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16.前兆

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「ええ、ええ、そうです。」
「……、はい。」
「よろしくお願いします。」
警察への電話を終えた沖奈朔任おきなさくと隊長に、
「それで?」
「何があったんです??」
そう訊かれた男性が、
「実は…。」
起きた出来事を語っていく。
 
なんでも、彼は、とある金融から10万円を借りたらしい。
クリーンなイメージだったので、これといって疑わずにいたものの、利子が十日で100万円に膨れ上がったのだそうだ。
昨夜、自宅であるアパートにチンピラどもが取り立てに来た際に、「払えないんだったら、簡単な仕事を紹介してやるよ」「こっちが指定するブツを売りさばけばいいだけだから、難しいことはない」と言われ、怪しんだ男は、隙を見て二階の窓から逃げたとの事だった。
その後、新宿のネットカフェで隠れるように過ごした本人が、今朝がた別の場所に移動しようとしていたら、探し回っていたらしい連中がハイエースを横づけしてきたので、焦って走ったところ、隈本一帆くまもとかずほたちに遭遇したとの経緯いきさつである……。
 
 

現場には、パトカーと救急車が2台ずつ到着した。
この車内にチンピラどもが乗せられていく。
沖奈に事情を伝えてもらった50代後半の男性警察が、
「成程。」
「だいたいのことは分かりました。」
「あとは、署で、彼に詳細を聞きますので、貴方がたは職務に戻っていただいて結構です。」
そう述べたのである。
「了解しました。」
「では、僕たちは、これで。」
沖奈が会釈し、これに一帆がならう。
そうして、パトロールを再開する二人であった。
 
街を歩きながら、
「間違いなく反社でしたよね。」
「私、おもいっきり骨を折ったりしてしまいましたが…、大丈夫でしょうか?」
「告訴されたり、報復されたりして、十三番隊の皆さんに迷惑を掛けてしまうのでは??」
「そうなったら、すみません。」
一帆が〝シュン〟とする。
だが、
「あまり心配ないでしょう。」
「悪いのは向こうであって、隈本さんは人助けしたにすぎないので、下手に訴える事はしませんよ、きっと。」
「それに……、もし、あの人達の仲間が襲撃してきたとしても、一丸となって抗戦しますので、何があっても問題ありませんから、そう落ち込まないでください。」
優しく微笑む沖奈に、またしても“トキメキ”が止まらなくなる一帆だった…。
 
 

AM11:00過ぎ、[事務室]へと戻って来た二人に、
「お帰りなさい。」
鐶倖々徠かなわささら副隊長と、
「おつかれっス。」
緋島早梨衣ひしまさりいが、声をかける。
「お疲れさまです。」
この場に筺健かごまさる架浦聖徒みつうらせいんとが見受けられなかったので、
「筺さんと架浦さんは、“早昼はやひる”に出たようですね。」
沖奈が尋ねたところ、
「はい。」
「架浦さんの奢りで焼肉を食べに行ったみたいです。」
「〝自分の不注意で筺さんに怪我させてしまったから、お詫びに〟みたいな感じで誘っていましたよ。」
鐶が答えた。
「架浦さんは、割と律儀ですね。」
〝ニッコリ〟する沖奈の側にて、
「この時間から焼肉ですか??」
一帆が少し意外そうにする。
「ああ、ランチタイムに安く提供してくれる店が在って、なかなか美味しいんだぜ。」
緋島に教えてもらい、
「そうなんですか。」
一帆が〝へぇー〟と納得を示した。
「それでは、お昼までデスクワークをこなすとしましょう。」
隊長に促され、
「はい。」
自分の席へと一帆が足を運ぶ……。
 
 

PM12:40頃。
筺と架浦は、事務処理に没頭している。
そこに、外食を済ませて入室した沖奈のスマホが鳴った。
「もしもし?」
「…………、ええ、本人です。」
「……はい、……はい、…………そうですか。」
「こちらとしては、上の許可が必要になりますので、一度、相談してみます。」
「後ほど折り返し電話させてください。」
「……、はい、ご苦労様です。」
通話を切った沖奈に、
「なんかトラブルでも発生しましたか??」
筺が疑問を投げかける。
「ええ、まぁ、ちょっと…。」
「お二人は、取り敢えず、仕事を続けてください。」
「全員が揃ってから説明しますので。」
こう告げて、退室する沖奈であった。
 
屋上にて。
スマホを使い、
「――――、という訳でして。」
「断ることも可能ですが、警察の方々には日ごろ協力していただいていますし、今回の件には僕も関わってしまいましたので、承諾してもらえれば幸いです。」
「…………、あー、確かに、仰る通りですね。」
「……では、現場に届けてくださいませんか?」
「バイク便とかで…。」
「……、ありがとうございます。」
沖奈が誰かと喋ったようだ。
 
 

PM12:55あたり。
隊長が、午前中に起きたチンピラとの悶着を語った流れで、〝警察から応援を要請された〟ことを、隊員達に伝えていく。
 
あれから、警察が調べたところによると、例の男らは[俟團組きせんぐみ]という反社だったらしい。
表向き優良な金融業者を装い、めちゃくちゃな利息をフッカケて、支払えない者を脅したうえで、〝危険薬物の売人バイヤーとして働かせる〟といった犯罪を重ねているのだそうだ。
そのため、警察は、令状を取り付け、〝連中を一網打尽にする〟と決めたのである。
ただ、なかには“スキル持ち”が他にもいるかもしれないので、[H.H.S.O 東京組第十三番隊]に〝同行していただきたい〟と頼んできたらしい。
警察には能力者が存在していないため〝万が一に備えて〟との理由で。
 
「俟團組って、ここ最近、歌舞伎町で幅を利かせるようになったヤツラだよな??」
架浦の質問に、
「そうなんですか?」
沖奈が首を傾げる。
このタイミングで、
「あ!」
「こないだ、意川いかわとパトロールしていた際に、喧嘩していたグループの片方が〝俟團組、舐めんなよ!!〟とかいう捨て台詞を吐いてたな。」
筺が記憶を辿った。
それに対して、鐶副隊長が、
「かなり威勢がいい人たちみたいですね。」
いささか呆れたところ、
「あぁー、…、半年ぐらい前に、新宿の郊外に拠点を構えている“漠皁組まくそうぐみ”の傘下に入ってから、やたらと威張り散らすようになったんじゃなかったっけ??」
「ちなみに、漠皁組は、関東で一大勢力を築きつつあるらしいぜ。」
架浦が補足したのである。
「よくご存じですね。」
感心する沖奈に、
「どっかの飲み屋のマスターが言ってた気がするんだが……、そんとき酔っ払ってたからイマイチ覚えてねぇや。」
こう述べる架浦だった―。
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