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しおりを挟むこ、この世に跡形も無いってどういう事…?
聞くのが怖い。俺、きっと真っ青な顔してる自信ある。
俺が怒っているから態度が頑なになってるんだと思ったのか、先輩は自分の事情を少し話してくれた。
久我先輩の家の事情はかなり複雑らしくて、お父さんは中学の時に亡くなってる。それが関係あるのかはわからないけど、本当はその後すぐに日本を出る予定だったのだという。でも、お母さんが入院する事になって、それを一旦やめてそのまま日本で暮らしてたらしいんだけど、事情があって身を隠さなきゃならなかった。通っていた中高一貫の私立ではなく、辺境なんて言われてる工業に籍を置いたのもその辺の事情らしい。
母方の叔父さんの援助を受けながらひっそり暮らしててた久我先輩だったけど、高三に上がる前にお母さんが亡くなった。俺に会ったのは、それで少し情緒不安定になってた時期だったんだそうだ。だからそれを俺にぶつけてレイプしたのかな、と思ったけど、アレは単に男臭い田舎の学校で思いがけずタイプの顔を見つけて気が逸っただけだと言われた。
気が逸ったって理由だけであんな怖くて痛い思いさせられのか、俺。
でも、先輩んちが両親亡くなってたなんて初めて聞いた。あの頃の久我先輩は、そんな風には全然見えなかったから。
でもお母さんが亡くなった後、また少し厄介事が持ち上がって、卒業と同時に渡米して、向こうの大学に入って。向こうに居る間に叔父さんが親族間のゴタゴタやらをおさめるように動いてくれて、やっと終着の兆しが見えてきたから日本の大学に編入して戻ってきてたらしい。
そんな事を聞かされて、俺はどうリアクションしたら良いんだよと困惑。
初めて先輩の事情を知って同情の気持ちは湧いてきてるけど、自分の後のトップ2人を消したと事も無げに言うのは怖過ぎる。マジの話だろうか?
でも久我先輩が冗談言ってるのとか、俺聞いた事ない。とすると事実だとして、人ふたりをそんな風に…。
そんな事が可能な力を持ってるらしいこの人が、どういう人なのか怖くて仕方なくなってきた。
しかも理由が、自分の言いつけを歪曲して、俺に手を出してたからって、さ…。
「自分のもんに手を出されたら普通、怒るだろう。」
って事らしいから、久我先輩はどうやら俺の所有権を手放したつもりはサラサラ無いって事らしい。
やっぱり逆らっちゃいけない相手だって、頭の中で危険信号がチカチカ点滅してる。
あの頃と同じだ。弱っちい俺は、せいぜい腹を見せて媚びるくらいしかできない。
もう一度広げられた腕に、自分から入っていく事くらいしか、身を守る術がないって思った。
結局その晩、俺は家に泊まりの連絡をさせられた後、しこたま抱かれた。
高校でセックスし過ぎて辟易してたから、卒業してからはたまにオナる程度で性的な事からは遠ざかってたのに、やっぱ他人の口で甘やかされながらしゃぶられんの気持ち良くてさ。後ろも解される時に初めて舐められたりして、びっくりした。だって前はそんな事された事なんかなかったんだぜ?最初が肛門切れて酷いありさまになったのを哀れに思ってくれたのか、長い間使えなくなるのが不便と思ったのかすぐ突っ込む事はなくなったけど、それだって指である程度慣らしたらローション垂らしてINって感じだったからさ。3人共にそうだった。
まあさ?学校だったし事前にシャワーなんてできる環境じゃなかったから、衛生面で考えたらそれで正解なんだろうけど。
そんな訳で時を経て、久我先輩の巧みなアナル舐めを初体験した俺は骨抜きにされて、気づいたら同棲OKさせられてたんだよ。前とは比較にならないくらい気持ちよく抱かれて、その快楽に流された。頭では反発してるのに体が逆らえないんだよな。俺、チョロ。
とはいえ、他人の舌にあんな場所を穴の中まで舐め回されるって、すごい衝撃だけど死ぬほど気持ち良いからな。…まあ、皆が皆そうかはわかんないけどさ。
