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最終章
しおりを挟む翌日の夜。店に入ると相変わらず二人が言い合っている。俺は気にせずカウンターの前に座り、百合さんに手を振る。ぶつぶつ文句を言いながらも彼は俺の方を向いて軽い飲み物を作ってくれている。深沢さんが疲れたように煙草に火を付けた。
「遼一の前で吸わないでよ」
「何、そのルール。藤田くん、相変わらずの活躍、喜ばしいね」
「ありがとうございます」
深沢さんはにっこりと笑った。目尻に皺を刻むようになって、七年という月日の長さを物語る。百合さんは少し大人びて、それでもよく見ても大学生だ。心理学を専攻して、百合さんはますますそれから離れるようになった。俺はてっきり心理カウンセラーになるとばかり思っていたが、人の悩みを聞いていると「イライラする」のだそうだ。いつもの百合さんはその冷たい容貌の通り、すっぱり物事を切り捨てる方だし、他人のことになどあまり興味がない。唯一切り捨てることのできない深沢さんのことも最近何とか吹っ切れてきたようで、前ほど俺の腕の中で泣く回数も減っていた。独立を考えているようだけれども、店を持つようになれば人の愚痴やら悩みなど聞くこともあるようになるだろう。だから深沢さんの横で静かに店の仕事に専念できる今が一番いいのかもしれない。
ある時、百合さんの呼び出しを受けて、指定されたバーに出向いた。すぐに深沢さんが外泊をしているのがわかった。彼は俺の前で続けて何杯もグラスを煽る。見かねて手を取ると思わず泣いた。どんなことをされても、結局、兄である彼のことを諦め切れないのだろう。深沢さんの想いもわかるだけに、俺は何も言えなかった。二人はいつまでも平行線のまま、歩いて行かなくてはならない。それを噛み締める度に、百合さんは泣く。そしてそれを見守るのは俺、ということが多くなっていった。あまりにかわいそうで、その夜、一緒に外泊することにした。百合さんは俺にしがみついているだけで言葉を交わすことはなかった。俺達の夜は概ね、そんな様子だった。
泣くほどの気持ちが理解できる。どんなに想っても結ばれない人が側にいる辛さ。それは簡単に昇華することのできないものだ。迷っていた俺を助けてくれたように、といって何かできるわけでもなかったが、ただ側にいて、抱きしめていた。そんなふうに過ごしたいつもの朝。カーテンを開け放したままの室内は明るく、百合さんの顔に日が当たらないよう、もう少し彼を抱き寄せた。そういえば眠る時も眼帯を取ることはない。今まで俺の前で取ったことは一度もなかった。彼と付き合っていく中でそれがとても気になっていた。もしかして先生のように傷があるのかもしれない。もしそれを尋ねたら彼の気分を害することにならないか。だが、百合さんのことをもっと知りたかった。しばらくして目覚めた彼に、俺は思い切ってそのことを聞いてみた。どうしても踏み込めない先生の闇のように、その姿はいつもそこにあったから。彼はそっと起き上がると一呼吸置いて、その眼帯を取り、ゆっくりと瞼を開けた。
「百合さん」
朝の光の中、その瞳は煌々と輝いて、美しかった。ひとつだけ違うのは、両目の色が違ったこと。左目は漆黒、右目は明るい茶の色。
「……驚かないんだね」
明らかにほっとしたように肩の力を抜く。俺達は静かに見つめ合った。
「両目の色が違うでしょ。ヘテロクロミアっていうの。虹彩異色症ってヤツ」
ふと視線を落として、百合さんは手にした眼帯の紐を弄びながら、続ける。
「裕貴さんの気持ち、少しはわかるんだよね。僕、これが原因で人から変な目で見られることが多くてね。それで眼帯して隠してたの、ずっと。でも、賢史だけは驚かないでくれた。当たり前のように、僕を見てくれたんだよね。遼一が悪いって言ってるんじゃないよ、そこは誤解しないで。人と違うってこと、傷つくこともあるんだよ」
「百合さん……」
「驚かないでくれて、嬉しかった。この七年ずっと僕は見ていた。同情でもなく、執着でもなく遼一は裕貴さんを愛していた。だから、きっと一緒に生きていける。だから必ずまた会えるって信じて。僕も信じてる」
百合さんは朗らかにそう言ってくれた。
「はい、マルガリータ」
「随分とオーソドックスだな」
「遼一が好きだから。ね?」
二人に笑い掛ける。グラスの縁に散りばめられた塩をそっと舌でなぞると、そのまま乳白色のカクテルを一口飲んだ。
「亡くなった恋人を偲んで作られた、というね」
「ガールフレンドのためにって説もあるよ。遼一に嫌がらせしないで」
