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act40.魔女の旅立ち

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早朝。
プーシュカが目が覚めた時、頭の中に浮かんでいたのは昨日のデュシーカの言葉だった。

『アリーナ様がプーシュカ様に投げかけたお話もそうです。…プーシュカ様が今必要なことは、それらを慮る事ではないでしょうか』

そういえば、折角帝都に来ていたのに…アリーナと会話したのは最初の頃だけだった。
アリーナも遠慮したのだろう。彼女からも連絡が来なかったことに、一抹の寂しさを感じる。

「お早うございます、プーシュカ様」

デュシーカが扉を叩いて入室してくる。衣装と髪を整えに来たのだ。
表情はいつもと変わらない。…追って女中たちも入ってくる。

「お早う、デュシーカ。…ねえ、相談があるのだけど」
「あ、はい。何でしょう?」

昨日の事を引きずっていたプーシュカが遠慮がちにデュシーカを見つめるが、デュシーカは特に変わりなくしている。
「その…、今日帝都を出るまでに時間があるでしょう?少しだけ…アリーナに会いに行きたいなって思って」
デュシーカが一瞬目を見開くが、すぐにまた元に戻り…首を横に振る。
「難しいでしょう。アリーナ様にもご都合がございますし、一時を煩わせるのは如何なものかと」
「そうよね…、うん…ごめんなさい」
しゅんと気落ちするプーシュカに、デュシーカはふう、と溜息を吐いて苦笑する。
「ロスティスラブ領は皇帝領のすぐ隣です。行こうと思えばいつでも会えますよ」
「そっか…そうよね。手紙を書くわ」
安堵したように笑うプーシュカに、デュシーカが漸く笑顔を見せた。
「さ、早いところ支度してしまいましょう。プーシュカ様のご出立に合わせて、本日の朝食はうんと豪華にするよう頼んでおきましたから」
プーシュカも嬉しそうに頷き、ぴしりと一礼する。
「喜んで、在庫一掃に協力させて頂きます。…折角だから、皆で食べましょうか」

主人のその言葉に、デュシーカや女中たちが感謝するように頷いた。


その日の朝食は特例として―――エフスターフィイ上邸宅の使用人たちを”食卓に招いて”一緒に食べることにした。
この習慣は、プーシュカが上邸宅に居る間…時折秘密裏に行われていた事だが、その事はキーロフやユーリーでさえ知らない秘密の食事会だ。

エフスターフィイ上邸宅の食事は、オルラン家とほぼ同じ内容になっている。

上邸宅の管理を任されている執事・使用人たちはエフスターフィイ侯爵…プーシュカの父イヴァンから預かり任されているのだが、上邸宅を主に使うプーシュカの為に、料理番たちがいわゆる”オルラン流”に倣って出してくれている。
オルラン家上邸宅の敷地内にある事もあり、使用人たちは互いに交流がある上に、オルラン家の人間…キーロフやユーリーも頻繁に出入りしていた事から、気が付けば食事内容はオルラン流が普通になっていたのだ。
…だからこそ、エフスターフィイ家も帰省した時や、今回の交流会で出された昼食には驚愕したのだが。

とはいえオルラン流という事はとどのつまり”山盛り皿”である。
朝食はそれでもまだ量としては控えめで野菜中心なのだが、見た目よりもとにかく味と量を優先させるため、他領地の貴族に比べれば圧倒的に多い。

主人が居る間の上邸宅は、とにかく食材の確保と管理が一層厳しくなる。
更に今回は特例とはいえ、キーロフ・ユーリーの分も確保していたのだが…それすらもなかった為、大幅に余っているのだ。
それらは主人がいない間も使用人たちが消費すればいいだけの事だが、干し肉にしたり、野菜や果物を片端から全てピクルスにしていくにしても、手間と時間と人員が必要になる。

