ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q矢(Q.➽)

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受験生にとって、ゴールデンウィークも夏休みもあってないようなもの。
勿論、僕とみずき君もそれは同じだった。一学期の間は、夏期講習に通う事も必要なのかなあって悩んだけど、結局自宅学習にした。その方が自分に必要な部分を重点的に出来るかなって思って。自慢じゃないけど、勉強だけはできるからね!
そうして、まずまず勉強漬けの夏休みを迎え、みずき君と一緒に勉強したり、息抜きに花火をしたり、街まで足を伸ばして本屋に行ったりもした。でも基本的には毎日勉強。多分、人生で一番勉強した夏休みだった。
二学期が始まった9月。みずき君のお誕生日が来た。その日は僕もケーキを焼いたり、残ってたバイト貯金で買ったプレゼントを渡したりして、僕の部屋で2人でお祝いをした。
そしてお待たせしました!
我らが…いや、僕のみずき君も、めでたく18歳になりました!成人おめでとう~!
受験勉強ばっかりじゃ気が滅入るなって思ってたから、たまのこういうイベントは息抜きにもなって良いよね。
考えてみたら僕達って、誕生日、半年違い。そんで、僕の方がお兄さんなんだよって言ったらもれなく驚かれる。僕が幼いからじゃないよ。みずき君がオトナっぽすぎるんだ。完成度が高過ぎる。さすみず。
18になったみずき君は、最近は少し髪を伸ばしてるせいか、やたらと色っぽい。一緒に勉強してる時とか、肩のくっつく距離にいるみずき君の髪が伏し目になった顔にパラッとかかる度にドキドキしちゃって、困るんだよね…。
そんで、やっぱりますますモテてる。でも、不思議と前みたいに告白される事は無くなったみたい。あと、僕の方はあれ以来告白のコの字も無いくらい平和。
やっぱりあのモテ期はタダの奇跡だったみたいです。別にガッカリなんかしてないけど。あの僕の極短モテ期でみずき君は拗ねたけど、仲直りした時に

『次のヒート休みの時は、とびっきり強力なマーキング掛けとくわ。』

ってすごい悪い顔で言ってた。そして、今年は10月末に来たヒート。
休む前の日に、例の如くウチに僕の匂い付き衣類やシーツ、ぱんつを強奪しに来たみずき君は、部屋に入るなり、何故かものすごい強さで右の首筋に吸い付いてきた。 

「ひゃっ?!」

びっくりだよ。だって、体のあちこちを嗅いだり、頭や耳やしっぽを舐めたり甘噛みして毛繕いされるのは日常茶飯事だけど、吸い付かれる事なんか無かったもん。

「痛いっ」

思わず叫んじゃったのは仕方ないと思うんだ。
でもみずき君は、吸い続けるのをやめてくれなかった。

「痛い、痛いよぉ、みずき君…」

僕、涙目。噛まれるよりは多分痛くないんだろうけど、肌を吸引って初めてされたしこんなに痛いのかってびっくりした。みずき君が何でこんな事をするのか、僕が何かしたかなって訳がわからなくて。 
でも、泣き声になってもやっぱりみずき君はやめてくれなくて、僕は諦めて耐えるしかなかった。

吸血鬼みたいに吸い付かれて、多分1分ちょっとくらいだったかな。

「こんなものかな。…うん、…につ…た」

最後の方は小さくてよく聞こえなかったけど、そんな事を言いながら離れてくれたみずき君は、吸い付いていたとこをじっと眺めてた。

「…なに?」

突然のみずき君の暴挙が怖くてべそをかいている僕。吸い付かれたのは首の横辺り。歯は立てられてないけど、もしかして血を吸われた?熊って吸血の習性とかあるっけ?

僕は信じられない気持ちでみずき君を見つめた。僕の批難するような視線に気づいたみずき君は、苦笑しながら

「ごめんごめん」

って謝ってくれたけど…唇の周りには血は付いてないですね…吸血じゃなかったか。良かった。……いや良くはなかった。

「何でこんな事するの?めちゃくちゃ痛いよ…貧血起きそう」

血は吸われてないけど、気分的に。メンタル的貧血。
僕の抗議に、みずき君はすごく申し訳無さそうな顔で言った。

「ごめんね。でもこうしとくと、離れてる間、俺が少し安心できるんだ。」

「…安心?そうなの?」

安心…?もしかして、これでいつもより強く匂いが付くのかな?なら、まあ……仕方ないか。
前回の2連続告白事件で要らない心配をかけた後ろめたさもあって、"離れてる間"を出されると弱い僕。
みずき君はこれから、孤独で辛いヒートに何日も耐えなきゃならないんだよね。
吸い付くのに何の意味があるのかは謎だけど、僕がちょっと痛い思いをする事でみずき君の心の安寧が保たれるなら…。

「…なら、仕方ないね。」

そう言うと、みずき君は僕の目の端に溜まった涙を唇で吸い取ってくれた。

「ありがとう。これで頑張れるよ。」

「……うん。」

みずき君は僕の涙でしょっぱい唇でいつもより執拗いキスをしてから、大きな袋いっぱいに詰めた僕の服やらを持って帰って行った。

僕は吸われてじんじんする首を右手で押さえながらそれを玄関で見送った。

「……いたぁ…」

まあ、よくわかんないけど、こんな事くらいで安心してくれるなら、ね。

その晩の夕飯の時は、何故かいつもより静かだった。
僕を見た後のお父さんが、ナイフで切ったロールキャベツを口に入れる前に、

「……まあ、そっちならいっか」
 
と、独り言を言って、お母さんが

「お父さん、しっ」

と言った程度だった気がする。僕はロールキャベツをおかわりするのに忙しかったから、まあどうでも良い。仕事で何かあったのかもだし。



みずき君のお呪い?が幸を奏したのか、単にやっぱり前のモテ期が奇跡だったのかはわからないけど、みずき君不在の1週間は遠巻きにヒソヒソされる事が増えたなってくらいで後は平和なものだった。クラスメイト達も何故か

「そっちなのか……」

ってよく呟いてたから、流行ってるドラマのセリフとかかな、って気にしなかった。だって僕は受験生だし、追い込みだし。


そして、僕がその"お呪い"の真実を知ったのは、大学生になってからだった。



みずき君、ゆるさない。






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