剣呑な雰囲気を何とか崩そうと、俺はせいいっぱいの笑顔を作った。
「おいしい。百合さんのカクテルは本当においしいですね」
「遼一、俺のはまずいって言うのか」
「違いますよ。同じものでも深沢さんのはいい意味で重い感じで」
「じゃ僕のは軽いって言うの?」
「百合さん」
どうやら最高潮に仲の悪い時に来てしまったようだ。互いに言葉尻を捉えて、俺は参ってしまう。
「裕貴の連絡先が知りたいか」
紫煙を吐き出して、深沢さんは尋ねてくる。俺は覚悟して頷いた。今日はそのために来たのだ。二、三日の休みの後、また遠征に出なければならない。その前にどうしても先生と会っておきたかった。
「裕貴は三十五になった。違う高校で数学を教えていて、今、付き合っている女性がいる」
「……賢史! そんな……!」
息が止まるかと思った。なぜだろう。先生は俺のことだけを考えていてくれていると思っていた。勝手なことをして、勝手な思い上がりをして。そうか、今は幸せなのか。ただ元教師として、純粋に教え子の試合を見に来てくれているだけだったのか。俺はグラスを置いて、膝に両手を置く。握りしめた手が痛い。その時だった。
「……痛っ……」
「百合?」
「……大丈夫」
「目が痛むんだろう?」
深沢さんは煙草を置いて、百合さんの両肩を抱いたが、嫌がって身体を振った。バランスを崩して倒れそうになる。それをしっかりと抱きとめて、眼帯に触れた。その瞬間、それが落ちる。俺に秘密を打ち明けたのに、百合さんは急いで手を目に当てて隠し、深沢さんの胸に顔を埋める。
「眼帯、取って」
「百合、病院に」
「大丈夫! ……大丈夫だから」
伸ばした手で拾ったそれを渡すと百合さんは急いで耳に掛ける。そして何事もなかったかのように俺に微笑み掛けた。
「大丈夫ですか? 百合さん」
「ごめん、大丈夫。もう何ともない」
腕の中から離れて何事も無かったかのように洗い物を始める。それを心配そうに見つめる深沢さんの目は、とても弟を見るものではなかった。深沢さんは今も百合さんのことを愛しているんだ。それでも彼のために必死に自分の心を押し殺している。俺は? 先生が幸せなら、もう自分の気持ちは抑えた方がいいのではないか。そう思えてきた。
「……遼一」
「何ですか?」
百合さんはグラスを丁寧に拭きながら、ぽつりと言った。
「……遼一はやることをやったんだ。……気持ちを抑えることはない。ここまで頑張ったんだろう? 言いたいこと、言ってきなよ」
「百合さん……」
「ダメなら、……僕が……」
「それなら俺が送っていく。百合、店を任せてもいいな」
か細い声が掻き消えて、その後が聞こえなかった。深沢さんは急いで店の近くにある駐車場に来るように言って、先に出て行った。百合さんがしっかりと頷く。俺も頷き返して、店を後にした。
深沢さんは車の前で電話をしていた。手で助手席に乗れと指示している。俺はドアを開けて中に乗り込んだ。しばらくすると運転席に乗り込んでくる。
「裕貴も会いたいと言っている。いいな?」
「……はい」
先生に会える。七年ぶりに会える。俺はくたくたになった皮のネックレスのとんぼ玉をポケットの中で握りしめる。スーツ姿の俺。先生はどう思うだろう。両手を握りしめていると車は静かに駐車場を出た。
「百合は俺が守る」
「……はい?」
いきなり何の話だろう。俺は深沢さんの厳しい横顔を見た。
「百合は……右目が見えなくなるかもしれない」
突然のことにびっくりして息を飲んだ。そんな。百合さんの目はそんなに悪くなっていたのか。俺と一緒の時は痛みを訴えたことが一度もない。隠していたのか? 百合さんの辛抱強さも並ではない。
「百合は、ああ見えて人の心に敏感だ。特に近しい人間の気持ちの揺れで目が痛むらしい」
「そんなことが……?」
「本人がそう言っている。実際、病院でも何が原因かわからないそうだ。ただ右目の視力は年々低下している。今はもうぼんやりとしか見えないらしい」
百合さん。まだ深沢さんのことを深く激しく想っているのか。俺と一緒にいて笑って、もう気にしないと言いながら、心の底から苦しんでいて、そこから抜け出すことは不可能なのか。俺は百合さんの辛さをわかってやれなかった。何もしてやれなかった。近くにいたのに。その気持ちを読んだように深沢さんがきつく答える。
「何もしてやれなかったとか考えなくていい。おまえには関係のないことだからな」
「俺にも関係があります。百合さんとは」
「百合と寝ているんだろう? 今度こそ本当に」
まただ。深沢さんは聡い人だが、百合さんのことになると先走りすることがある。そんなことがあるわけないだろう。それとも俺と一緒にいるのが気に入らないのか。
