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二章
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ニナギはふらりと傾いだナユタを受け止める。意識を手放した瞬間に握られていた腕も放されて、だらんと垂れ下がっている。
社の前ではまじないが続けられていて、他の男たちもそれに続いて同じまじないを復唱しているから、騒ぎになって儀式が中断するという事は無かったが、突然意識のなくなったナユタは心配だ。とりあえず、近くの木の根元に寄りかからせて、様子を見た。
こうして意識のないナユタを見ていると、彼を拾った時のことを思い出す。
倒れる前、胸を押さえていたような気がするから、何か病気でもと心配になるが、自分では何の知識も無いので、どうすることもできない。それにこういう場合、おいそれと動かしても良いものだろうか。
握った手が温かいことに安堵した。
ニナギの心配を余所に、ナユタは幾ばくもせずに目を覚ました。
「あれ、……」
「気がついた? 倒れたんだ。儀式はまだ続いているからそんなには経ってないよ」
「そうか」
まだぼんやりとするナユタをニナギは覚醒するまで辛抱強く待つ。
「夢かな? どこかに、いた、ような」
「何か思い出した?」
「いや、でもよくわからない。蒼いところでゆっくりと、泳いでいた」
「泳いでた? 川のことかな」
首を捻るニナギに、ナユタは首を振る。川ではなかったような気がする。
一面に蒼が広がる世界。ナユタはその中を一筋の光となって泳いでいたのだ。
そこはとてもゆったりとしていて落ち着くところだった。
「んーどういうことだろうね」
それを聞いてもなんとも曖昧な感想しか抱けなかった二人は、どうしようかと考えて、結論を出すのはまだ早いと言うことで落ち着いた。
ニナギは顔に赤みの戻ったナユタに手を差し出し、ナユタはそれをとって立ち上がる。土を払い、払い残しは無いかと確認する姿を見て、安堵した。
大丈夫そうだ。
倒れたことは心配だし、不安でもあるが、本人が倒れる前よりもすっきりとした顔をしているから病気とかではないんだろう。断片的ではあるが、記憶らしきものが戻った衝撃でふらついたのでは無いかと思う。
一応従兄には報告と相談ぐらいはしても良いなと考えて、続いている儀式を見やった。
***
鎮めの儀式が終った後、山から降りてちょうど見かけたシュウに今日のことを報告しておいた。シュウは難しい顔をして、しばらくナユタのことを観察していたが、特に異常は見当たらないし、山も自力で降りてきたと聞いて、問題ないのではないかと言っていた。
シュウから言質はとれたので、憚ることはない。ニナギは気分転換にと自分のお気に入りの場所を紹介するために、ナユタの手を引いた。
モヤモヤするときは景色のいい場所で休むに限る。
ニナギの家から、奥の木立に分け入って、獣道を行くことしばらく。途中からあぶないからと言われ、引いていた手は離したが、後ろからやってくるナユタを何回も振り返って進んでいたので、予想以上に時間が掛かってしまった。
「そろそろだよ」
そこは小さな岩場になっている。周りに木々は無く、山の裾野を一望できた。
眼下に広がる緑の絨毯を見やる。夏だけは霧が晴れて山の緑が綺麗に見えるのだ。よく晴れた日には今みたいにどこまでも広がる大地と、突き抜けるような青い空が見える。
木に阻まれない空は、本当にどこまでも見ることができる。
「すごいな」
思わず感嘆の声を漏らしたナユタに、ニナギはそうだろうと胸を張った。
「ここは道らしい道はないから、里の人はほとんどこないんだよ」
ニナギはここが一番好きだった。悩んだ時は良くここに来る。父に叱られた時、従兄に追いつけないかもしれないと不安になった時。ごく最近だと、舞手に選ばれたはいいものの、本当に自分が務めてもいいものかとうだうだ悩んでいたらなんとなく足がここに向かっていたなんてこともあった。
