勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【16話】 勇者の式典

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ルーダリア王国勇者リリア就任お披露目式典は進行中。リリアはよく目立つ席に座っている。
リリアは式典開始前に魔法のイヤリング着けさせられた。もの凄く珍しい。まだ使い方に不慣れだが小さな宝石から声が聞こえ、こちらの声が遠くの誰かに伝わるのだ。珍しいったらありゃしない、が、同時にどうでも良い会話も耳につくので気が散って仕方がない。
なんでもイヤリングの使い方をリリアに説明してくれた人の話によると魔法のイヤリングはアナログ1ch.で関係ないグループの会話も近くにいれば全部聞こえるらしい。リリアにはアナログなんちゃらが全然わからなかったが、とりあえず満面の笑みで説明を聞いていた。
どうやらリハーサルから変更点があるので、一通り説明はするけど、このイヤリングから指示を受けてくれというのだ。式典が始まり、今はしばらく落ち着いて座っているが、動くとなると大変だ。イヤリングからの指示はリハーサルとまるっきり違う。昨日の丸々一日は何だったのだろうか?

披露宴の間は広く、各地の有力者、貴族、皇族、その他の国賓がぎっしり招待席に座り、それぞれの従者、ガード、スタッフ等が自分たちの主人を守るべく仕事をしている。リリアは王の謁見の間で十分ではないかと思っていたが、披露宴の間でも足りないくらいだ。広間は王家のバナーと飾りで華やかに彩られている。リリアは自分の式典だが、規模が凄すぎて全く実感が沸かない。先ほどから次々と“あんた誰ですか?”って人たちがスピーチを行っている。リリアは全く聞いていない。
今、リリアは眠気と戦う以外は背筋を伸ばして椅子に座っていればいいだけだ。

リリアは先ほどからずっと背もたれの高い豪華な椅子に座ってイヤリングの会話に聞き入っている。昨日から全然寝ていない。胸とお尻が鎧でギュウギュウだが、それ以外は鎧にちょっと体を預けられる格好があり、その位置で体をぴったりと固定すると遠めからは背筋を伸ばして座っている体で居眠りができる。椅子の座り心地も最高だ。
「リリア様、お顔上げてください」あまり姿勢が悪くなるとイヤリングで呼ばれる。
「もっと笑顔で、人は第一印象」こんな事も言われる。
スタッフ同士の指示等も聞こえて式典の進行と裏方の仕事の進行が同時に理解できる、興味深い。偉い人のスピーチそっちのけで聞き入るリリア。今のところリリアを一番悩ませる指示が
「リリア様、もっと勇者らしく」の指示である。どういう事だ、何をしたらよいのか理解不能。リリアは背筋をはったり、肩を怒らせたり、大股で歩いてみたり、足を組んで座ってみたり工夫するのだが、
「違います。もっともっと、勇者らしく」と言われるのだ。何やらよくわからないので適当に聞き流していると
「リリア様、聞こえてますか?」と延々と聞き返される。しかたないので
「了解、どうぞ」っと適当に返事をするリリア。
リリアをもっとも不思議にさせるのは、全く気を抜いている時に
「そう!リリア様、今のお姿、まさに勇者」と褒められたりするのだ。いったいだれ基準なのだろうか?


式典は粛々と進み、まもなく終わろうとしている。リリアは今、居眠りもせず座って耐えている。どこかの賓客が従者から「頭を上げてください」と注意されていたのをイヤリングで聞いたのだ。目で追うと、客席の中に姿勢を慌てて正している貴族が見えた。
“眠い人自分だけじゃないのねぇ”とニヤニヤしたリリアだが、よく考えると、魔法のイヤリングを付けている人は先ほどからリリアが居眠りしているのがばれているわけだ。ちょっと恥ずかしい。

「リリア様、それではご起立されて、国王のお傍で宣言をお願いします」スタッフからの指示だ。リリアが抜き身の剣を天にかざし、自分が勇者として国と国民の平和のために尽くす宣誓をして終わるのだ。ここはリハーサル通り、もっともその時は勇者装備一式セットを身に着けてなかったが。
リリアが国王の隣に立つ、国王が閉めの挨拶を始める。
「さぁ、リリア様、自信をお持ちになって、今まででもっとも勇者らしくお振舞いを」指示がくる。リリアはタイミングを計るために国王の話に集中したいのに気が散る。
「もうちょっと国王のお傍へ」「もっとお背筋を張って、そう、もっとシャンと!」「お足をそろえて!」矢継ぎ早に指示が来る。面倒だ。
「了解、どうぞ」を連発するリリア。気がつくと会場が静まり、皆リリアに注目している。
“……なにこの間?”と思うと同時に指示が来た。
「リリア様、今です!御剣を抜いて宣誓を!」

ハっとして剣を鞘から抜いたリリア…

“……… あれ?? なんか変!”
やたら抵抗なく抜けた柄の先に剣が無い。なにこれ?どういうこと?わけが分からず動揺するリリア。急造剣で刀が抜けたのか?思ってみ鞘を覗くが刀身が見当たらない。
恐らく未完成と言っていたので防具屋が刀をつけていなかったのだ。
頭では理解できても、気持ちは動揺し続ける。これは悪夢に違いない、夢から覚めてくれ、と願いつつ何度か柄を鞘に戻して抜き差しするが、もちろん刀身は現れない。会場中の視線が痛い…

そんな事態になっているとは知らず指示が飛んで来る。
「リリア様、さぁ、早く宣誓を、御剣をかざして!!」リリアの頭は真っ白だ、大パニック。

「りょ、了解! どうぞ!」リリアは刀身の無い柄を天にかざして叫んでいた。
会場は水を打ったような静けさだった。

「リリア様、以上でお式は終わりました。お疲れさまでした」
滝のような汗をかいて固まっているリリアの耳にそんな言葉届いてきた。
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