その為、有り余っている食材たちをできるだけ消費しないといけないのだ。
幼い頃より使用人としての経験を積んだプーシュカは、当然それが実際どれだけ大変な事か十分に理解している。
だからこそ、消費できるものは盛大に消費していく必要があった。

新鮮なサラダは特に、貴族階級でしかお目にかかれない。
冬が厳しい帝国では基本的に食材は長期保存用に回されるため、平民たちは干し肉・ピクルス・堅いパンが主流となる。そのまま食べるという風習は贅沢の極みだ。

その為、今朝の食事はサラダを山の様に盛り、残りはスープ、パイ、キッシュ等…非常に見栄えのいい豪華さとなっていた。

「早く召し上がって下さらないと、遅れてしまいますよ」

主人であるプーシュカが手を付けない事には、使用人たちも食べられない。
普段は決して座れない食卓に、デュシーカを始めとした上邸宅の使用人たちがずらりと並んでいた。

「この光景を目に焼き付けておきたい…。暫く食べられなくなると思うと…」
名残惜しそうに、プーシュカが食堂の様子を眺めている。
「そんな、死にに行くみたいな。社交期になればまたこちらに戻るんですから、それまでの辛抱ですよ」
「お戻りになられましたら、また腕によりをかけさせて頂きます。それに、ロスティスラブ領ではどのような食事が出されるのか、どういった持て成し方をされるのか…是非ご教示願いたく思います」
執事がそう微笑むと、プーシュカも楽しそうに頷く。
「そうね、勉強してくるわ」
使用人たちと気安く笑いあいながら、プーシュカ達は山の様に盛られた野菜を片付けていった。



「ああ、美味しかった。すっかり胃が大きくなっちゃったけど、凄く苦しい」
馬車の中で、プーシュカがお腹をさする。デュシーカが苦笑した。
「多目に食べていて正解かもしれませんよ。ご予定では、昼食はあちらでお取りになるのでしょう?」
「そうだった。卑しく思われないようにしないと」

馬車がエフスターフィイ邸…オルラン上邸宅門から出て行き、帝都を西に向かって横断していく。
普段は北門から出ていくのだが、西側は初めて通る。
とはいえ、帝都の町並みはさほど変わり映えはない。

西門には、既に何台かの馬車が止まっていた。
見たような家紋がついている。
一際大きく豪華な馬車の近くに寄せて窓を開けると、同じように窓が開いて見知った顔が現れた。

「お早う、プーシュカ。良い天気で良かったわね」
「お早う、プーシュカ。まだ時間ではないわよね?良かったら、こちらにいらっしゃいな」

馬車から、フローラとリゼタの顔が出てくる。

フローラ・アポーストロフ公爵令嬢、及びリゼタ・アポーストロフ公爵令嬢。
二人は姉妹だ。
帝国の西南にあるアポーストロフ領は海運の要所であり、魚介の産地でもある。
造船業も盛んで国内外と交流が強く、帝国公爵家の中でも重要な位置付けにある重要都市のひとつであり、保有している資金は潤沢な部類に入る。
そのアポーストロフ公爵家の姉妹もまた…非常に豪奢である。

「お早うございます、フローラ様、リゼタ様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」

プーシュカが、窓から少し大きめに頭を下げる。

姉のフローラは交流会の際、プーシュカに面と向かって対抗し…率先して嫌疑の眼差しをかけていた筆頭だった。徐々に打ち解け、わだかまりなく接してくれている。
妹のリゼタは初めからフローラほど敵対せず、寧ろ好意的だったように思う。
交流会でも、打ち合わせの為プーシュカに声を掛けたのはリゼタだった。

「ねえ、やっぱり声が少し遠いわ。こちらへいらっしゃい」
フローラからも誘われ、プーシュカはでは、と一礼して馬車を下り…それからアポーストロフ家所有の馬車に乗り込む。
4人どころか6人は乗れるだろう広々とした大きな馬車は重厚に作られており、馬車を引く馬も大きく、
数も多い。
御者の手を借りて中に入れてもらうと、プーシュカが入っても更に余裕があった。
足元に敷かれている絨毯も非常に柔らかい。