あれはまだ霧開きの儀式の前だったから、山裾一面を白いもやが覆っていたんだった。
そんなことを考えながら、一番大きな岩の上にナユタを案内する。下は崖になっていて、落ちたらひとたまりもないけれど、ここに座っていると自分が空の中に浮かんでいるような錯覚を受けて自分の悩みなんてちっぽけなものなんだって自分なりに消化する切っ掛けになるのだった。よく楽観的だと言われるニナギだが、どうでもいいようなことで悩むこともある。
「やあ、ニナギじゃん」
誰も居ないと思っていた岩の上には先客が居た。膝を立ててくつろぐシーラが首だけをこちらに向けていた。
「シーラ、来てたんだ」
ここには里の者は来ないけれど、いつの間に見つかったのか、シーラだけは場所を知っていた。教えたわけではないのにだ。
岩の向こう側を覗きやると、ネルーがゆったりと羽繕いをしている。ニナギに気づいてキュエッと啼いた。
何でも、この場所は木々がないから空からは丸わかりなんだそうだ。
「今日はどうしてここに?」
「ちょっとネルーの気分転換にかな。地上ばっかりだとネルーが退屈だから飛んでたんだ。今は休憩中」
「へー」
「なにそれ気のない返事」
水筒を傾けているシーラを見ていると、紙にくるまれた干し桃を渡された。食べて良いらしい。
ナユタにも一つあげて、自分もと口に放り込む。
「おいしい」
思わずといったふうにつぶやいたのはナユタだった。表情はまだまだ少ないが、目の輝きを見ると存外にわかりやすい。
「ナユタはそれが好きなんだね」
「好き? よくわからないが、もう一度食べたいとは思う」
「そう。それが好きって事だよ。食べ物ならもう一度食べたい。人ならまた会いたいとかね」
難しい顔をしているナユタに笑う。
好きな物が一つでもあると楽しいと、ニナギは思う。嫌なことがいっぱいあっても、ふとした瞬間になんとなくでも好きだなーと思えるものがあると、乗り越えられる。ニナギが特別楽観的だと言うわけではない。そうやって自分の中で調節しているものだ。
「他に好きなものがあったら教えてよ、ナユタ。見つからなかったら一緒に探すよ」
「ニナギは何が好きなんだ?」
「俺? 俺はね、色々好きなものがあるよ。この干し桃も好きだし、他の果物も好き。家族も好きだし、里のみんなも好き」
「たくさんだな」
「そうだね」
ナユタの瞳は少し揺れている。何を考えているのだろうか。ニナギにはわからない。
シーラが口を開いた。
「そういえば、不躾かもしれないけれど。ニナギはこの里から離れたいと思ったことはないの?」
「どうして?」
思わぬ問いに、ニナギは首をかしげる。シーラはもう一粒干し桃をつまむと右手でいじる。
「だって、里の人はここから出られないだろう? 閉じ込められているみたいに感じないのかなって」
「うーん、確かにね。そういう考え方がないわけじゃないけれど、おれはずっと父さんや兄さんを見てきたからかなあ、あんまりそういうことは考えたことがないよ」
「そういうもんかな」
「それに、母さんが慈しんできた土地だ」
ニナギの母は山の声を聞くのが得意だった。いつも笑って教えてくれた。小さな声に耳を傾けることが自分の役割で、他の人に届けられることが喜びだと。
母は言った。声が聞こえない者に届ける事は、誰かと誰かをつなげる事だと。
「きちんと耳をすませば、ニナギにもきこえるわ。いつかあなたが繋げてあげなさい」
そう言われたのを覚えている。
「里のことは、霧だとか、儀式だとかいろいろあるけど、ずっとここで暮らしてきたし、かけがえのない場所なんだ。強要するわけじゃないけど、ナユタも里のこと好きになって欲しいって思うよ。俺が良いところ紹介するからさ」
にっと笑いかけたニナギにナユタは困惑したように頷いた。
「この里ってはっきり言って変だもんねー」
「変言うな鳥大好き一族」
「褒め言葉ですー」
さっきほども同じようなやりとりをしたというのに、何度でもできる。
「暴れ龍だとか本当のことだとしても何年も昔の話だよね」
シーラがふと思いついたようにそう言葉にした。
「だねぇ」
