勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
22 / 519

【11.5話】 リリアとユニコーン ※過去の話し※

しおりを挟む
ウッソ村から山に入り北にあがると“清めの泉”がある。村からは大人の足で一時間かからないくらいの距離。山からの湧き水が絶えず溢れ、作物の育ちが良いウッソ村の生命線となっている。泉というには大きく、ちょっとした湖程度はある。その中ほどにちょうど上部が平らになり、踊り場になったような岩がある。村の人は満月の夜にはその岩にユニコーンが降り立ち水を飲むと言い伝えていた。
リリアは日中何度もその清めの泉に行ったことがある。素晴らしい景色だ。動物が水を飲みに来る。山中からゴブリンが出てきて水を汲むことがあるとも言われていたので、あまり泉の奥まで探索したことはない。リリアは絶対ユニコーンを見てみたいと思っていた。


「リリア、帰ろうよ」満月の光を浴びながら茂みでユニコーン待ちをしているリリアにショウが言った。
「ダメだよ。今日見れなかったら、次の満月は雨の季節だよ」リリアは答える。
どうしてもユニコーンを見てみたかったリリアは村の子を誘って、夕方、村を抜け出して清めの泉まで来たのだ。何人かに声をかけたると「俺も!俺も!」と名乗りを上げていたが、結局来たのはリリアとショウだけだった。
「リリア、怖くないの?」ショウが聞く。
リリアもこんな時間に山にいたことは無い。想像以上に山は不気味で怖かった。木々の間の闇は濃く、見ていると吸い込まれるようだった。リリアは満月の明かりが踊る泉の水面ばかり見つめながら、無言で頭を横に振った。
「ユニコーンは満月の夜しか来ないのよ」といいながらも、“夜“とはどの部分の夜なのだろうか、さっき夜になったばかりだが、日が上がるまでずっと”夜”なのである、リリアも不安だった。
満月の光が水面で小さく揺れている。

「なぁ、怒られるぜ」ショウが口を開いた。
「怒らせとけばいいわよ… 今戻ったって怒られるよ」当然怒られるだろう。リリアが何かに挑戦しようとするとたいてい村の誰かに怒られる。ユニコーンさえ見られればお釣りがくる。
「ショウ、武器持ってきた?」リリアは懐から果物ナイフを取り出してみせた。何かに襲われた時用に持ってきたのだ。
「俺、これ」ショウは枝を落とす小さい斧だ。
そして、十字架のペンダントを見せ合った。これで吸血系も万全だ。
「俺、これも持ってきた」そういうとショウはニンジンを出してみせた。
「…おやつ?」
「ちっがうよ。ユニコーンにやるんだよ」
「…食べやしないわよ、ユニコーンは何も食べないのよ」リリアは言う。
「そんなことあるか、食べるよ、何か食べるよ、馬のかっこうしてるんだからニンジン食べらぁ。水飲みに来るんだから何か食べらぁ」
「……」確かに、水を飲むのだから食べるか。リリアはかってに何も食べないと思っていたが、水飲むくらいだから普通に何か食べかねない。ちょっと感電蜂に刺されたような衝撃を受けた。
「俺、ニンジンあげて仲良くなったら、乗せてもらうか羽もらうんだ」ショウは得意げに言う。
「……」ニンジンあげたからって乗せてくれるだろうか?リリアには無理な気がするが、先ほどから言うショウの説も無下には出来ない気にもなる。村の嫌な大人もリリアにアメ等くれる時があるが、もらうと途端に親近感がわいてくる。母メル等はかなり高確率でご飯のおかずを分けてくれる。女神様のように見える。食べ物をあげるのは仲良くなるのに有効な気もする。
リリアは考えていたが、気になってショウに言った。
「…ユニコーン、羽ないよ。翼無いもの」
「翼あるさ、ユニコーン」ショウが強く答える。
「ないよ、それペガサスよ。あたし、幻獣百科でみたもん。ペガサスが翼、ユニコーンは角があって翼ないよ」自信を持って言うリリア。ミ・ズキシ・ゲルの幻獣百科にあったのだから確実な情報なはずだ。
「じゃ、どうやってあそこに降りるんだよ」ショウが泉の真ん中にある岩場を指さす。
「……」確かに… 飛ばないとあそこにいけない。いや、泳ぐのかな?いや、“降り立つ”というからには飛んで来るはずだ。そもそもバチャバチャしながら必死に岩場まで泳ぐくらいなら、水際で水を飲んだら良いだけだ。伝承に相応しくない。
「なくても飛ぶんだよ、翼」リリアはきっぱり言う。
「はっ!お前バカじゃねぇ。翼無いのに飛べるやついるかよぉ!」
確かに… 何か言い返してやりたいが、翼無しで飛べる動物や魔物を思いつかない。
「それでも飛ぶのよ」リリア。
「どうやって飛ぶんだよ」とショウ。
「… 血で… 飛ぶのよ…」リリアはとっさに魔法のホウキにまたがり宅配をする少女の物語にあるセリフを思い出した。
「血で飛ぶってなんだよ。血で飛べるなら俺もお前も飛べてらぁ」ショウに笑われた。悔しいがその通りだ。

「あたし達、あそこには行かないんだよ」リリアは気が付いて岩場を指さした。
「そっかぁ… そうだよね…」ショウはちょっと残念そうだった。
またしばらく静かな時間が流れ、フクロウの鳴き声が響いた。


“この話は12.5話に続くのじゃ”
そんな声がリリアの耳に届いた気がしたが、こんな森の中でそんな説明調なセリフがあるわけがないと思い、リリアは聞かなかったふりをしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...