「……嫉妬ですか」
「ああ、そうだ。百合は誰にも靡かない。大学でも友人はいなかった。俺だけだったんだ。なのに、おまえとはよくつるんで……一緒に外泊してるのは、おまえだろう」
「それはそうですけど」
先生と深沢さんの話しかしていない。たまに互いの近況を報告するだけで深沢さんの思っているような関係ではない。それをどううまく説明したらいいのか、頭の中で整理していた。深沢さんは少し怒っているようで、運転が乱暴になっていた。
「……百合の右目のことも、知ってるんだろう?」
「そんなに心配なら、あなたが掴まえてあげてください。先生だけの俺に百合さんを頼もうとしたこともあるのに、今更何なんですか。百合さんだってあなただけなのに」
「俺は百合の思うようにしようと思う」
それは、兄弟としての一線を超えるということ? 百合さんの思い通りになるということ? 深沢さんは苦い表情で、前の車を煽った。
「あの子のためを思ってしてきたことが、すべて裏目に出た。畜生」
「深沢さん……」
「おまえはもう裕貴のことだけ考えろ。百合に手を出したらただじゃ済まない」
「……八つ当たりですよ」
「俺も裕貴からは完全に手を引く」
「……願ったり叶ったりです」
そんなことを言って、存外優しい深沢さんは先生に求められれば断れない。そういう人だということはわかっているし、今はそのことに感謝している。
車は埼玉方面に向かっているようだった。
白い三階建てのマンションの前で下される。新しくも古くもなくありふれた簡素な建物。それは静かな場所にあった。
「三階の305だ。あの角部屋」
一番右端の部屋。階段を上がっていくようになっている。俺は深沢さんに礼を言った。
「……ありがとうございます。いつもいつも、あなたは裕貴さんを、俺を助けてくれた」
拍子抜けした顔で深沢さんはため息をつく。
「大人になったな」
「そうだといいんですが」
「行ってこい」
「はい」
深沢さんの車が見えなくなるまで見送る。先生に会う。恋人のいる先生に。胸が痛む。俺だって女と付き合っていた。責めるなんてお門違いだが、ダメージはハンパない。そして相手が女だからこそ、今、俺は迷っている。
引き返した方がいいのか。先生の平穏な生活を壊していいのか。でもそれならなぜ会いたいと言ってきたのか。俺はただ思い出を懐かしむためにここに来たんじゃない。迎えに来たんだ。それを断られたら、キツい。けれど、それを承知で一度別れたのではなかったか。先生にとって最上の道があるなら、それを歩んでほしかったのではないか。
俺は大きく息を吸った。どんな結果になろうとも、先生にありのままの姿を見せるだけ。階段をゆっくりと上がり、廊下を歩いていく。305。野村、と表札がある。しばらく考え込んでいると、突然ドアが開いた。
「……藤田?」
懐かしい声。少しだけ髪が長くなった。憧れた美しい表情に衰えはない。俺は泣きそうになった。
好きだ。こんなにも好きだ。この感情に変わりはなかった。それよりももっと愛しい気持ちが溢れ出てくる。
「……車の音が聞こえて、もしかしたらと思って。なかなか上がってこないから違うのかと思って、……藤田、久しぶりだな。……あまり変わっていない」
「裕貴さんが試合を見にきてくれていたこと、知っていました。ありがとうございます」
「……相変わらず目もいいな。とにかく上がって。疲れているだろう」
先生の後を追って、中に入る。部屋は変わらずのモノトーンで懐かしい。高校の頃に戻ったみたいだ。
しかも白のシャツに黒いタイトなジーンズを着込んでいる姿は艶っぽくて、ますます当てられそうになる。先生はキッチンに入って湯を沸かし始める。
「インスタントのコーヒーしかないけど、それでいいか?」
「はい」
リビングの中に入り、辺りを見回す。ローテーブルの横にある小さな黒いラックの中にバスケットボールの専門誌の背表紙が見えた。自惚れてしまうそうな俺はそれを見ないふりでソファに座らせてもらう。相変わらず物が少ない部屋だ。
「あまり見ないでくれ」
先生の柔らかな声が聞こえる。ああ、本当に久しぶりに聞く声。授業中、聞いているだけで嬉しかったことを思い出す。
「それで、今日は結婚の報告に?」
「……何?」
白いマグカップを俺の前に置いて、向かい側に座る。変わらない笑みを湛えて先生はもう一度言った。
「結婚するんだろう?」
何を言っているんだ? 俺は結婚なんてしない。先生は誤解しているようだった。
「いつも試合を見に来ている女性がいたことは知っているよ。この間は……」
先生はマグカップに口を付けた。