ニナギは相槌を返す。少なくと百年単位で昔の話だ。
「うちの父親がそういうこと好きでいろいろ調べてた時期があったけど、昔災いとして恐れられたものも、正しく祀れば良いものに変わっていくもんなんだって」
「へーそんな話もあるんだ」
シーラの父親は、シーラもニナギもまだ小さい頃この里によく来ていた。彼らの一族はその機動性を生かして物を運ぶ仕事をしている。商人としての仕事はその一環で、他にも手紙を運んだり、小包を運んだりといった運送の様な仕事から、頼まれれば人を運んだりもする。
シーラが一人で仕事をできるようになるまでは、よく一緒に来ていたものだ。だからニナギとも面識があった。
強面だが、とても優しく、昔語りが大好きで、いろんな話を知っていた。
「真偽は別として、この里って伝承とか伝統とかないがしろにしないでちゃんとやってるから、案外暴れ龍も龍神様に変わっているかもね」
「俺もあんまり深刻に考えたことはないけど、シーラも大概だよね」
「何それ、貶してる?」
「褒めてるんだよ」
納得いかない表情をするシーラを見やって、そう言った。悪しき龍なんてもう居ないならどれだけ良いだろう。そうなると儀式などの伝統はなくなってしまうかもしれないが、結界なんて張らなくても里は守れるはずだ。
霧などない景色を、いつも見られるようになるのだろう。そうなればそうなったで寂しいような気はする。
ふと空を見上げると、太陽が沈み始めたのが、青色にうっすらと橙色が混ざり始めていた。もう少し時間が経てばもっと空の境目がはっきりしてくるだろう。横から差し込む太陽に、空に浮かぶ雲も、橙色と灰色にはっきりと影が浮き出る。
「空の色が変わっていく」
そうか、ナユタはまじまじと空を見るのは初めてだったのか。ふらっと立ち上がったナユタが、少しでも近くで見ようとしたのか、岩の先の方に歩いて行く。ぼーっと空を見ながら歩いているのに、嫌な予感がした。
大岩の先端は高い崖になっているのだ。
「ナユタ足下!」
叫びながらニナギは走った。手元をみて干し桃を口に運んでいたシーラも、ニナギの大きな声で状況に気づいたようだった。
ナユタが踏み出した先は空だった。
社の前ではまじないが続けられていて、他の男たちもそれに続いて同じまじないを復唱しているから、騒ぎになって儀式が中断するという事は無かったが、突然意識のなくなったナユタは心配だ。とりあえず、近くの木の根元に寄りかからせて、様子を見た。
こうして意識のないナユタを見ていると、彼を拾った時のことを思い出す。
倒れる前、胸を押さえていたような気がするから、何か病気でもと心配になるが、自分では何の知識も無いので、どうすることもできない。それにこういう場合、おいそれと動かしても良いものだろうか。
握った手が温かいことに安堵した。
ニナギの心配を余所に、ナユタは幾ばくもせずに目を覚ました。
「あれ、……」
「気がついた? 倒れたんだ。儀式はまだ続いているからそんなには経ってないよ」
「そうか」
まだぼんやりとするナユタをニナギは覚醒するまで辛抱強く待つ。
「夢かな? どこかに、いた、ような」
「何か思い出した?」
「いや、でもよくわからない。蒼いところでゆっくりと、泳いでいた」
「泳いでた? 川のことかな」
首を捻るニナギに、ナユタは首を振る。川ではなかったような気がする。
一面に蒼が広がる世界。ナユタはその中を一筋の光となって泳いでいたのだ。
そこはとてもゆったりとしていて落ち着くところだった。
「んーどういうことだろうね」
それを聞いてもなんとも曖昧な感想しか抱けなかった二人は、どうしようかと考えて、結論を出すのはまだ早いと言うことで落ち着いた。
ニナギは顔に赤みの戻ったナユタに手を差し出し、ナユタはそれをとって立ち上がる。土を払い、払い残しは無いかと確認する姿を見て、安堵した。
大丈夫そうだ。
倒れたことは心配だし、不安でもあるが、本人が倒れる前よりもすっきりとした顔をしているから病気とかではないんだろう。断片的ではあるが、記憶らしきものが戻った衝撃でふらついたのでは無いかと思う。
