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58(壱与side)
金色の、きらきらしたその宝石の、不思議な煌めき。
カッティングの違いなのか、ダイヤモンドのように華やかすぎる事もなく、光に透かしてみればシャンパンがたゆたう様なゆらぎが見える。
ランの無垢な瞳に、俺の目はこんな綺麗なものに似て見えているのか…。
石を抱きしめて、胸が熱くなった。
俺のアルファの、最初の贈り物。タダの誕生日プレゼントじゃなくて、特別なんだと言う。
婚約の証の、婚約首輪にする為のものだと言う。
剣持会長と長瀬先輩の左手に光っていた婚約指輪を、俺も見た。羨ましいと思わなかったと言えば、嘘になる。
でも会長達と違って、俺とランは運命の番ではあるけれど、両家間で正式に婚約を取り交わした訳じゃない。お互いの家族に挨拶はしたけれど、親同士が顔を合わせた事は、まだない。
18歳までは番にもならないと決めたし、つまり実質、俺とランは単なる恋人同士。
それに会長と先輩の家はどちらも結構な名家だから、その事もあって、家同士としてのけじめとして正式に婚約って事になったんじゃないかと思う。だから親御さんも諸経費を出してくれて、先輩は婚約指輪のお金も借金できたんじゃないだろうか。
だけど、俺とランの場合は違う。ウチは多少は資産のある家ではあるけど、ランの家はごく一般的な家だ。高校生の分際で、結納や指輪の金を捻出してくれなんて望んだりはできない。
(良いんだ。俺は、ランと居られる事が一番幸せなんだし)
人それぞれ状況は違う。だから、ほんの少しだけ羨んだだけだったんだ。本当に。
ランがあの店で俺への贈り物を買ったのだと知った時、本当に嬉しかった。贈り物をする為に夏休みの半分を費やして働いてくれたランのいじらしさに胸を打たれた。そして、何も知らないフリをして、誕生日を迎える今日のこの日を待っていた。
「それはね、婚約指輪の代わりなんだよ」
渡された小さな黒いショップの袋。あの日あの店から、ランが大事そうに抱えて出てきた袋に間違いない。
店員からチャームだとは聞いていたけれど、現物は見ていないから胸が踊った。そのチャームが展示していたスペースはぽっかり空いていて、周りにも洒落たチャームや指輪は並んでいた。この中のどれかに似て居るのだろうかと考えてみたけど、すぐに打ち消した。その日を楽しみに待とうと思ったから。
逸る心を抑えて、ゆっくり丁寧に包みを解いていく。俺は少し冷めた子供だったから、小さい頃にもらったどんなプレゼントを開けた時でも、こんなにワクワクした事はなかった。
黒い小箱を開いて、キラリと光ったそれを見た時、本当に心臓が一際高鳴ったんだ。
アンティークなクッションカットの、光を反射して煌めく黄金色。深みがあるようでいて、透明感もある。見た事もない、稀有な色だ。それを囲う上品な白銀には、細かい細工が入っていて、それがまた洒落ている。
あの店で見た他の物より、段違いに冴えたデザインだった。
俺は感動して、暫く声が出なかった。自分が泣いてるのを知ったのは、顔を覗き込んで来たランがびっくりした顔をしていたからだ。
「みずき君、どうしたの?」
声が戸惑っている。涙を流した俺をランが大きな瞳を見開いて見つめている。安心させてやらなきゃ。嬉しくて感極まった時にも人は泣くんだよ、ラン。
「ラン…。ありがとう、ありがとうな、ラン」
絞り出した声は、みっともなく上ずった涙声だった。だって嬉しい。
「気に入らないとかじゃ、ない?」
「気に入ったに決まってる」
当たり前。ランがくれるものなら、俺は何でも嬉しいんだ。それなのにこんな想像以上の代物を持って来られたら泣かずにいられるか。
俺はその石を注意深く摘んで、そっと手のひらに載せ、更にまじまじと見つめた。見れば見るほど、吸い込まれるように綺麗な色だったからだ。
「綺麗だ…」
だからその言葉は、意図せずに出てしまったものだった。
頼んでネックガードに付けてもらうと、ランは少し眩しそうに俺を見て、言ってくれた。
「目の色とお揃いでとっても綺麗だよ」
その時俺は初めて自分の瞳の色を思い出したんだ。
そして、ランがこんな風に俺をみていてくれた事を知って、余計に嬉しくなった。
そして、ランも同じような気持ちを抱いていた事を知った。
会長と先輩の、あの婚約指輪を羨ましいと感じていた事を。
別に、形じゃないんだと思う。指輪じゃなくても。高い指輪が欲しかった訳じゃないんだ。例え100円のおもちゃの指輪でも、何でも良かった。
俺はただ、不安だったんだ。
俺がランに固執するほどには、ランは俺に執着していないような気がして。愛しいと思う気持ちの分量が、俺から一方的に流し込んでいるだけのように思えて。
俺だけがランにマーキングをかけて、これは俺のものだと主張しているだけに感じていた。
俺は、ただ、ランに。
俺のアルファに、俺は自分のものだという独占欲を示して欲しかっただけだったんだと、気づいた。
まだ少し幼いランの中にやっと芽生え始めたその感情。それが初めて垣間見えたこの日を、俺はこの石を見る度に嬉しく思い出すんだと思う。
俺は一生、君と一緒だ。
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