「……素敵な指輪をしていた。左の薬指に」
「……あれは」
もしかして、美幸のことを言っているのか? 確かに度々試合を見に来ていたし、送り迎えをしてくれたりもしていた。それを勘違いしているのだろうが、俺も先生に確かめておきたいことがあった。
「……裕貴さんも、お付き合いしている女性がいるそうですね」
「……私が?」
「深沢さんに聞きました。……いつから? 誰と?」
「……もしかして、東田先生のこと?」
一時考えて、急に逆上してしまった。高校生だった頃、保健医だった東田先生。男どもがみんな狙っていたあの女と付き合っているのか。俺は唇を噛む。
「……転任した後も付き合ってたのかよ」
「……藤田?」
「俺と別れてから? それとも卒業してから? 何年付き合ってんの?」
「違う」
「何が? 何が違うんだよ。……俺がいなくなったらすぐあの女と付き合ってるって……」
「藤田」
「……サイテーだよ」
先生は目を見開いて俺を凝視している。やっとのことで手にしていたマグカップをテーブルに置いたが、手が震えているようでカタカタと鳴った。手を組んで、ぐっと唇を噛みしめている。俺だって同じように女性と付き合っていたのを棚に上げて、先生を責めてしまうのは間違いだとわかっている。だが、別れてすぐ付き合ったという事実を突きつけられて、思わず逆上していた。気まずい沈黙が横たわる。
「藤田。……別れるってそういうことだろう? 私たちは互いの将来のために別れた。君は努力してその成功を勝ち取り始めている。……私も同じように先に進んだとしても……君に責められる謂れはない……」
「俺は! 別れてからずっと、ずっと俺達の未来のために歩いてきた。そんな……裕貴さんが俺を必要としていなかったとしても……! ……そんな言い方するなよ……」
瞳が潤んで、先生の顔がぼやけそうになる。いけない、と思って乗り出した身体を引いた。背もたれに全身を預け、大きく息をする。そうだ。俺がしたことはただの自己満足だ。それを押し付けてはいけない。何を選ぼうと、それが俺にとって苦しい現実でも、先生の幸せが存在するというのなら肯定しなくてはならない。
先生は立って俺の方に歩いてきた。横に座ると突然キスをしてきた。引き止めようとしたが、それは一瞬で離れる。ぬくもりはすぐに消えた。ふっと笑うと、俺の肩に手を置いてきた。
「……私は君がいたから、今がある。そしてこれからがある。……本当にありがとう」
「……何……」
「私はずっと自分の存在の意味を考えていた。この世に必要ないものだとずっと思っていたんだよ。それを君が救ってくれた。別れた後も君は可能性を信じさせてくれた。こんな私でもまだ生きていていいんだと思えた。誰かに抱かれなくても。だから……ありがとう」
はにかみながら、そう言う先生の手首をぐっと握る。少し顔を顰めたが、黙ったままだ。
「もう、俺はいらないってことなんだな。……幸せになったんだな。裕貴さん」
俺はスーツのポケットから先生が作ってくれたネックレスを取り出した。ずっと身に付け、付けられない時はバッグに入れて持ち歩いていた。皮はくたくたになりガラスに少し傷は付いたが、いつでも大切にしていた。見るたびに勇気付けられた。けれどこれを返す時だと思った。どんなにこの人を愛しても、必要とされているのが俺ではなくなったからだ。掴んだ手首を持ち上げてそれを近付けたが、受け取ろうとしない。どんなにその手にネックレスを押し付けても先生は頑なに開かなかった。
「……やめてくれ」
先生が首を振る。髪が乱れて頬に掛かった。
「そこまでしなくても……持っていてほしい」
「もう俺は持っていられない。……ごめん。俺は裕貴さんの幸せを祝福できない、どうしようもないヤツなんだよ」
「私は、返せない。ずっと持っていたい」
まだ持っていてくれたのか。あの桜のとんぼ玉のキーホルダー。嬉しかった。先生の温かな気持ちが。
「返さなくていい。でもいつか気持ちの整理ができた時は捨ててくれよ」
先生は俯いたまま肩を震わせた。俺は手首を放しネックレスをテーブルに置くと立ち上がる。
「話は終わった。裕貴さん、幸せに」
誤解を解く必要はなくなった。俺は背を向けて歩き出した。
「……遼一!」
「……裕貴さん?」
「最後なら……一度だけ。一度でいいから、抱き締めてくれないか。……お願いだ」
先生の表情は見えなかった。両手をソファに付き、そう叫ぶように言った。
「……さよなら、裕貴さん」
「……待ってくれ! 遼一! 待って!」
