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しおりを挟む物心ついた時にはもう、そうだった。
俺は自分の人生においてすら、脇役だった。
だって周りがそう言うんだから、そう思っちゃうだろ?
りんは、みぃくんよりもできないんだね、って。あげく、みぃくんの添え物みたい、なんて。
そういうさ、自分達が何気無く言う言葉が幼い子供の心にどんな傷をつけるのかなんて、大人にはわからないんだろうね。親でさえそんな感じだったから。
困ったような笑い方をしながら俺を見てさ。
そんな顔で見られる度に、俺は胸がちくちくした。
小学校高学年になる頃には立派な胃痛持ち。
知ってた?子供でもストレスで胃が痛くなるんだよ。
俺の人生のケチのつき始めは、アイツの従兄弟に生まれついた事だ。
橋本 凛。それが俺の名前。一つ上に湊って名の従兄弟がいる。父親同士が兄弟で家も近かったから、小さい頃はよく行き来もして、兄弟みたいに扱われてた。
幼稚園の頃までは、俺も湊の事が好きでさ。
だって湊、優しくて賢くて、あの頃は成長が早かったのか、背も大きい方でさ。幼稚園では1、2を争っていたんじゃねえかな。逆に成長が遅くてチビで、女の子みたいな顔をしてた俺は、よく他の子達に揶揄われたりいじめられたりしてたんだけど、そんなところを必ず見つけては助けてくれたんだ。
毎回、湊は
『お前たち、幼稚な事をするな。子どもじみてると思わないのか。』
って溜息混じりにいじめっ子達に言ってたんだけど、幼稚も何もそのまま幼稚園児だからな、全員。子供じゃん。今思い出しても笑っちゃうわ。
妙に大人びてた、人生二周目?って感じに落ち着いてた湊と、弱くて年中ぴいぴい泣いてた俺。
自然と俺の親も湊を頼るようになった。俺の事は湊に任せとけば安心だと思い始めたみたいでさ。気づけば何時もニコイチ。
それでもその頃までは良かったよ。俺も湊を好きで頼りにしてたし。
問題は俺が小学校に上がってからだった。
小学校に上がると人間はあらゆる面で優劣が付けられ始めるよな。それまでのふわっとした評価じゃなく、勉強や運動でのハッキリとした評価。
1学年上の湊は、1年生の時から成績が良かった。
運動神経も良くて、絵も上手くて字も上手くて、落ち着いてて優しいから、みんなにも好かれてて、先生の覚えも良くて。
小学校卒業まで殆ど学級委員だったよ。本人は、やれやれまた雑用係か、ってつまらなそうに言ってたけど、そのセリフも小学生のセリフじゃないよな。
大人になった今なら、確かに学級委員なんて雑用係だよなぁって思うけど、あの頃は只、羨ましかった。
子供の頃ってそういうとこ無い?頭が良いとかリーダーシップがあって人気者だからなるとか。
まあ実際そうなんだろうけどさ。だって俺は一回もなった事ねえもん。
成績も何もかも優秀だった湊に比べて、俺は成績はイマイチ、運動神経皆無、逆上がりだってできやしない。その上泣き虫は継続中で、相変わらず体も小さくて。
比べられたよ。
名字も同じだし、同じ幼稚園から一緒に小学校に上がった生徒も結構いたから、俺と湊が従兄弟だって事を知ってる奴は多かったから。
従兄弟で、一つ違いで、それなのに差があり過ぎるって残酷だよね。
親にさえ苦笑いされるようになっちゃうんだもん。
湊の影に隠れてた俺は、影みたいな扱いだった。そして自分でも、それを仕方ない事だって思ってたんだよな。諦めというか。
でも、中学2年に上がったくらいの頃からだったかな。
俺、急に告白されるようになったんだ。
成長期が来て背が伸び始めたからだろうな。元々見た目というか、顔の作りは悪くなかったんだよ、俺。
よく言われてた、顔だけは可愛いって。でも気が弱くてオドオドして泣いてばっかりだったからか、いつしかあまり褒めてもらえなくなってさ。
思うんだけど、愛想が無くて卑屈な人間って、相手も褒めにくいんだよ、多分。
湊は愛想はなかったけど自己肯定感が安定してたから卑屈のひの字もなかった。そりゃあれだけ褒められて育ちゃ、そうなれるよな。
…なんだっけ?あ、告白されるようになった時期の話だっけか。
ん、で、男ってやっぱ、顔同じ顔ならチビより高身長の方が一般受けしてモテる訳じゃん。俺も成長期でようやくそのモテカテゴリーに入ったって事なんだと思った。平均して月に1、2回は女子に告白されたよ。
急に来た慣れないモテ期に最初は戸惑ってた俺も、徐々に自分に対しての周囲の評価が変化している事に気づいた。俺の自己肯定感は生まれて14年経ってやっと満たされたんだよ。
そりゃ当然、調子に乗ったよ。告白してきた女の子がタイプだったら付き合ったし、童貞も捨てた。
あの頃、湊が誰かと付き合ってたのは見た事無いから、俺の方が先を越したってわかって気分が良かった。湊?湊は確か、高校に上がってすぐに彼女が出来てたな。
後から聞いた話なんだけど、湊はさ、中学の間は高校受験の為に恋愛は控えるって考えで、告白も断ってたんだって。
で、実際に湊が進学したのは中学上がる前から第一希望にしてた進学校だったんだよな。
そんな事も知らずに、先に経験した事でマウント取った気でいた俺、マジでダッサ。
そんなモン、いくつで経験しようが大差無いのにな。
湊が県内トップクラスの高校に合格が決まった時も、親は俺を見て溜息を吐いたな。俺は外見はそれなりに成長したけど、女の子と遊ぶようになってからは、元々そんなに良くもなかった成績は更に落ちてた。
偏差値も40割ってたし、行ける高校なんて最底辺って言われてた不良の巣窟工業か、滑り止めって言われてたバカボン私立くらいしかなくなってた。どっちも名前さえ書けりゃ合格っていわれてるとこ。
どっち行ったかって?
工業だよ。俺的には私立の方が制服は良かったんだけど、親父がさ。馬鹿に余計な金かけたくないって。
親のセリフかよって感じだよな。でも考えてみたらもっともだなって。俺だって女遊びばっかしてる馬鹿息子を金ばっかかかる私立になんかやりたくねーもん。
それにその時言われんだよ。
『共学なんかにやって、よその娘さんを妊娠なんかさせたりしたら面倒見切れない。』って。
素行不良の生徒だらけでもほぼ男しかいない環境にぶち込めば、そんなリスクが減るって考えたんだろう。
で、両親のその考えはある意味功を奏した。
俺は入学早々、どっからどう見てもヤバみしか感じられない不良共に呼び出されて、連れていかれた先の体育倉庫でそいつらのトップだっていう男のオンナにされた。
つまり、レイプされたって事。
ぶち込まれた環境で俺のケツにもぶち込まれたって訳よ。
あ、面白くない?だよな~。
じゃあついでに、もっと面白くない話、聞いてよ。
俺の高校三年間のさ。
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