「何て凄い…こんなに立派な馬車、初めて拝見いたしました。ここだけで暮らせてしまいそうですね」
プーシュカが感嘆していると、フローラとリゼタが楽しそうにくすくすと笑う。
「大げさね。お金かけてるもの、広くて当然よ」
「流石にベッドは入らないけれどね。…ねえ、それより聞いたわ。本当なの?レトヴィザン伯も同行されるって」
リゼタが突然、プーシュカの手を取りまじまじと見つめる。
そのキラキラと輝いた目は、どこかアリーナを想起させる乙女らしさがあった。
「え?ああ、ええと…はい。その様ですね」
プーシュカが頷くと、フローラと二人できゃあー!と黄色い悲鳴を上げて顔を見合わせていた。
「あの、何か…?」
「やっぱり!あのね、夕べから二人で話していたのだけれど…もしかしてレトヴィザン伯は、貴女の事が気になってるんじゃないかと思うの!」
リゼタがむふふ、と可愛らしい顔をにやけさせている。
「昨夜の貴女たちのワルツ、本当にぴったりという感じだったじゃない?それに、あの内気な妖精伯があんなに率先して誰かを庇うなんて姿、初めて見たもの」
フローラも楽しそうに…だがどこかからかうような調子で微笑んでいる。
「今まで本当に…誰に対しても、必要以上に肩入れしない方だったのよ。あんなに楽しそうにしている姿も初めて。一体どんな魔法を使ったの?それとも、惚れ薬か何か調合しているの?」
「私も聞きたいわ。素敵な殿方の落とし方、伝授して頂けないかしら」
二人でプーシュカの前にずい、と顔を突き合わせる。
その威圧に萎縮しながら、プーシュカは苦笑して両手を挙げた。
「誤解を解いて…誠意を持ってお話をしただけですよ」
「誠意、ねぇ」
フローラがやや疑わしげな眼でプーシュカを見る。
「貴女、見た目通りに淡々としているようで意外と抜けているから、男なんて皆そこでコロッと騙されそうよね。美人は得よね」
棘を含んだようなフローラの言葉だが、そこに悪意がない事はプーシュカも…交流会を経た今ならわかる。
「フローラ様もお綺麗でいらっしゃいますのに」
「貴女のそれはただの嫌味にしか取られないから気を付けなさい。余計印象悪くするわよ」
「フローラったら。…交流会でもそうだったけど、姉がごめんなさいね。こういう物言いしかできないの」
リゼタが苦笑するので、プーシュカは首を横に振って笑う。
「いえ。フローラ様は寧ろ、聞いていて気持ちが良いくらいです。私の為を思って仰って下さっているんだなあ、って思いますから。…すれ違いざまに受ける陰口とは違います」
フローラがふん、と不快そうに鼻を鳴らし、リゼタが安堵したように微笑む。
「昨夜もそうだったけれど、ああいうの、本当に嫌い。言いたいことがあるなら面と向かって言えばいいのに。…これだから、宮廷派閥は陰湿で嫌なのよね」
顔合わせの際…実際に令嬢達の前で、面と向かってプーシュカに嫌味まじりの小言をぶつけてきたフローラが言うとなると、その説得力の重みが違う。
「何かにつけて誰かの陰口、悪口、妬み嫉みの見栄っ張り。…あんなつまらない連中と付き合う位なら魔女と付き合う方が余程ましだわ」
「ありがとうございます、フローラ様」
頭を下げるプーシュカに、更にふん、とフローラが鼻を鳴らす。
「貴女も、黙って自分一人で耐えてればいいなんて傲慢な考えは止めなさいね。あの時…勿論、発端の馬鹿貴族達が一番悪いけれど、だからといって貴女があの場で馬鹿みたいに一人でくるくる踊ってる事なんてなかったのよ」
フローラの言葉に、プーシュカが目を丸くする。
「私、貴女にも腹が立って仕方なかったわ。いつまでも笑われている必要なんてないでしょう。さっさと大手を振って、輪から抜ければ良かったのよ。パーヴェル殿下のご差配があったから良かったけれど…私たちだって見ていて凄く嫌だったわ」
言われてみれば、とプーシュカが感心する。
「貴女が黙って耐えていれば誰かが助けてくれるなんて、…そんなおとぎ話の悲劇のヒロイン気取っているのは構わないけれど。それはつまり、他の誰かが貴女の為に常に気を配ることを強要しているようなものよ。傲慢以外の何物でもないでしょう?」
「フローラ、それはちょっと言い過ぎよ」
リゼタが窘めるも、フローラはきっとリゼタとプーシュカを睨みつける。
「言わないと解らないわよ。今まではオルラン兄弟に大切に守られてきた貴女だからそれが当たり前だったのでしょうけれど。それこそシェルシェン様のように、守られて当然の身分の方とは違うんだから、もう少し自分の意思をはっきりと出しなさい。見ていて苛々するのよ、あれ」
「…ありがとうございます、フローラ様」
プーシュカはまた一礼する。
「仰る通りです。…確かに、あの時の私は自分が耐えれば済む話だと…そう思っておりました。今までずっと、そのやり方しか知りませんでした」
「そうでしょうね。でも、貴女はシェルシェン様…帝国一の宝石のトイカロットになるのよ。貴女がシェルシェン様をお支えし、お守りするの。…次にあんなみっともない真似をしたら、私が行ってその真っ白な頬を叩いてやるから覚悟しておくようにね」