先生はもつれるように立ち上がり、俺の胸の中に飛び込んできた。ぶつかった身体は軽い。なぜ、こんなに軽くなったんだ。いや、俺が成長したのか。あの時よりも。全身が目に見えて震えていて、今すぐ強く抱き締めたかったが、我慢して両手を握りしめる。
「……何?」
「東田先生とは付き合っていない。時々は会うけれども……」
「え?」
くぐもった声を聞き取ろうと俺は顔を寄せた。先生は喉を何度も鳴らしながら答える。
「君が卒業した後……いや、正確には君と別れた後、私は二度倒れたんだ。学校で」
「何だって?」
「眠れなくなって。疲れているのに眠れなくて。食事も時々受け付けなかったり、突然熱が出たり。君と会えないことがこんなにも……こんなにも辛いことだとは思わなかった。東田先生に疑われた。もしかして何か悩みを持っているんじゃないかと……」
「裕貴さん……」
「仕事を続けていきたかった。だから相談した。恋人と別れたと……。今は遠くの病院に通っている。症状はだいぶよくなった。東田先生に告白されたけれど……私は、どうしても君のことが忘れられなくて断った。深沢さんとも会うけれど話しかしない。一生懸命頑張れば、身体は無理でも、心は少しでも綺麗になれるかと思って……。辛い時は君の試合を見に行って……。東田先生はもう結婚しているし、私とはいい友人になってくれて……病気の報告で会ったりしている。ただそれだけ。大人ぶって、君と別れたけれど、……済まない。私は、今でも、君のことが……! 例え、結婚したとしても、私の気持ちは変わらないんだよ。済まな……」
言葉が終わる前に先生の細い身体を強引に抱き締めていた。びっくりして見上げた顎を捉え、素早く唇を奪う。
深沢さんにやられた。それとも試されたのか。だがもうその理由は知らなくていい。結局、俺はこの人を愛していて、それはまったく変わることがなかった。先生も同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、調子に乗ってキスを続ける。
先生は爪先立ちになって、苦しそうに俺の肩に指を這わせたが、押し返すことはなかった。
「……裕貴、歯」
「え、あ、ああ……」
先生が歯を開けた瞬間、後頭部をぐっと押さえて舌をなぶる。激しく吸いながらその久しぶりの感触を楽しんだ。変わらない、その甘さを堪能する。唇を離すと唾液がつっと二人の間を繋いだ。
「……ダメだよ、藤田」
「何で?」
「婚約者に……悪いじゃないか」
「あ、ああ」
先生の誤解を解かなくては。いい匂いのする髪に顔を埋めた。
「あれは姉貴。結婚するのは本当だけど、俺はしない」
「……嘘……」
「嘘じゃないからここにいる。そうだろう?」
「……遼一……」
俺の名前を呼ぶ、大好きだった掠れ声。胸に顔を押し付けて、両手で腕を必死に掴んでくる。いじらしくて、何もかもが愛しくて、耳たぶを強く噛んでしまう。
「……あ」
「あなたを迎えに来た。……遅くなってごめん」
「……え?」
「とりあえず、足手まといにはならないと思う。……裕貴さん、今度こそ。永遠に俺と一緒にいてください」
「……遼一……」
「うん、って言ってくれないの?」
噛んだからではなく、恥じらって耳が赤くなっているのを見逃さない。俺は、あなたと一緒に生きていくための七年を過ごしたから、あなたもそうだったと、もう一度言ってほしい。そう流し込むと、先生は微かに頷く。
「……わからないよ、それじゃ」
笑った俺に、先生はずっと顔を押し付けたまま、何度も頷く。
「……私も……ずっと、君と生きていきたいと思っていた。だから病院にも行ったし、……少しは成長した……と思う」
「俺も裕貴さんと一緒に生きていきたい。そのために頑張ったよ。だからもう離れないでいようよ」
また何度も頷く先生の髪に口付ける。
「顔見せて? 裕貴」
「……ずっと……一緒にいてくれる?」
「裕貴」
「もう離れないって。……側にいてくれるって言って」
珍しい執着の言葉に、彼を抱く腕の力を一層強くする。
「約束するよ。一緒に生きていこう。これから、ずっと……」
「……遼一」
泣けない、という先生を、俺はいつも苦しませてしまう。きっと泣きたいだろうに、それができなくて何度も辛い不規則な呼吸をしている彼の背を繰り返し撫でる。きっといつか喜びの涙を流してもらえるよう、もっともっと頑張ろう。強くて、脆くて、もう俺のことしか愛せない人だから。
「……裕貴?」