一応従兄には報告と相談ぐらいはしても良いなと考えて、続いている儀式を見やった。
***
鎮めの儀式が終った後、山から降りてちょうど見かけたシュウに今日のことを報告しておいた。シュウは難しい顔をして、しばらくナユタのことを観察していたが、特に異常は見当たらないし、山も自力で降りてきたと聞いて、問題ないのではないかと言っていた。
シュウから言質はとれたので、憚ることはない。ニナギは気分転換にと自分のお気に入りの場所を紹介するために、ナユタの手を引いた。
モヤモヤするときは景色のいい場所で休むに限る。
ニナギの家から、奥の木立に分け入って、獣道を行くことしばらく。途中からあぶないからと言われ、引いていた手は離したが、後ろからやってくるナユタを何回も振り返って進んでいたので、予想以上に時間が掛かってしまった。
「そろそろだよ」
そこは小さな岩場になっている。周りに木々は無く、山の裾野を一望できた。
眼下に広がる緑の絨毯を見やる。夏だけは霧が晴れて山の緑が綺麗に見えるのだ。よく晴れた日には今みたいにどこまでも広がる大地と、突き抜けるような青い空が見える。
木に阻まれない空は、本当にどこまでも見ることができる。
「すごいな」
思わず感嘆の声を漏らしたナユタに、ニナギはそうだろうと胸を張った。
「ここは道らしい道はないから、里の人はほとんどこないんだよ」
ニナギはここが一番好きだった。悩んだ時は良くここに来る。父に叱られた時、従兄に追いつけないかもしれないと不安になった時。ごく最近だと、舞手に選ばれたはいいものの、本当に自分が務めてもいいものかとうだうだ悩んでいたらなんとなく足がここに向かっていたなんてこともあった。
あれはまだ霧開きの儀式の前だったから、山裾一面を白いもやが覆っていたんだった。
そんなことを考えながら、一番大きな岩の上にナユタを案内する。下は崖になっていて、落ちたらひとたまりもないけれど、ここに座っていると自分が空の中に浮かんでいるような錯覚を受けて自分の悩みなんてちっぽけなものなんだって自分なりに消化する切っ掛けになるのだった。よく楽観的だと言われるニナギだが、どうでもいいようなことで悩むこともある。
「やあ、ニナギじゃん」
誰も居ないと思っていた岩の上には先客が居た。膝を立ててくつろぐシーラが首だけをこちらに向けていた。
「シーラ、来てたんだ」
ここには里の者は来ないけれど、いつの間に見つかったのか、シーラだけは場所を知っていた。教えたわけではないのにだ。
岩の向こう側を覗きやると、ネルーがゆったりと羽繕いをしている。ニナギに気づいてキュエッと啼いた。
何でも、この場所は木々がないから空からは丸わかりなんだそうだ。
「今日はどうしてここに?」
「ちょっとネルーの気分転換にかな。地上ばっかりだとネルーが退屈だから飛んでたんだ。今は休憩中」
「へー」
「なにそれ気のない返事」
水筒を傾けているシーラを見ていると、紙にくるまれた干し桃を渡された。食べて良いらしい。
ナユタにも一つあげて、自分もと口に放り込む。
「おいしい」
思わずといったふうにつぶやいたのはナユタだった。表情はまだまだ少ないが、目の輝きを見ると存外にわかりやすい。
「ナユタはそれが好きなんだね」
「好き? よくわからないが、もう一度食べたいとは思う」
「そう。それが好きって事だよ。食べ物ならもう一度食べたい。人ならまた会いたいとかね」
難しい顔をしているナユタに笑う。
好きな物が一つでもあると楽しいと、ニナギは思う。嫌なことがいっぱいあっても、ふとした瞬間になんとなくでも好きだなーと思えるものがあると、乗り越えられる。ニナギが特別楽観的だと言うわけではない。そうやって自分の中で調節しているものだ。
「他に好きなものがあったら教えてよ、ナユタ。見つからなかったら一緒に探すよ」
「ニナギは何が好きなんだ?」
「俺? 俺はね、色々好きなものがあるよ。この干し桃も好きだし、他の果物も好き。家族も好きだし、里のみんなも好き」
「たくさんだな」
