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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~
楽園に残された少女3
しおりを挟む結局俺はシエラに対して、今の自分が知りたいと考えている情報を、直球で尋ねてみることにした。
別にシエラ自身が話をしたくなければ、それはそれで構わない。実際、こうしてのんびりとしていられる時間も限られており、これ以上遠回りな内容の会話を、続けている余裕は無いというのが実情だ。
何よりそんな事をしていては、日が暮れてしまう以前に、この世界が終わりを迎えてしまうだろう。
「・・・・・・そう・・・・・・ですか。そうですよね。だって本来いるはずのない、貴方たち二人がここにいる。だからなんとなくですけど私、そのことについて聞かれてしまうのは、分かっていました」
「何故そう思う?もしかしたら私たちは、お前と同じこの世界に住まう、他の都市の生き残りかもしれないぞ?」
「それだけは絶対にありえません。この世界に現存している、全ての都市の情報は、常に私の元にリアルタイムで入ってきますから。
貴方たちの生体反応は、こうして私の目の前で話をしている今も、検知することが出来ません。だから“魔法使い”という貴方の言葉・・・・・・非科学的な存在を、私は信じてみることにしました」
シエラの答えに対して、クロエは「そうか・・・・・・」と一言だけ呟き、テーブルの上に置かれていた、コップの中身を一気に飲み干す。
「この紅茶・・・・・・私が今も口にしている、飴菓子もそうだ。かなりの貴重品なのだろう?それもお前個人としてではなく、この場所以外の都市に住んでいた、他の人類全てにとってな」
「はい。だってここは、この世界に残された最後の楽園ですから。私以外の人間が、簡単に入ってこれないように、防御シールドの外側には迷彩を。表面には電波妨害用の、抑制装置が取り付けてあります。
食料類に関しては、以前私がいた研究所から移動してくる際に、運べる分だけ勝手に持ってきました」
「なるほど・・・・・・そういえば、そこにいる愉快なロボットを、一から作り上げたのもお前だったな。具体的にはどういった研究を対象に?」
「私にとってそのようなものはありません。あえて言葉に表すなら――――全てです。遺伝子系から病気や怪我。プログラムや機械などのマシンの設計。新たな人口エネルギーの開発と研究。
この世界の人類が保有していた最新技術の基盤は、全て私が生み出した初期構想によるもの・・・・・・またはその派生です」
シエラは何でもないことのように話すが、それはかなり凄いことではないだろうか?
つまり今の話が真実だとすれば、俺たちが最初に見た人類居住都市も、この緑と青で四方を囲われた楽園も、全てシエラが造り出したもの、ということになる。
「にわかには信じがたい話だが・・・・・・まあいい。とりあえず一旦、話を聞こうじゃないか。
――――当然、聞かせてくれるんだろう?そのつもりで、こうしてわざわざ紅茶まで用意して、我々をもてなしてくれたと、考えているのだが」
「そう・・・・・・なのか?俺はてっきり――――」
あまり話したくないものだと・・・・・・そう勝手に考え込んでしまっていた。
クロエは最初から全て分かっていたようで、こうして先程から呑気に構えていられるのも、その辺りの事情が影響しているのだろう。
『おい、シエラ。別に無理して話さなくてもいいんだぜ?お前は十分頑張ったんだ。だから最後の時ぐらい、安らかな気持ちでいてもらわないと・・・・・・お前自身が、報われねえじゃねえか・・・・・・』
「うん・・・・・・ありがとロコ君。でもこれは私なりの――――これまで重ね上げてきた、自分の罪に対する贖罪だから。だから話す・・・・・・いや、話さなくちゃいけないの。
この世界で起きてしまったことを全て。それをこの人たちに伝えるのが・・・・・・きっと今の私に残された、最後の役目だと思うから」
心配そうな声色で頭上を旋回する、機械のロコに対して、シエラは自らの意思を声に出して伝える。
「では・・・・・・お話しします。この世界で起きてしまったこと全てを。私が犯した、取り返しのつかない過ちを・・・・・・過去を」
シエラからただならぬ気配を感じ取った俺は、思わず自分の膝上を握りしめながら、全身を使って身構えてしまう。
果たして今のシエラの口からは、どのような真実が語られるのだろうか。
もうこの世界の消失まで残された時間は、ほんの僅かなものである。
俺とクロエの、二人の前に現れた世界の謎。
その全ての答え合わせとなる、少女にとっての贖罪の物語が始まった――――。
*****
今から十年前。この惑星の大気はまだ、人類にとって有害なものではありませんでした。
当時は国という巨大なシステムが、問題なく機能しており、人々は何一つ不自由のない、普通の日常生活を謳歌する。それが当たり前のことであり、誰一人としてそのありようを、疑うことなどありませんでした。
有害な廃棄ガスを空気中に排出し、汚染水を地下へ垂れ流し、土地の開拓のために森林伐採を進めていく。
人類が摂取するための食料類――――端的に言うと消耗品などは、常に消費しきれない程に有り余っており、過度な生産体制の行く末は、廃棄や埋め立てといった最悪の手段に、頼らざるを得なくなった――――というのが現実です。
便利な暮らしというものは総じて、私たち人類の目を盲目にさせてしまう。
誰も不便な生活など送りたくもないですし、自ら貧乏くじを選んで引こうとする人なんて・・・・・・余程の変人か、もしくはただの理想主義者です。
