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しおりを挟むその日の帰りは電車で途中まで湯川君達と帰って、駅からは一人。降りるまでお喋りしてたから一人になると急に寂しい。と言っても、それが普通なんだよね。半年くらいずっとみずき君と一緒だったから、何だか慣れない。いつも右側を見たら居てくれたのにな。
家に着いてただいまーと玄関を入る。すぐにおかえりと声が返ってきた。今日はお母さん、パートお休みの日。
休みの日は、帰ると何かしらおやつが作ってある事が多いから嬉しいんだけど、今日はちょっぴりナーバスだからあんまり食欲が無い。
「ただいま」
部屋に向かう途中のキッチンに顔を出すと、お母さんはダイニングの椅子に腰掛けてタブレット端末で動画を観ていた。
「おかえり。おやつにパンケーキ焼いてあるわよ」
「…ありがと。でも今日はあんまりいらないかも」
「え、どうしたの?…ああ、瑞希君が居ないからか」
お母さんはからかうみたいに笑うけど、僕には大問題なんだよ?
はぁ、と息を吐くと、お母さんは呆れたように言ってくる。
「瑞希君はもっと寂しいと思うわよ。嵐がそんなんでどうするの」
「うう…」
わかってるよ。みずき君がたくさん大変なのはわかってる。みずき君、クールに見られがちだけど、寂しんぼだし。よく夜寝る前とか、メッセージだけじゃなくて声聞かなきゃ眠れないって電話してくるもん。
寂しいのも辛いのもみずき君だってわかってるから、何も出来ない自分がもどかしいんだ。
僕がしょんぼりしても仕方ないのはわかってるけど、元気出ないんだから仕方ないじゃん。
「ねえ、お母さん。みずき君は僕と番になるまで、あと何回くらい苦しいんだろう?」
僕は涙をこらえながらそう聞いてみた。ウチはお父さんもお母さんもベータだから、そんな事あんまり知らないかもしれない。でも聞かずにはいられなかったんだ。
「嵐太…」
「僕、何も出来ないよ。匂い付きの服なんて、ホントに役に立つのかな」
言いながら、すごく悲しくなってきて、少し涙が出てしまった。 お母さんの両手が背中に回って、ポンポンと叩いてくれる。
「そっか。嵐はみずき君が苦しいのが辛いのね」
「うん」
お母さんは僕を抱きしめてくれながら、頷いてる。
「お母さんには、オメガの人達がヒートでどうなっちゃうのかなんて、習った知識でしかわからないけど…、きっと苦しいって事だけはわかるわ」
「うん」
「でも瑞希君は、オメガになって結構早くに嵐と出会えたじゃない?」
「そうだね?」
お母さんが何を言いたいのかわからなくて、僕は顔を上げてお母さんを見上げようとした。お母さんは僕より何センチかだけ背が高いから。そしたら、目線が同じくらいになってた。…あれ?
「オメガの人にとって、将来を約束したパートナーが居るってすごく心身の安定に繋がるんだって事、石雲先生も瑞希君本人も言ってたじゃない」
「…うん」
確かに、言ってたけど…。それとヒートの苦しいのと、どう繋がるんだろう?
「パートナーの居ない独り身のオメガさんより、ずっと心の拠り所があると思うの。
お母さん、さっきはああ言ったけど、瑞希君は意外と寂しさは軽減されてると思うのよね」
「どうして?」
「だってアンタ、パンツも持って行かれたでしょ」
ギクッ
「…なんで知ってるの?」
お母さんには隠してたのに、まんまと見破られていた事に驚きを隠せない。もしかしてお母さん…見てたの?
「あのねぇ。アンタ達の洗濯物洗ってるの、誰だと思ってるの?カバー類や制服のシャツを貸したって聞いた時点でわかるわよ」
「なるほど」
確かに。毎朝洗う洗濯物の中に下着が無かったら不審だよね。それは完全に僕のミスだ。洗濯済みのぱんつを1枚、洗濯物に入れとくくらいの工作をするべきだったよね。
それにしても、恋人にぱんつ持ってかれたのお母さんに知られるってめちゃくちゃ恥ずかしい。
「きっと嵐のパンツが活躍してくれてるわよ」
僕はさっきとは違う気持ちでちょっと泣いた。
その後、お母さんにキッチンの入り口の柱の所に立たされて、背を計られた。
「…嵐太、見て。身長伸びてるわよ」
「あっ、ホントだ!」
お母さんが付けてくれた印は、今年の四月の高校入学の日に付けた印よりも上になっていた。
「3センチも伸びてる!!」
「とうとう来たわね…成長期が…」
中2からあんまり変化が無かったのに、この半年で3センチも伸びている事に僕は興奮。お母さんは何だかキャラが変わっていた。
やったー!!この調子でどんどん大っきくなるぞー!
その晩、みずき君からちょっとだけ電話が来た。息が少し乱れてて、何時もと違う人みたいでドキッとした。
『ラン、好きだよ』
って言うから、
「僕も大好き」
って言ったら、ンッて息を詰めるのが聞こえたから、多分イッてたんだろうなと思う。大変だなあ。ヒート中って、何回くらい自分でするんだろう。
ヒートが終わる頃にはみずき君のおちんちんがどうにかなっちゃってないか心配だなぁと思ってたら、みずき君はおやすみと言って電話を切ってしまった。
…あ、背が伸びた報告、忘れちゃった。
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