考えるような仕草をした後、ぐいぐいと俺の腕を引いてリビングのドアを開ける。すぐそこにベッドがあって、感情も一気に昂る。漏れる灯りだけを頼りにベッドへと押し倒される。どうするのかと思って仰向けに寝ると、慣れた手付きで背広、ネクタイ、シャツと剥がされる。脱ぎやすいように協力して、その次はTシャツへ。上半身裸になると先生がうっとりしたように俺の胸に両手を這わせた。そのまま腰に跨って、被さってくる。その妖艶さに目を奪われて身動きできない。激しいキスが顔中に降ってきて、呼吸が上がる。先生は夢中になってそれを繰り返しながら上半身にくまなく触れていく。まるで喰われるような感覚。触れたり、啄んだり、噛まれたり。これがあの先生なのか? 胸の鼓動が激しく躍っているのが伝わってくる。息をつく間もなく、先生は俺の身体を味わっていく。
「裕貴……」
「背中……」
俺は戸惑いつつもうつ伏せになる。背筋をするりと撫でられると一気に下半身が重くなる。もしかして俺を抱きたいのだろうか? 先生だって男だ。そう思っても不思議ではない。しかし唇と舌の温かさが心地よい。幸せで、不覚にも涙が出そうだ。好きな人に抱かれるとは、こういうことなんだ。立場上、こんなふうに求められることがないので、まったく知らなかった。
「……裕貴、……気持ちいい……」
「もっと……もっと欲しい……」
ストレートにせがんでくるのを見て、好きなようにさせてやろうと思った。最後まで……は考えてしまうけれど。先生はぐいぐいとパンツを引きずり降ろしていき、腰骨に口付ける。結構響く。前がきつくなって、俺は腰を浮かせた。
「……脱いでいい?」
「うん」
先生の唇が濡れて光っている。目が欲情し熱く潤んでいて思わず唇を奪う。舌を絡めながら俺は下着を脱ぎ、先生の両手を自分のペニスに導いた。もう十分硬くなったそれに、頬を擦り付けてくる。
「ん……裕貴」
裏筋を舐められ、何度も何度も行き来する舌と唇にため息が出る。箱根での夜を思い出す。上手になっていやしないか? いや、それを考えるのはよそう。よく見ると額に細かな汗が光っている。喉の奥に当たるほど飲み込まれると、俺は思わず息を上げた。
「裕貴……飲むなよ」
あの時、吐かれたことを思い出す。だが先生は何も聞こえていないかのように、熱心に俺のペニスを口に含んで頭を上下させている。その凄艶な様に手の甲を噛んでしまう。
「裕貴……ヤバいって」
聞いていない。子供のように夢中な先生の顔を引き上げる。唇で塞いで起き上がらせた。
「……遼一……」
「何? 入れたい?」
先生は唇から唾液を滴らせていた。それを指で拭う。
「……それは……考えてないけど……」
「そう」
俺の昂りに釘付けになっている先生のシャツのボタンに手を掛ける。びくっとして身体を引こうとしたが、観念したかのようにぎゅっと目を閉じた。
「……怖くない?」
「……大丈夫」
「嫌な時は言って?」
「嫌じゃない……」
首筋、それから肩、胸へと少しずつシャツを脱がせながら唇を当てていく。先生が怖くないように深沢さんはどうやってこの人に触れたのだろう。俺も大概嫉妬深い。もうそのことを考えるのは止めよう。先生をゆっくりと倒していく。
「……真っ暗にする?」
「……いい。大丈夫……」
「裕貴、身体の力、抜いて」
先生は深呼吸をしながら俺の髪をかき乱した。目を瞑り快感だけに従順でいようとしている。俺は傷に沢山のキスをしたかった。口付けて、少しでも心の傷を癒したかった。
「……傷に、触れるよ?」
七年ぶりになるので、一応確認する。ほぼ全身に傷があるのだ。触れないわけにはいかなかったし、今だからこそ思いの限り、その傷に触れたかった。先生は指を噛んで考えていたが、しっかりと頷いた。
「裕貴……」
盛り上がった傷に唇を落とす。先生はそのたびにびくびくと身体を跳ねさせていた。そのうちジーンズを脱がせる頃になると、我慢ができないのか膝を擦り合わせていた。
「……気持ちいいんだったら、声、出して」
「……うん」
下着を脱がせるとペニスの先端が濡れていやらしく光っている。すぐにでも触れたかったが、まず先生の願いを叶えてあげたかった。
「……手と口、どっちがいい?」
「……え」
聞かれる間ももどかしく、俺の肩に顔を押し付けて、むずがるように首を振る。
「どっちを言っても、何とも思わないから」
先生の短い呼吸が耳をくすぐる。それだけでも俺の背筋はぞくっとした。
「……口で……して」
頭をぽんぽんと撫でる。かわいらしい。ここまでしておいて、まるで初めての子のような反応で嬉しくなる。先生を抱いた男たちに嫉妬はする。けれど、これからは俺ひとりとだけ。心行くまで満足させてあげたいと思う。
「見てて」
足を大きく広げるとそこに肩を滑り込ませる。膝を閉じようとしたが、間に合わなかった。俺の首を絞め付けるように張りのある腿が触れてくる。舌の先で愛撫していると先生の喘ぎ声が初めて漏れた。