下げている頭がまた一段と下がる。
確かに、フローラの言っている事は正論だ。返す言葉もない。
例え心はオルランにあっても…これからはシェルシェンの臣下となるのだ。
その心構えについて…振る舞いについては、何一つ考えたことがなかった。

「…ああ、丁度、シェルシェン様の馬車がいらっしゃった。そろそろ貴女も戻りなさい」
「はい。…失礼いたします、フローラ様、リゼタ様」
プーシュカが淑女の礼を取ると、フローラが頷く。リゼタも労わるように微笑んだ。
「プーシュカ、頑張ってね。私たちに出来る事があったらいつでも言ってね」
頷いて階段を下りるプーシュカに、フローラが口を開いた。
「ねえ、プーシュカ」
一拍置いて、フローラが真面目な顔をしてプーシュカを見る。
「私に面と向かって口答えが出来る子はそんなに多くないのよ。まして自分より下位の子なんてね…初対面の時の貴方のように。だから皆と同じように―――私も貴方が気に入ってるの。あれができるんだから、貴女は大丈夫よ」

そう言ってフローラは自信たっぷりに微笑む。
その力強い微笑みは彼女にとても似合っていて、心の底から綺麗だと思えた。

プーシュカも意を決した顔で微笑み返すと、フローラは満足げにふん、と鼻を鳴らして手で『下がっていい』と合図した。

やがて到着したシェルシェンとクロウンの馬車たちの前で淑女の礼を取り、自分の馬車へ乗り込む。
プーシュカの心の中に、夏の清々しい風が通り過ぎた。






一行は時折休憩をはさみつつ、緩やかに進んでいく。
牧歌的な風景が続くが、オルラン領よりもずっとせいせいとした…どこかのんびりとした空気に包まれている。

「ねえ、デュシーカ」
プーシュカが景色を眺めながら、同席している傍付きに声を掛けた。
デュシーカははい、と主人の次の言葉を待つ。
「貴女は誰かに守ってもらっていたからこそできたことが、出来なくなったらどうする?」
呟かれたその質問に、デュシーカがぽかんとする。
「…それは、例えば生活とかの話に置き換えても良い事でしょうか?」
デュシーカの身に置き換えればそれは、現在プーシュカに支える事で保障されている衣食住だ。
それはオルラン家から身分を保証され…給金を得ているからこその話であり、庇護されているともいえる。
「そうね、何でもいい。貴女だったらどうする?」
「そうですね…身一つで生計を立てるにしても、特別手に職付くような技術があるわけではないですし。私の場合は傍付きでしたから、まず伝手を探します」
「伝手?」
目を白黒とさせるプーシュカに、デュシーカは苦笑した。
「オルラン公爵家で仕えていた実績と、侯爵令嬢のお傍付きですよ?この肩書きなら、そこらの地方貴族相手なら高い給金で雇って貰えますし…相手側にしても箔がつくから利害が一致します。ですから、まずは閣下に紹介状を書いて頂きますね」
「紹介状…」
デュシーカは頷いて、また口を開く。
