一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

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93 黒歴史は広まってるようです

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「さてと、もう戻ってもええで」

 ウィクトがそう言ったのは、グレンゼンからデウニッツへの入口の間にある不思議空間。
 グレンゼンへと入ったのは昨日の遅い時間だったので、そこで一泊し、まだ早朝ではあるが早い方がいいということでデウニッツへと向かうことにした。

「えっと、ここで大丈夫なんですか?」
「確かに他に誰もいないが、まだグレンゼン抜けただけだろ?」
「ああ、問題ない。この空間は基本的に他の人間と会わんようになっとるし、そもそもイースティンの住民は基本的に入れへんのや」
「「は?」」
「いやー、なんか過去にいろいろあったらしいてな」

 なんでも過去にイースティンの王女が空飛ぶ魔法を習うためにやってきたことがあるのだが、残念ながら全くと言っていいほど才能がなかったらしい。
 だがそれをその王女は認められず、ありとあらゆる罵倒をし暴れ、国へと強制送還となった。

「まあ、それも国からの謝罪があれば収まったんやけどな」
「なかった、と」
「その王女さんの親っていうか、当時の国王夫妻やけど。ものっそい可愛がってたらしいてな、こっちに責任はない言うばかりかきちんと教えられないデウニッツ側が悪い言う始末や」
「「……あー」」
「その結果、国交は断絶。まあ、そのあとの代の王様から取り成しがあって、一応収まりはしたんやけど、それでもイースティンのものが来るにはデウニッツ側の冒険者ギルドの許可が必須になってな」

 よって、断絶はしてないけど、まず入ることはできないようになっている、とウィクトは語る。
 それに、聖と春樹はなんとも言えない表情を浮かべる。
 もはや全方向に喧嘩を売ってるとしか思えない状況に、呆れるどころか感心してしまうのは何故だろうか。
 というより、そこまで行けばもう見事の一言である。

「あー、はい、じゃあ遠慮なく戻ります」
「一口でいいんだよな?」
「ああ、そやな」

 収納からコップへと一口分の例の水を取り出し、飲む。
 すると、一瞬のうちに体が変わったのが分かった。
 聖と春樹はお互いを見て、ようやく安堵の息を吐く。

「……ああ、戻った」
「……よかった、ほんっとに」

 どういうことかはわからないが、性別が変わっている間、性別が違うということに対する違和感はなかった。そういう仕様なのだろうとは思うし、それはそれでとてもありがたい。
 けれど、その違和感がないということがとても恐ろしかったりする。

「……疲れた」
「……そうだな」

 なので心底疲れていた。主に精神的に。

「ああ、そうだウィクトさん、この指輪と腕輪どうします?」
「腕輪は返してもらうかな。指輪はまだ必要や、もっとき」
「え?」
「必要って……」

 きょとんとする聖の横で、春樹が頬を引きつらせる。

「デウニッツからサンドラス王国に行くには、またグレンゼン通るやろ? だから必要や」
「「……」」

 そういえばそうだった、と肩を落とす。
 サンドラス王国に入ってしまえば必要ないが、それまでは最低でももう一度『セイとハル』になる必要があった。
 ちなみにサンドラス王国とイースティン聖王国は仲があまり良くないらしいので、入ってしまえば警戒は必要だが恐らく問題ないとのことだ。

「……はあ、諦めます」
「……そうだな。じゃあ、とりあえず行くか」
「ああ、久しぶりやなデウニッツ」

 不思議空間を通って、受付に並び、そして懐かしのデウニッツへと出る。
 相変わらず箒で空を飛ぶ人の多さには目を奪われるが、もう驚くことはない。
 少しはファンタジー世界にも慣れてきた気がするな、なんて思いながらギルドへの道を行く。