「……ん……あぅ……遼一……」
ちらりと見ると必死になって枕の端を握りしめている。俺は改めて、彼に告白する。
「……抱かせて。二十四の俺に。三十五の裕貴さんを」
「遼一……」
熱く潤んだ瞳がゆらゆらと揺れて、俺の姿を映し出す。
――……抱かせて。十七の俺に。二十八の裕貴さんを。
「忘れてないんだね。あの日のことを。私もずっと忘れてなかったよ」
「裕貴」
口中で丁寧に舌を動かすと苦しそうで、それでいて艶のある声を漏らした。
「遼一……もう、ダメ……」
時々途切れる言葉を無視して更に唇も動かしていく。合わせられない足を必死に動かして、先生は身を捩る。
「ダメ……出ちゃうから……。ねぇ……」
甘ったるい声が何度も訴え掛けてくる。かわいそうだと思う反面、もっと気持ちよくなってほしいと思いおもわず頭を振った。
「いや……っ……!」
温かく滑った液体が喉を勢いよく通る。こんな感じで俺のモノを飲んだのか。うまいとは思わないが、先生がしてくれたことを俺もしてあげたかった。
「……遼一……ダメ……」
シーツを掻きむしる指が美麗で俺はゆっくりとそれをなぞった。顔を上げて足を下ろすと先生は両手で顔を隠していた。
「大丈夫?」
「……何で……」
「え? 飲んだらダメなの?」
「……汚いよ……」
「裕貴だって俺の飲んだじゃん」
真っ赤になって顔を背けた先生の上に覆い被さる。あの時と同じ、すっぽりと俺の下に収まった彼はうっとりしたように俺を見上げた。
「……大きくなったね……」
「そう?」
「大きくなった。七年前より。肩幅も、身体も。こんなに大人になって……」
「重い?」
「ううん……気持ちいい……」
お互いを抱きしめながらキスをする。指が髪に掛かり強く引き寄せられて、更に深く先生の舌に自分のそれを絡めた。汗と唾液で滑る唇を行き来させて、俺達は長い長い間口付けた。
「……裕貴、……この先もしていい?」
「うん……」
手探りでサイドボードの引き出しからワセリンとゴムを取り出し渡してくる。おずおずと四つ這いになり尻を突き出してくるので、露わになった窄まりにそっと温めたワセリンを滑り込ませた。先生の背がしなって一瞬入り口が強く締まり指が締め付けられる。
「……裕貴、大丈夫?」
「大丈夫……ごめん、ちょっとだけ、びっくりした……」
「もっとすごいことをするのに?」
「藤田」
先生の声になっている。でもこんな格好で叱られても説得力がなかった。俺は少しずつ指を増やしながら丹念に慣らしていく。甘く焦れた声は高まるばかりだ。
「ねぇ……もう……」
「名前、呼んで」
切羽つまった先生の声が、譫言のように俺の名を呼ぶ。
「遼一……遼一……」
「これからはずっと、そう呼んでくれる?」
「……うん……」
頬がほんのりと紅く染まる。綺麗だ。
「綺麗だよ、裕貴。傷があっても、俺にとってはいつでも綺麗な裕貴だ」
「遼一……そのままで来て……」
もう我慢できない。仰向けに身体を倒し、ゴムを着けずに先生の中に入っていく。薄い胸の隆起が上下して、両手が俺の首に巻き付けられる。ひどく感じているのか、きつく目を瞑って何度も俺の名を叫ぶ。それに応えるために腰を強く突き入れる。そのたびに感極まった声が辺りに響いて、その赤く染まった目尻に触れた。
「……裕貴、四つ這いになって……腰、突き出して……」
挿入し直す。息が途切れ、ぐっと枕を握りこむのが見えた。どうしても前へと進んでしまう身体を押さえようと、右肩と左手首を掴む。深く熱い中を感じて、俺も息が速まる。ぐいぐいと更に押し進むと、喉を仰け反らし、必死に空気を求めて唇を開いた。そこから唾液が滴り落ちて、シーツに染みを作る。何度も腰を打ち付けると、先生はつぶれた喘ぎを大きく漏らす。その声を聞いていたくて、また強く突いてしまう。
「……遼一……」
「ん?」
「……顔、見せて……」
ゆっくりと引き抜き、俺は座り込む。少し上半身を倒して、まだ硬い俺のモノを誇示する。
「……遼一」
「跨って」
「遼一」
「腰、落として。手伝う?」
頬を赤らめながら、小さく首を振る。目を合わせないように俺に跨ると、そっとペニスに手を添え、少しずつ腰を落としていく。息を吐きながら、飲み込むその姿を見て、我慢できず身体を起こしてしまった。先生の腰ががくんと落ちて、深く繋がる。背中に強く爪を立てられた。
「っ……!」
声を上げたのは先生の方だった。強く抱きしめながら先生の中を穿つ。締まって、良すぎて、痛みなどまったく気にならない。
「りょ……いち……遼一……!」
「うん……裕貴」
