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第六章 ゆるり旅
第169話 本屋
しおりを挟むまぁ、オークションまではまだ一週間ある。
保管場所を見つけて襲撃するのはギリギリまで待った方が良いだろう。
まだ出品予定の品が届いてない可能性もあるしな。
「って事で、オークション会場とか色々調べる事はあるけども…」
「本屋さん。早く本屋さんに行くの」
「魔道具を早く見てみたいんだぞ!」
まずは子供達のお願いを聞かなければな。
屋台巡りも楽しかったみたいだけど、本命もしっかり覚えているらしい。
「よし。とりあえずここから近い本屋から行くか」
「リストもばっちり出来てるの」
リスト? なんだそれと思ってテレサに見せてもらうと、それは影の中にある本のタイトルが全て書かれていた。
ご丁寧にこの世界の50音順みたい感じで、綺麗に纏められていて、テレサの性格が分かる仕上がりになっている。
「持ってない本は全部買ってもらうの」
「ここぞとばかりに」
抜け目ない子だな。
お金いくらあればいいんだろ。
本って結構高いんだよ?
「い、いらっしゃいませ。本日はどの様な物をお求めで?」
本屋に入ると中年のおばさんが応対してくれたけど、顔が引き攣っている。
まぁ、仮面してて怪しいしな。それでいて格好は貴族っぽいときたもんだ。
どうするのが正解なのか分からないんだろう。
「本があるのは店に出てるので全部?」
「いえ、裏にもいくらかは…」
「とりあえずそれも全部持って来てもらっていい?」
「か、かしこまりました」
「持ってない、持ってない、持ってない、持ってる、持ってない、持ってる、持ってない--」
テレサは早速とばかりに本の選別をしている。
影の中って意外と本があるんだよ。
アギャインが保管してたのもあるし、俺が要塞都市の図書館から掻っ払ったのもある。
それにたまに行く先々で、街に寄った時に商会を襲ったりすると、本が手に入る事もある。
多分影の本棚ゾーンには万を超える本があるとおもう。あそこで暇を潰そうと思ったら1年は居れるんじゃないかな。
「テレサもそんな本とか良く把握してたな」
「レト様が本を追加する度にリストは更新してるの。いざという時に何処にあるか分かると楽なの」
君は図書館の司書さんとかになれるんじゃないかな。そんな事してるなんて知りませんでしたよ。
「お、お客様…。その…既に結構なお値段になっておりますが…」
おばさんが払えるのか心配そうにこちらに声をかけてくる。
まぁ、積み上がってる本の値段だけでも結構するだろう。心配するのも分かる。
「とりあえずお金の心配はしないでくれ」
俺は影から金貨を100枚ずつ纏めてある袋をいくつか取り出しておばさんに見せる。
それを見たおばさんは露骨にホッとした表情を見せてごゆっくりどうぞと言って下がっていった。
「こんなに大量にお金使うの久々かも」
「え? 大量にお金使った事あるんですか?」
グレースさん失礼。
いつも俺が盗みばっかりしてると思ったら大間違いですよ。
あれだ。グレースと会う前に魔道具を買ったから。商業都市で。あれが一番お金使ったんじゃないかな。服を仕立てた時も、材料費とかはほとんど持ち込みだったからそんなに高くは無かったし。
「これだけお金を使っても、影にある量からすれば微々たるものなんですよね」
「未だに金貨とか整理し切れてないしな」
影の中には財貨や金銀財宝が大量にある。
日頃から盗みを頑張ってる賜物だろう。
で、時間がある時にグレースが整理してくれたりしてるんだけど、数が多すぎてまだ全部出来ていない。
影の中で雑に放置されてるんだよね。
「なんか100枚数えて袋に入れる作業が罰ゲームの様に思えてくるんですよね」
「ウェインにコイン計数機みたいなの作ってもらうか」
ってか、もっと早くに用意すべきでした。
グレースが虚無顔になってしまっている。
ごめんなさいね。
「でもいくらかはそのまま野晒しで置いておきたいよな。なんか宝物庫の中に金貨がジャラジャラと置いてあるのってロマン感じない?」
「物語のようなって事ですか? まぁ、言ってる事は理解しますが」
わがままでごめんなさいね。
だから袋に詰めるのは程々でお願いします。
俺達はこんな事ぐらいでしか、お金を使う機会なんてほとんどないしね。
「レト様。お姉ちゃん。喋ってるなら手伝って欲しいの。数が多いから手分けしてやらないと今日中に終わらないの」
俺とグレースがお金について語り合ってると、テレサがムスッとした表情で怒ってきた。
どうやら思ったよりも数が多い様子。
「はいはい。手伝いますよーって」
「では、私はこちらからやりましょう」
リストをもらって本を選別していく。
中には本当にこんな本を読むのかってのもあるけど、持ってないのはとりあえず買う。
コレクションしたいしね。
「ほう。異世界にも18禁コーナーっぽいゾーンがあるんだな」
俺がボソッと呟いて感慨深げに見ていると、グレースが素早くこっちにやってきた。
こういう事に関しては耳が良すぎる。性欲魔人め。
「これは…。なるほどなるほど。今までも少数ながらありましたが、これほどの数が揃えられてるんですね。レト様。いくつか袋を追加で出しておいて下さい」
そう言ってほとんどの本を持って行ったグレース。その辺の本はウェイン達にはまだ早いんじゃないかなぁ。
いや、今更か。教育の一環と思えば…。
ふむぅ。何が正解なのか分かりません。
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