「そうだね」
ナユタの瞳は少し揺れている。何を考えているのだろうか。ニナギにはわからない。
シーラが口を開いた。
「そういえば、不躾かもしれないけれど。ニナギはこの里から離れたいと思ったことはないの?」
「どうして?」
思わぬ問いに、ニナギは首をかしげる。シーラはもう一粒干し桃をつまむと右手でいじる。
「だって、里の人はここから出られないだろう? 閉じ込められているみたいに感じないのかなって」
「うーん、確かにね。そういう考え方がないわけじゃないけれど、おれはずっと父さんや兄さんを見てきたからかなあ、あんまりそういうことは考えたことがないよ」
「そういうもんかな」
「それに、母さんが慈しんできた土地だ」
ニナギの母は山の声を聞くのが得意だった。いつも笑って教えてくれた。小さな声に耳を傾けることが自分の役割で、他の人に届けられることが喜びだと。
母は言った。声が聞こえない者に届ける事は、誰かと誰かをつなげる事だと。
「きちんと耳をすませば、ニナギにもきこえるわ。いつかあなたが繋げてあげなさい」
そう言われたのを覚えている。
「里のことは、霧だとか、儀式だとかいろいろあるけど、ずっとここで暮らしてきたし、かけがえのない場所なんだ。強要するわけじゃないけど、ナユタも里のこと好きになって欲しいって思うよ。俺が良いところ紹介するからさ」
にっと笑いかけたニナギにナユタは困惑したように頷いた。
「この里ってはっきり言って変だもんねー」
「変言うな鳥大好き一族」
「褒め言葉ですー」
さっきほども同じようなやりとりをしたというのに、何度でもできる。
「暴れ龍だとか本当のことだとしても何年も昔の話だよね」
シーラがふと思いついたようにそう言葉にした。
「だねぇ」
ニナギは相槌を返す。少なくと百年単位で昔の話だ。
「うちの父親がそういうこと好きでいろいろ調べてた時期があったけど、昔災いとして恐れられたものも、正しく祀れば良いものに変わっていくもんなんだって」
「へーそんな話もあるんだ」
シーラの父親は、シーラもニナギもまだ小さい頃この里によく来ていた。彼らの一族はその機動性を生かして物を運ぶ仕事をしている。商人としての仕事はその一環で、他にも手紙を運んだり、小包を運んだりといった運送の様な仕事から、頼まれれば人を運んだりもする。
シーラが一人で仕事をできるようになるまでは、よく一緒に来ていたものだ。だからニナギとも面識があった。
強面だが、とても優しく、昔語りが大好きで、いろんな話を知っていた。
「真偽は別として、この里って伝承とか伝統とかないがしろにしないでちゃんとやってるから、案外暴れ龍も龍神様に変わっているかもね」
「俺もあんまり深刻に考えたことはないけど、シーラも大概だよね」
「何それ、貶してる?」
「褒めてるんだよ」
納得いかない表情をするシーラを見やって、そう言った。悪しき龍なんてもう居ないならどれだけ良いだろう。そうなると儀式などの伝統はなくなってしまうかもしれないが、結界なんて張らなくても里は守れるはずだ。
霧などない景色を、いつも見られるようになるのだろう。そうなればそうなったで寂しいような気はする。
ふと空を見上げると、太陽が沈み始めたのが、青色にうっすらと橙色が混ざり始めていた。もう少し時間が経てばもっと空の境目がはっきりしてくるだろう。横から差し込む太陽に、空に浮かぶ雲も、橙色と灰色にはっきりと影が浮き出る。
「空の色が変わっていく」
そうか、ナユタはまじまじと空を見るのは初めてだったのか。ふらっと立ち上がったナユタが、少しでも近くで見ようとしたのか、岩の先の方に歩いて行く。ぼーっと空を見ながら歩いているのに、嫌な予感がした。
大岩の先端は高い崖になっているのだ。
「ナユタ足下!」
叫びながらニナギは走った。手元をみて干し桃を口に運んでいたシーラも、ニナギの大きな声で状況に気づいたようだった。
ナユタが踏み出した先は空だった。
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