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第4章 ルーベルト王国王都

第二十九話 お風呂の沸かし方①

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 侍女が淹れてくれた紅茶を飲みながら待つこと数分、遂に魔術師がやって来た。
「ユーナ様、もうしばらくお待ちを。すぐに湯を張ってまいりますので。魔術師殿、すぐに湯を沸かしてくださいな。さぁ、こちらに」
 侍女が魔術師を風呂場に案内する。
 魔術師はローブを羽織っているにも関わらず、自身の長い髪を今にも踏んづけそうだった。
 声からして女性だとわかったが、いくらなんでも長すぎる。見ているこっちが転ばないかひやひやしてしまう。
 結菜はカップに残っている紅茶をくいっと一気に飲み干し、二人の後を付いて行った。
 どうしてお風呂の湯を沸かすのに魔術師が必要なのか、気になってしょうがない。
「ユ、ユーナ様‼どうしてこちらに‼大丈夫ですからどうかあちらでもうしばらくお待ちを、」
「あっ、気にしないで。どうやってお湯を沸かすのかちょっと気になっただけだからさ」
 侍女に安心するようにと笑いかける結菜。
「そう、ですか。わかりました。どうか濡れないようにお気を付けくださいませ」
 しぶしぶではあるが侍女は結菜も一緒に風呂場に案内した。
 風呂場に着くと、魔術師は空の浴槽に向かって手をかざした。
 王宮の貴賓室の風呂場ともあって、湯船は軽く十人入れるくらい大きい。
「ユーナ様、これ以上は前に出ないでくださいませ。濡れてしまいます」
 侍女がストップをかける。結菜は大人しくそこから見守ることにした。
 魔術師が短い呪文を唱える。

―ウォーターボール…………―

 大きな水の塊が空中に湧き出す。塊は球状になって、どんどん大きくなっていく。
 流石魔術師と言われるだけある。苦もなくウォーターボールを出した。
 結菜はおぉ~、と感嘆した。
 さてこれからどうするのだろうかと思っていると、突然魔術師はその水の塊を空の浴槽に思いっきり投入した。………もう一度言おう。思いっきり投入したのである‼
 飛び散る水しぶき。近くにいる魔術師はもうびしゃびしゃである。
 もちろん結菜は侍女がさっと庇ったため、全然濡れてない。
 続いて魔術師はまた短く呪文を唱え始めた。

―ファイアボール…………―

 渦巻く大きな炎の塊が出現する。
 魔術師は一切躊躇うことなく冷水の入っている湯船に、炎の塊を投入した。さらに飛び散る水しぶき。
 侍女がまたさっと結菜を庇った。
 浴槽の中の水は、だんだんいい感じに沸騰してきてぐつぐついっている。おいおい……。
「ちょっと待って。これじゃあ入れないんだけど」
「大丈夫です。今からいい湯加減にしてくださいますから」
 侍女がにっこりと笑いかける。ふぅんと納得する結菜。結菜は魔術師の方に視線を戻した。
 その間も魔術師はまた短い呪文を唱え始めている。 

―ウォーターボール…………―

 また大きな水の塊が湧き出てくる。ドボンッ。
 魔術師はさらにそれを思いっきり熱湯に向かって投入した。さらに飛び散る水しぶき。
 もう浴槽の周りは水浸しである。……もちろん魔術師も。
 ……熱くないのかな?結菜はちょっと心配になってきた。本当に大丈夫なのだろうか……?
 とりあえず、お風呂は完成したようだ。待ち望んでいたお風呂にわくわくしてしまう。
 しかし、もう濡れないはずなのに侍女がまた結菜の前に立った。
(あれ?何でだろ?)
 さり気なく結菜の前に侍女は立ったが、それに気づいてしまった結菜は不思議に思ってしまった。
 侍女に気づかれないようにちょっと顔を傾ける。向こう側をちらりと見てみると、結菜は見てしまった。……見てしまったのである。


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