「そういや、ここのダンジョンには入ったんか?」
「いえ、まだです」
「つうか、そんな暇なかったしな」
「だよね……」

 なにせ箒の印を押したその日に、強制的にアルデリート魔王国に飛ばされたのだから行けるはずもない。
 そう言うと、ウィクトはそやったなぁとちょっと苦笑する。

「どんなダンジョンなんだ? なんかギルドの承認が必要とか言ってなかったか?」
「まあ、必要は必要なんやけど、そもそも箒に乗らへんと無理なんや」
「えっと、つまり高いところにあるダンジョンなんですか?」
「いや、入るだけなら誰でも大丈夫や。ただ、ちょっと中が特殊でな。んー」

 ウィクトは何かを確認するように目を細めてこちらを見る。
 鑑定スキルはないと言っていたので見えてはいないはずだが、ウィクト程のレベルになると何か見えるものがあるのかもしれないと、ちょっとだけ居心地が悪くなる。

「……たぶん、大丈夫やと思うけどな。まあ、興味があったらグレイスに聞いてみるとええかな」
「あ、はい」
「……特殊なダンジョンね……」

 春樹が若干微妙な表情で考え込んでいるが、何を考えているかは何となくわかる。
 特殊と言われても、正直どれが普通なのかがわからない。
 いや、まあ比べるほどダンジョンに行ってもいないし、おそらくダリスのダンジョンが普通と言えば普通なのかもしれないが、似たようなダンジョンに行っていないのでやっぱりわからなかった。
 けれど、ウィクトの口ぶりからすると、ダリスのダンジョンとはかなり違うのだろうとは思うのだが。

 そんなことを思いながら歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。

「あれ? グレイス?」

 そしてその前には、何故か辺りをきょろきょろとしているグレイスの姿がある。
 どうかしたのだろうかと思っていると、こちらに気付いたのか嬉しそうに笑ったかと思うと、何故か落胆した表情になった。
 意味が分からない。

「あー、あれやなっ」

 それにウィクトが噴き出す。

「見たかったんやろ、きっと」
「は?」
「え?」
「ウィクトさんお久しぶりです! なんで戻ってるんですか!? 麗しのセイとハル見たかったのに!!」
「「……。……」」

 全力で叫ばれた。
 聖と春樹は頬を思いっきり引きつらせる。

「きつめのお嬢様と儚げ清楚な美人だったんでしょ? 楽しみにしてたのにっ」

 なぜそこまで知っている。

「ウィクト、さん?」
「ウィクト?」

 原因など1人しか思い浮かばない。
 だが、ウィクトは悪びれる様子もなく飄々と言ってのける。

「ん? そりゃあ情報の共有は大事やろ? それはもう詳細にな」
「「……うわぁ」」

 つまり、全冒険者ギルドの専属に情報が回っていると。
 ちょっと目の前が暗くなった。

「いいじゃない、美人なんだし」

 そう言うことじゃない。

「そやな、イースティンの騎士なんてセイにころっと落ちそうやったで?」
「ウィクトさん、そこのところちょっと詳しくお願いします」
「いや、そんな事実はないからグレイス。って、春樹頷かないでお願いだからっ」
「あー、わるい」

 ちょっと目をそらして春樹がいう。

 なぜだろう、聖はいろんな意味で泣きたくなった。

 確かに春樹も同じ状況だったのだが、ずっと無言で通していたおかげか聖ほど黒歴史的なものは作っておらず、実は気持ち的に少し軽かったりする。

「まあ、いいわ。その辺はあとでゆっくり聞かせてもらうことにするから」
「いや、話すことは特にないからな?」
「これっぽっちもないからね?」
「楽しみだわ、他にもいろいろとね」

 念を押すも、グレイスは聞いちゃいない。
 しかも、そのいろいろには心当たりがありすぎて、微妙な表情しか返せない。

「ふふ、相変わらずで安心したわ」
「え?」

 グレイスは、にこりと笑みを浮かべた。

「改めて、ようこそデウニッツへ。というか、お帰りなさい2人とも!」



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