「伝手もまた自分の持てる力の一つです。自分に出来ない事は、誰かに頼るしかありませんから。その代わり、誰かに頼られたら、自分がしてあげればいいんです。人間、持ちつ持たれつですから」
「持ちつ…持たれつ…」
壊れた人形のようにデュシーカの言葉を繰り返すプーシュカに、デュシーカは優しく微笑んだ。
「プーシュカ様は既に、その糸口を掴んでおられますでしょう?」

プーシュカはデュシーカのなぞなぞをぼんやりと頭に浮かべながら、ただ静かに風景を見つめた。



やがて分かれ道に差し掛かり、フローラ・リゼタ令嬢達の馬車と別れ…プーシュカはシェルシェン、クロウンの馬車の後について行く形で馬車を走らせる。


それから程なくして、巨大な石壁が地面から生えているかのような関所が見えた。
非常に精巧に作られたそれは遠目でも威圧感はあるのだが、近くで見ると美しく凝られた意匠が掘られていて、目にも楽しいものとなっている。

「ここから先がロスティスラブ領ね…」

使用人が御者台から降りて、関所に届け出を出すため馬車は列に並んで止まる。
プーシュカにとってはオルラン領と帝都以外で初めて訪れる別領地となる。
もちろん、オルラン領までの道のりでは他領地の宿泊施設や修道院などを利用しているのだが、それ以外では観光目的すらなくただ寝泊りのみで通り過ぎる以外がなかった為、訪れたとは言えないでいた。

「なんだか緊張するわ」
「私もです」
デュシーカが珍しく体をそわそわとさせている。
「ロスティスラブ領は、帝国屈指の大都市を抱える領地のひとつです。特にロスティスラブ公爵直轄領であるロスティスラブ中央都市は美と芸術の街…流行の発信地なんですよ」
「へぇ」
プーシュカが感心しながら頷く。
公爵令嬢の一人、ラードゥガも”流行の最先端”と言っていたが、プーシュカ自身があまり装飾に頓着がないせいか、いまいちデュシーカの高揚に乗り切れないでいる。
だが、今までに見たシェルシェンの…その洗練された装いなどを思い出せば何となく想像がつく。
「流行の発信地って、どうやって発信するのかしら」
プーシュカの漏れた呟きに、デュシーカが信じられない馬鹿を見るような顔を浮かべる。
「あっ何その顔、腹立つ。すごく馬鹿にされてる」
「いや、だって…そんな質問、領内に入ったら絶対に仰らないで下さいよ。完全に田舎者の発想ですから。オルラン家の皆様にまで恥をかかせてしまいますよ」
「えっ、今の…そんなにダメな疑問だった?」
困惑するプーシュカに、デュシーカは小さな溜息を洩らした。
「まあ…いずれお判りになりますよ」
「何かそれはそれで腹立つなぁ…解ってるなら教えてくれればいいのに」
「いつまでも誰かに聞いている様じゃ、プーシュカ様の為にならないからです」

澄まし顔のデュシーカに、プーシュカはこいつ…という表情で睨みつける。
程なくして使用人が戻り、馬車が動き出す。
関所の大仰な門をくぐると…ばらばらだった二人の表情も感情も、一つになっていた。
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