消えない痕をもっとつけてくれればいいと思う。先生ともっと一緒になりたい。全身の傷をうつされたい。何度も腰が激しく上下し、痛みを感じながらもどこか恍惚とした先生の表情を見つめ続ける。限界まで逸らした喉に歯を立てると中がぎゅっと締まった。
「あ、……っ、ダメ……っ!」
「出していいよ」
「や……」
先生の指ががむしゃらに俺の髪を掻き乱す。呼吸が乱れて言葉が切れ切れになる。
「一緒に……お願い……」
俺も限界が近づいている。繋がったまま慎重に仰向けに落とすと唇をねだった。思わず、というようにしがみついてきた先生がいじらしくて、髪の中に指を差し入れて掻き回す。唇が唾液で滑る。足りない。全然足りない。これからもずっと、満足することなんてないんだろう。受け止めて、求め続けて、そうして日々を重ねていく。嫌だ、と言っても、もう放してなんかやらない。ずっと俺は彼を抱きしめ続ける。
「もう……遼一……」
「うん、一緒にイこう」
自制できないように先生が身体を揺する。もうめちゃくちゃだ。一緒に登り詰めるために乱暴に腰を蠢かせる。境目が分からなくなった頃、俺達は息を止めた。
カーテンの色が白み始めるまで俺達は互いを求めあった。先生の身体には傷と、俺の独占欲の印が刻み込まれている。無意識にその痕をうっとり指で撫でている姿が愛おしくて、またキスの雨を降らす。彼の目は焦点も合っていないのに、俺を離したくなくて、もう一度と手を伸ばす。それを合図にまた肌を重ねる。溶けることができなくてもいい。何度も肌を触れ合わせてすぐ側にいると感じられればそれでいい。その温かさが二人を結ぶ。
突き上げられて、力なく掠れた小さな声を上げる。それを聞きながらもっと奥へと身体ごと押し入り、その中で達する。尻からは絶え間なく白く泡立った体液が零れ落ち、その淫らな様を心ゆくまで眺めてから腰を引いた。身体が緩く痙攣して、長い睫毛が微かに震える。唾液を混ぜあいながら口付けを続ける。先生と抱き合うことがこんなにも心を満たしてくれる。もっと一緒にいたい。もっと側にいたい。そう、永遠に。そう思いながら俺は意識を手放していた。
あの日。先生を初めて抱いた夜、俺は胸の内で泣いていた。翌朝、眠っている先生をそのままに部屋を出ることしかできず、今でも思い出すと辛くなる。彼が目覚めていたのはわかっていた。寝顔を見つめた時、噛みしめた唇が震えていたからだ。あの時はそれでも別れなければならなかった。それもすべて今日という日のためだと思えば報われる。離れていた日々のひとつひとつが俺達を繋げる楔のようなものなのだろう。
「裕貴?」
「うん……」
何度も抱き合った後、泥のように眠り込んだ。ちょっとだけ先に起きた俺は腕を枕にしている先生の寝顔を見ていた。今度こそ本当に恋人同士になれたのだな、と感慨深い。時間はかかってしまったけれど、これからもう離れることはない。ゆっくりと眺めることのできなかったあの時の分まで、ずっと見つめていた。部屋の中に薄日が差してモノトーンの冷たさも少し和らいでいた。
「……何?」
小首を傾げて俺を見上げる。そんな仕草さえ、なにもかもが特別に愛おしい。
「もしかして、寝顔見てた?」
「見てたよ。綺麗だな、と思って」
「……もう三十五になった」
「変わらないと思ったけど、……変わったよね、少し」
不安げな彼の額に口付ける。これから変わっていくすべてを愛せる。この人なら。
「色っぽさが更に増した」
「からかうなよ」
「からかってなんかない」
胸に顔を寄せてくる先生をきつく抱き締める。
「解はこんなに簡単だったんだ」
「え?」
ぼそぼそと単調な声が聞こえてくる。それを聞こうとして覗き込んだところをいきなりキスされた。
「私は、君を愛してる」
「今更?」
「そう。……今更すぎて、……済まない」
「数学の先生なのに、こんなに時間がかかったの?」
「数学には、未解決問題もあるんだよ。……遼一」
笑い合いながら、啄むようなキスを繰り返す。俺は心から笑った。
「いいんだよ。裕貴はそのままで。いつでも、いつまでも。そんな裕貴を、俺は愛しているんだから」
「……うん」
先生の髪を撫でながら神妙に告白する。何度も求められた順序を今回も正式に踏もう。
「一緒に住もう、裕貴」
「……遼一」
「返事は?」
一粒の大きな涙が盛り上がり、きらりと光ってこめかみに流れ落ちる。言葉が無くても、今、俺は最高の返事を手に入れた。
「薔薇の下」で育んだ愛は、今、成就する。俺は再びの涙を指で掬うと、裕貴の綺麗な泣きボクロにキスをした。
終
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