あらゆるところを責められてすっかり腰がヘロヘロになった俺は、翌日のバイトを欠勤させられた。せっかく真面目に行ってたのにな。俺が当欠なんて初めてで、声が別人級に涸れてたからか、マネージャーも心配してくれて。『こっちで代打探すから』って言ってくれたの、ありがたかった。相当酷い風邪でもひいたと思われたんだろな。そんな良い上司のいる居心地良い職場なのに辞めなきゃならなくなるんじゃねえかなって思った、その予感が後で正しかったのを知る。
翌々日の夕方には声が少しマシになって、一旦家に帰されたんだけど、また護衛という名の逃亡防止の見張りを付けられるようになった。
これから暫く友達のとこから仕事に通うと言った俺に、親父は変な顔をしてた。そりゃそうだよ。中学でカノジョ作って遊び呆けてた時でさえ、どっかに宿泊してくる事なんかなかったんだもん。
俺に友達なんかいるのか?って疑わしげな顔してた。
でも、20歳にもなって、一応は仕事もしてる息子が友達んとこに泊まる、ってのを反対する理由も無いなって思ったんだろうな。
結局は『そうか』、の一言で許可が下りた。
俺としても、変に突っ込んで聞かれなくて良かったよ。言えねーもん、昔の男が囲いたがってるんで、とか。言ったからって、穢いものを見るような目で見られて呆れられるのがオチだろうし。だってウチの親だもん。
そうして身の回りの荷物だけ持って久我先輩のマンションに連れ戻された俺は、やっぱり仕事を辞めさせられて、それから1年ちょいかな、軟禁された。
と言っても、ネットとかスマホかそういうのは自由に使えたし、ちょっとした買い物くらいなら気分転換にと護衛(監視)付きで出してもらえた。実家にも定期的に連絡しとくようにって向こうから言われるくらいだったよ。何だろな、失踪事件とかになると厄介とかそういう事?って思ったけど、言われたからには大人しく従っといた。
どうせ、元気?こっちも変わりない。じゃーね、くらいなもんだし。
どうせ連絡絶えたって探されたりなんかしないと思うんだけどねぇ。昔から湊しか見てない人達だし。
で、そんな調子で定期連絡以外は実質ほぼ疎遠になってた実家だったんだけど、ある日あっちから連絡が来たんだ。
初めての事だったから、何かあったのかって理由を聞くとさ、翌月に従姉妹の結婚式があるから絶対出席するように、って。
ふっと湊の顔が浮かんで、また親戚集まった中で色々言われるのかなあって憂鬱な気分になった。正直断りたかったんだけど、顔出さなきゃ出さないで絶対後でブツブツ言われるじゃん?だから一応、久我先輩にお伺いを立てた訳。
そしたら、それは絶対行っとけって言われた。
久我先輩にしたら、こっちの事情は知らないから、たまには皆に元気な顔を見せてやれって気で言ったんだろうけど…。
まあ、それで。久我先輩が結婚式に出席する用に礼服を誂えてくれたりして、その厚意も無下にできない俺は翌月の従姉妹の結婚式に出席した。
何年振りかに会う親戚連中は、思ってたのとは違う反応だった。
カッコよくなったねだの、背が伸びたねだの、真面目に働いてるんだってね、だの。あの人達から俺に褒め言葉がかかるなんて思ってなかったから、拍子抜けした。でもせっかく褒めてくれてるのに、とっくに仕事やめて男に囲われてます、なんて言えない。(笑)
中学高校で他人から褒めてもらえる事には慣れてきてたけど、ずっと否定され続けた人間達から肯定の言葉を引き出したのは初めてだったから、なんかむず痒い気持ちになったな。うん、悪い気はしなかった。
でも、湊が会場に現れた途端、その雰囲気が一変した。
すっと伸びた背筋に穏やかな表情。顔の造りは俺より断然平凡なのに、何故か人目を引く。
結局大人になっても俺と湊の根本的な関係性は変わってなくて、場はアイツに持っていかれた。
大学四年になった湊は、もう就活も内定をもらっているらしい。さっき俺が褒められて満更でもなさそうにしていた俺の両親も、それを聞いて、やっぱり湊君は出来が違う、なんて笑顔になって。
マジでアイツ、昔っからムカつく。
忘れかけていた嫉妬心が頭をもたげてきた。
湊の恋人だった永を初めて見たのは、その数時間後の事だった。
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