もしも本当に何かを大きく変えたいならば、それに伴った行動や明確な解決策を、世論に対して示さなければならない。そう・・・・・・私の両親たちがした事と同じように――――。
私の両親は父と母、二人とも共に優秀な研究者でした。
専門はエネルギー系。リスクが大きく危険なエネルギー開発事業を、プロジェクトとして率先的に立ち上げ、長年の研究成果によって判明した、私たちが住む惑星の寿命を、世界全体に向けて公表したのです。
――――惑星の崩壊まで人類に残された時間、およそ二百三十年。
普通ならこんな突拍子もない発表を、個人が世間に対しておこなったところで、誰も真に受けないというのが常ですが・・・・・・私の両親たちの時は、少し違う反応が起きました。
優秀な研究者――――両親たちに対するその評価は、国内だけではなく、海外の様々な研究機関や、科学者たちの間にまで広がっていました。
父や母がこれまで世間に対して発表してきた、論文や研究成果が、世界中にいる全ての人々に認められた。本来であれば、それは非常に喜ばしいことなのかもしれません。
でもそのせいで私の両親は・・・・・・かけがえのない大切な人たちは、とてつもなく大きな重みと責任を、背負わされてしまう事になるのです。
人類救済プロジェクト――――その笑えるくらい自己主張の激しい、実にふざけた名称を付けたのは、当時の国連に出席していた、世界各国の大臣たちだと聞かされています。
”我々人類こそがこの一連の事件に関する、惑星最大の被害者であり当事者でもある”――――国連が発表したこの言葉を、何も考えず素直に受け入れた人々は、その不安や恐怖から沸き上がってくる感情を、目に見えない凶器へ変換して、私の両親たちに対してぶつけていったのです。
プロジェクトリーダーに揃って任命された私の両親――――父と母の二人は、国連が用意した研究所の中に、籠りきりとなってしまいました。
言ってしまえば、それは監禁に等しい行為です。
“お前たちが発見した問題だ。だからお前たちで正しい解決策を示せ”と。
協力性なんて・・・・・・そんなものは皆無です。ただ研究のための施設と資金を用意して、失敗すればお前たちが責任を持って償えと・・・・・・これが脅迫以外のなんだと言うのでしょうか?
あり得ないっ!なんて・・・・・・なんて自分勝手な人たちなんだろう――――。
けれども私の両親は、そんな己の保身のことしか頭にない人たちに従って、ただひたすらに、惑星を救うための研究を続けていきました。
「――――私たちはね。この惑星を、心の底から愛しているんだ」
それが父と母の・・・・・・二人が常日頃から幾度となく、よく口にしていた言葉でした。
心の底から自分たちの住むこの惑星と、そこにある世界の全てが愛しいと。例えこれから先の未来で何が起ころうとも、決してその思いが変わることは無いのだと。
当時の私はまだ幼い子供で、両親が告げた愛という言葉の意味を、よく理解できてはいませんでした。
次世代のエネルギー開発に関する重要な研究を、父と母はお互いに二人三脚で、助け合いながら続けていき、僅か二年半で誰もが認める成果を得て、国連の上層部にいた大人たちに対して提示します。
「素晴らしい」「君たちこそ我々人類にとっての救世主だ」「ご苦労、後の研究に関しては、我々が選び抜いたチームのメンバーたちで引き継ぐことにしよう」
私の両親が身を削って生み出した研究の成果と手柄を、悪い大人たちは目の前に投げ込まれた餌に飛びつくようにして、あっという間に真横から、その全てを掠め取っていってしまいます。
「だがこれで私たちの惑星は救われる。これからの未来を生きる、お前や他の子供たちに対して、最も大切となる財産を、失くすことなく引き継げるんだ」
自分たちは満足している・・・・・・と。そのように私の両親たちは喜びました。結果的に自分たちの大切なものが守れれば、その過程に対して文句を言うことなど、あるはずがないのだと。
これからは一人娘である私のために、自分たちに残された人生の全てを使い切る。それはある意味両親の、私に対する誓いの言葉でした。
「ごらんシエラ。海外にある小さな島を、父さんたちで丸々一つ買い取ったんだ。島の周りには何もないが・・・・・・そうだな、まず空気が良い。それから海の中にはお魚さんだって泳いでいる。
休日にパパと二人で、海釣りを楽しむことだって出来るんだ。それから――――」
「もう、あなたっ!そんな遠回りな説明の仕方だと、ちゃんとこの子が理解できないでしょう?
・・・・・・シエラ、よく聞きなさい。もうすぐあなたの妹が生まれてくるの。私たちにもう一人の家族が増えるのよ。
この世の――――誰の手も届かない、私たちの新しい居場所で、家族四人の幸せな生活が始まるの」
父が私に見せてくれた写真の中には、小さな島の上に建てられた、縦長の古い建造物が写されていました。
灯台として過去に機能していた、島にある建物を改装及び修繕し、私たち家族のための新たな居住先としたそうです。
その時の私は・・・・・・ただ無邪気に喜んでいました。
これからは父と母の二人と。大切な人たちとずっと一緒にいられる。しかももうすぐ母のお腹の中から、私の新しい家族が・・・・・・妹が生まれてくるのだと。
(私お姉ちゃんになるんだ!)
まるで世界の全てが私たち家族を包み込み、祝福してくれているかのように思えました。
これまで人類のために頑張ってきた両親に、ようやく訪れようとしていた、安らぎと安寧の日々。その未来が訪れることを欠片も疑わずに、幸福な感情によって満たされていた、私たち家族の元へある日の朝、一通の破滅を呼び込む手紙が届けられたのです。
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