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各務 有栖(かがみありす)君は、二学期明けに他府県から転校してきたらしい。
綺麗で可愛い顔をしてるんだけど、かなり気が強くて言動が香ばしく、お世話係に任命された委員長以外のクラスメイト達には遠巻きにされてるっていう、なかなかの逸材みたいだった。
口を利くのが委員長しかいないからか、まだ学内の事には疎いらしくて、みずき君の事も僕の事も今日まで知らなかったとの事。
まあそれは良いとして、問題は今日の昼間、文化祭の学校内を1人でウロウロしていた各務君が、タコ焼きを焼いてるみずき君に一目惚れしてしまったって事だった。
…まあ、仕方ない。ウチのみずき君は稀に見る美形イケメンだし、背は高いし、学校指定のダッサいジャージすらオートクチュールの如く着こなしてしまうからね。僕らの学年のカラー、めちゃくちゃ微妙な赤…というか、もはやくすんだ臙脂色なのに。汗止めに頭に巻いたタオルすら、オシャレなバンダナみたいに見えたからね。来年あたり流行りそうな雰囲気すら出してたから。
そんなみずき君が手際良くタコ焼き焼いてる姿に惚れるなって方が酷だなと僕も思ったから、仕方ないなって横で頷いてた。
でもみずき君はすっごい無表情で、
「無理。俺にはもう好きな人がいる」
って言った後、僕を見てニコッと笑った。き、キュンキュンする!!
前はみずき君が告白されるとモヤモヤした事もあるけど、最近は全然。だって信じてるからね。 みずき君はどんな人に告白されても1ミリも動かないって、知ってるから。
だから僕も、みずき君にニコッと笑顔を返した。
そしたら……。
「えっ、まさかそのタヌキじゃないですよね?」
やや蔑んでくるみたいなその視線と言い方に、本格的なデジャブを感じる僕。
あれ?君、猫先輩の親戚か何か?そして僕はタヌキじゃない。
「僕は誇り高きレッサーパンダだよ!!」
思わず威嚇ポーズを取った僕に、少したじろいだ各務君。ざまぁ!!本気の僕はこんなもんじゃないからね?!
しかし各務君も負けてなかった。僕よりも小さい癖して、ツンっと顔を反らしながら言い放ったよ。
「ふ~ん、そうなんですか。同じようなデブなしっぽしてるから、同じに見えました」
むっかぁ~!!
言っとくけど、タヌキとアライグマとレッサーパンダは似て非なるものだからね!!大体、イヌ科とアライグマ科とレッサーパンダ科で全然違うから!昔はアライグマ科だったって話だけど、レッサーパンダ科で確立されたから!!(声を大)
でも僕は怒りでムカムカし過ぎて、ふぐぐぐ!と鼻息ばかりが出た。悔しい。
しかし、しかし頑張って何か言い返さなきゃと思ってたら、僕より先にみずき君が口を開いた。
「おい…」
猫先輩相手でもこんなにじゃなかったってくらいの低い声で、尾骶骨がちょっとゾワッとした。
「お前…俺の婚約者を馬鹿にしてんのか?」
ひ、ひぇ…。
みずき君の怒気が辺り一面に満ちる。ハイスペチートオメガのみずき君のお怒りオーラは、並のアルファも竦み上がるくらい強烈だから仕方ない。
でも各務君は、一旦腰を抜かした後、しぶとく立ち直ったみたい。打たれ強いな~。純人の中でも特に強そう~。
「そ、そんな人が婚約者だなんて、先輩には似合わないです!」
「初対面のお前にそんな事言われる筋合いねえから」
「でもっ、絶対僕の方がっ」
ズバッ。冴え渡るみずき君。しかし食い下がる各務君。多分、獣人ならとうにしっぽ丸めてる。獣臭も嗅ぎ取れず、獣姿も見えない純人だからなんとか頑張れるんだと思うけど…それにしてもタフだなあ。
各務君は僕を睨み付けて来たけど、僕も怒ってるし負けずにぐわっとしたら、悔しそうに走って行った。
グラウンドには全校生徒が一連の流れを見守っていた訳だけど、みんなボケーッと各務君の背中を見送ってた。
…うん、かなり香ばしい子だな。
そんな、何とも言えない雰囲気で、もう2度と来ない後夜祭は終わりを告げていった…。
また1つ、黒歴史が綴られてしまった。
全校生徒の前で公開処刑されたみたいな各務君だったけど、思っていた以上に彼はすごかった。
各務君は、翌週から僕とみずき君が一緒に居る所にやたらと現れるようになった。
朝、駅からの学校までの通学路、昼休みには1年生なのに2年の僕らの教室までやって来て、みずき君に纏わりつく。放課後は一緒に帰る僕とみずき君の間に割り込んで来る。
みずき君も毎回怒るんだけど、全然効果が無いからどんどんストレスが溜まっていってるみたいだった。僕もだよ。2人の時間、邪魔されて。
みずき君に恋しちゃうのは仕方ないと思うけど、普通は何度も断られたら諦めてくれるのに。
僕は各務君がみずき君の腕に抱きついたりするのを毎日のように見て、久々にモヤモヤする日々を送っていた。みずき君も振り払いたいんだけど、僕より小さい各務君とは体格差があり過ぎて力に任せる事も出来ず、かといって圧も効かず、仕方なく無視する事に決めたみたいだった。
だって僕らはもうすぐ受験生。いくら正当防衛でも、弾みで相手を怪我でもさせちゃったらあんまりよろしくない。僕とみずき君は、同じ大学に行くんだから。問題なんか起こせない。
それに、帰りに僕の部屋にでも寄れば、2人きりにはなれるもん。
そんな僕らの事情を見透かしたみたいに、各務君はますます図々しくなっていった。
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