

暗い中、パチパチ弾け続けた花火は、少し勢いを増したかと思ったらすぐに静かになって、最後はぽとんと小さな火の玉を落として消えた。今までのパチパチが聞こえなくなって急に静かになられるといきなり寂しい。

「僕、花火って小学生の夏休みに従兄弟んちでやった時以来だよ」

「俺も…小5くらいが最後かな。俺がやりたいって言ったら兄貴が付き合ってくれて。あの頃はまだ兄貴も結婚前で家に居たからな」

「そうなんだ。お兄さん、仲良しだよね」

「……仲良し?」

本人は首を傾げてるけど、みずき君は家族は末っ子のみずき君をすごく大事にしてる。見ててわかるもん。

「僕は兄弟とかいないから、羨ましいなって思うよ」

僕だって一人っ子で大事に育ててもらったと思ってるけど、上か下に兄弟が居たらどんな風だったんだろうなって思う事は何度もあった。
2本目の花火に点火しながらみずき君が言う。

「じゃあ、俺と結婚したらランには兄貴も姉貴も出来るな」

「はっ…ホントだ…!」

確かに!義理だけど兄弟姉妹になるもんね。

「まあ……だいぶ暑苦しい兄姉だけどな」

ちょっと苦虫を噛み潰したような顔でそう言ったみずき君に、僕は笑った。
パチパチパチと弾けては淋しく終わっていく線香花火はちょっとセンチメンタルだ。僕のセンシティブ・ハートにぐっとくる。


火と煙の匂いの混ざった生ぬるい夏の夜風は、僕とみずき君の初めての夏の思い出の1つになった。










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